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「シデラ作戦と呼ばれる戦争が起きました。戦争の主導者はテレスコピア合衆国。戦地となったのはルキシア王国です」

「ルキシア。嫌な名じゃ」

「被害を受けたのはルキシア王国です」

「いや、いい。続けてくれ」

 魔女は親の仇を見るような目を、窓に向ける。

 タウルスは頷き、続ける。

「戦争は、悲惨なものでした。ルキシア王国にまともな兵力はなく、テレスコピア合衆国は最新鋭の魔法技術を持っていましたから。鉄器で防衛するルキシア王国を、藤の枝で駆逐するようなものでした」

 タウルスは辛そうに言葉を選ぶ。

 タウルスは人間よりも優秀な頭脳で、忘れることもなく、色褪せることもなく戦争の情景を完全に覚えている。

 戦火で燃える魔導人形のにおいも、喉から絞り出される金切り声も、倒壊するガレキに肉が押し潰される振動も。

 指先に残るヒリついた感覚も、最期まで生き残ろうと逃げる人の背中を、死を目前にした人の目も。

 ぐし、とタウルスは髪を掴む。

 強靭な繊維でできた頭髪は、その程度では痛まない。

「ルキシア王国は大量に魔導人形を抱えていたはずでした」

「それは、本当に争いの道具だったのかのう」

「だとしても、一国が急激に魔法使いを増産すれば、他国からは充分な脅威となり得る。攻撃されても文句は言えませんでした」

「その戦争はお主ひとりの責任ではあるまい。そうじゃろ?」

 タウルスはその言葉に反論できず、悔しいでも安心するでもなく、ただ困惑した。

 そんな少年に、魔女は苦しそうな顔をして、タウルスを抱きしめた。

「さぞ辛かったじゃろう。これじゃから、人間は嫌いなんじゃ」

「……僕は、魔導人形です。感情はありません」

「そんなわけ、なかろう」

 魔女は一層強くタウルスを抱きしめる。

 人の手によって生まれ、人殺しの道具にされて、死にたいとのたまい、ここまで逃げてきた。

 そんな少年を、どうして。

 ただの人形だからと一蹴できるだろうか。

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