CASE1【盲目少年と裸山の魔女】
ぺたり、ぺたり。
ひとりの少年が、草木の生えていない岩山を登る。
生ぬるい風が吹き、少年の銀糸の髪が揺れる。目を覆っている包帯はボロボロで、艶やかな桃色の唇はヒビ割れ、白雪の乗ったような肌は砂ぼこりで汚れている。
少年の登る山には魔女が住んでいると言われていた。
身に有した魔法ゆえに人間から忌み嫌われ、また体よく利用され、いつしかすっかり人間嫌いとなった魔法使い。
ひらりと黒いワンピースを翻し、魔女は来訪者に声をかける。
「どこから来た」
少年に声がかかるが、少年は歩を緩めない。
「どこに向かう」
問いかけには答えず、少年は山を登うとする。
魔女は、見かねて少年の肩をつかんだ。
「死にたいのか?」
少年は、腕を強く引っ張られるままに、ぐったりと項垂れる。
からん、と少年の首が傾き、だらしなく口が開く。
「僕は……死にたいんです」
「はっ。何を言っとるか。お前さん、人間じゃあないじゃろ」
魔女の目は誤魔化せない。
どれほど精巧に作られ、外見からは人間と大差ない魔導人形だったとしても。
自分が心から嫌悪しているモノの姿かたちは、よく見えていた。