1話「そろそろ逃れたいです」
私、オリヴィエ・ヘンザリッテは、そこそこ良い家柄の娘。
だが幸せかというとそうではない。
というのも私はもう何度も何度も人生の同じところを繰り返しているのである。
……それはここだけの話だが。
そんな私には婚約者がいる。
その人の名はルーイン・デーツ。
彼もまたそこそこ良い家の出である――我が家よりかは下の階級だが。
ルーインと私が婚約するのは毎回同じ。どうやらそれは定めのようだ。私自身もうややこしいことに巻き込まれたくなくて彼から離れておくようにした時もあったのだが、そうしていた時でさえ、私は彼と婚約することとなった。なので恐らくそこは変えようのない部分なのだと思われる。
「オリヴィエ! お前、魔女らしいな!」
――そして、今回もまた。
「えっ……」
「魔女だと聞いたぞ!」
不穏な空気が立ち込めている。
そう、まさに今、この瞬間。
「そんなはずがないでしょう。聞いたのはどなたからですか?」
「それを尋ねてどうするつもりなんだ!? 圧をかけるのか!? 権力で押さえ付けるのか!?」
「落ち着いて話を聞いてください」
「そういう問題ではない! 悪女め! どうせ悪いことをするのだろう!」
えええー……。
思わず発してしまいそうだった。
さすがに堪えたけれど。
だがそう言いたくなるだろう、あまりにも唐突にこんなことを言われてしまったら。
魔女? 悪女? ……馬鹿ではないか。私は普通の女だし、彼だってこれまで付き合ってきてそのことは十分に知っているはずだ。何かそう思われるような事件があったわけでもないし。なのになぜ? なぜ今になって? 意味不明の極みとはこういうことを指すのだろう。もっとも、彼のことだから、恐らく誰かに吹き込まれたのだろうが。これまでにもそういうことはあった、ので、驚きはしない。
「もう話すことはない」
「意味が分かりません」
「オリヴィエ・ヘンザリッテ、お前との婚約は破棄とするッ!!」
ああまたそうなるのか――。
分かってはいたことだ。
これまでもそうだった。
私は何度もこれと同じような経験をしてきた。
婚約して、理不尽に破棄されて、そこまでが運命。
「……分かりました」
もう疲れた。
これ以上彼に振り回され続けたくはない。
なのですんなり受け入れることにした。
ここをなぞるのは何度目だろう? 分からない。数えていない。だがもうそろそろ繰り返すことはやめてこの先へと進みたい。だってそうだろう? このままでは私の人生はずっとこんなことばかりになるのだ。そんな日々を嬉しく思う者なんている? いるわけがない。よほど何かの理由があるなら別だけれども。人とは常に前へ進んでゆきたいものではないか、基本的には。
「ではこれにて失礼いたします」
もう繰り返さない。
私は私のために生きる。
「さようなら、ルーインさん」
◆
婚約破棄されて実家へ戻る。
この瞬間がいつも辛い。
関係が壊れた事実を知った両親が悲しそうな顔をするから。
永遠に続くかのように思えてくるループのせいでこの人生はあまり幸せを感じないものとなってしまっているけれど、両親はとても良い人なのだ――ゆえに彼らを悲しませるようなことはあまりしたくない。
だからもうルーインのことに関しては触れないようにしておこうと思う。
そして私なりの道を歩んでみせる。
今度こそ。
未来を掴む。
ルーインの自分勝手に振り回されるのはもう嫌だ。




