15
「タウルスが殺された」
その知らせを受けたとき、俺は食べかけのコーンフレークを、ミルクの上にぱしゃりと落とした。
「……マ?」
「マジだよ、ネモ魔法執行人」
たっぷりふた呼吸は、その言葉の意味を理解するのに時間がかかった。
タウルスとは、シデラ作戦で会った仲だ。
あいつはまごうことなき最強の魔法使いだった。
やつの天道の魔法は俺なんかよりも、ずっと、遥かに、比べるまでもなく強い。世界最強なんだからそりゃそうなんだけど。
あれを殺すということは、太陽を殺すことに等しい。
太陽が死んだと聞けば、誰だって理解できないだろう。
「どーやって」
「戦いは裸山の一角で行われた。猛烈な熱量と『黒い竜巻』のせいで、予知も千里眼も焼き切れている」
「遺体のほうは確認したのか」
「確認した。疑似脳だけが綺麗になくなっていた」
がちゃん、という音を聞いて、俺はついにスプーンまで落としたのだと気づいた。
シュガーが溶けこんだ甘いミルクが、指先についた。
「……マ?」
「これをノックス・パトリアム連続魔法殺人事件とする。すでにこちらは対策本部を作成している。お前も犬らしく働け」
「太陽を穿つ相手を俺に追えと?」
「それがお前の役目だ」
一方的に命令を与え、電話は切れた。
俺は頭を抱えた。
ラジオからは、タウルスの死が一大ニュースとして取り上げられている。
いや、無理無理。普通に無理。
タウルスに勝ったやつに、俺が敵うわけねーだろ。
切り替えろ。こいつは『犯人を突き止めても俺には捕まえられない』やつだ。
こういうときはできるやつに頼るに限る。
俺はアテになりそうな連絡先に、適当に電話をかけていた。