13話「何を買うのかは秘密です」
隣の街はいつもそこそこ賑わっている。店も多い。もちろんその種類も。なので買い物したい時に訪問するにはもってこいの場所なのだ。今までにも近場で買いづらい物で買いたい物がある時にはよく行っていた。
「そういえばフリッツとここへ来るのって」
「初っすね」
「なんというか、新鮮な感じね」
なんてことのない言葉を交わしながら人の多い道を二人並んで歩く。
「で、何を買うんです?」
「秘密よ」
「ええーっ」
「あ。あそこの店。ちょっと行ってくるわ」
「ええっ」
「貴方は好きなところを見ていてちょうだい」
「もー、何ですかそれー」
今日買いたいのはフリッツへの贈り物。
何かがあったからとか何かを伝えたいからとか明確な理由があるものではないのだけれど。
ただ、いつも優しく接してくれる彼に、何でもいいから少しでもお返しになるようなものを贈りたいのだ。
物を贈ることだけが想いを伝える方法ではない。そんなことは分かっている。だがそれでも、何かを贈りたい、そんな風に思うことはあるものなのだ。深く感謝の気持ちを抱いているからこそそれを目に見える形として表現したいと思うのもまた人の心である。
ということで、フリッツへの贈り物に相応しいものを探す! ……予定である。
「いらっしゃい! お姉ちゃん。何をお探しだい?」
入った店で棚を見ていると店員らしき中年女性が声をかけてきた。
「実はプレゼントを」
どうやら私のことが気になっているようだ。
「そうかい! 女の子? 男の子?」
「相手は男性です」
「おお! もしかして好きな人とかかい?」
「……そのような、感じです」
「そりゃいいねぇ! 大事なことだもんねぇ、プレゼントっていうのは」
勝手に盛り上がる中年女性。
彼女のことは知らないがもしかしたら日頃からこういう話が好きなのかもしれない。
「じゃあおすすめを紹介してあげようかね!」
「大丈夫です、そんな……」
「いーからいーから! 遠慮は不要ってもんだよ。好きな人へのプレゼント決めに遠慮なんてものはなしだからね!」
大胆な中年女性の話術に流され、気づけばおすすめ商品を紹介されていた。
悪いことではないのだけれど。
心なしか大事になってしまったようで申し訳なさを感じる部分もある。
「恋に効く石ならこの辺がいいよ!」
「いえ……あの、そういうのは大丈夫です」
放っておいてくれれば勝手に色々見たのに、などと思ってしまう。
「そうかい。じゃあこっちはどうかな? これとか可愛くないかい。キュートだけど男女どっちが持っていても変ではないしね」
彼女が善意でこういうことをしてくれているのだということは一応理解してはいるのだけれど。
「ペンダントトップですね」
「そうそう」
「確かに可愛い、ですけど……」
「んん? もっと詳しい希望とかがあるのかい? もしあれば言ってもらえればそれを基準に案を考えてみるけど」
その時。
ふと目にとまったのは封筒のデザインの腕時計。
「あ、あの!」
それに視線を釘付けにされる。
「そこの……腕時計、なんですけど」
「ああ、これかい?」
「それって……封筒デザイン、ですよね」
「そうだね」
「売り物ですか?」
「そうだよ」
「一度それが見てみたいです」
「おお! ありがとう、じゃあ取ってくる」
中年女性は嫌な顔をせず快くそれを持ってきて見せてくれる。
「綺麗……!」
直で見て一番に出たのはそんな感想だった。
「これにします」
「即決!?」
「封筒のデザインが良い感じだなぁって思ったんです」
「好きなのかい?」
「郵便配達している人なんです、相手の男性が」
「それは! そうだったのかい。なるほどなるほど、そりゃあいい! それはぴったりな贈り物かもしれないね」
私はその腕時計を買って店を出た。
ちょうどそのタイミングで付近をぶらぶらしていたフリッツが手を振りながら戻ってくる。
「買い物できました?」
「ええ」
今日も穢れなき明るさのフリッツである。
瞳は澄んでいて。
子どものような純真さをはらんでいる。
「それは良かった!」
「待っていてくれてありがとう」
「いえいえっ」
「おかげで良い物が買えたわ」
少し休憩したいな、なんて思っていると。
「一旦お茶でも飲みに行きません?」
フリッツはそんな提案をしてくれた。
「いいわね。ちょうど、ちょっと休憩したいと思っていたところだったの。貴方って私の心が見えているの?」
冗談めかせば。
「何言ってるんですか、心なんて見えませんよー!」
彼はまた子どものような純真さで笑う。