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 ごう、ごう、ごう。

 光を呑みこむ黒い竜巻の中に、目を焼くほどの白銀の閃光が迸り、万物を焼き尽くす炎が高々と上り、数百年続く呪いの怨嗟である瘴気でさえも焼き尽くす。

 ただただ、白く、白く、白く。

 世界を漂白するほど、白く光る。

 タウルスの右手が光り、一振りで爆炎の入道雲が立ち上がる。

 空気中のあらゆる水分を蒸発させ、空気で間接的に触れた草木でさえも焼く。

「―――ふふ、これが噂に名高い『天道』の魔法ですか」 

 タウルスのそれは、太陽と同じ炎を生み出す魔法。魔女の言葉を借りるのならば、核融合の魔法だ。

 ぼ、ぼ、ぼ。

 腕が押し出す爆炎が、彼から離れた瞬間に解き放たれ、眼下の岩石さえも溶かす灼熱となり、爆炎が相手の魔導人形を焼き尽くす。

 何人たりとも生き残れず、近寄らせず、ただただ破壊と殺戮に特化した火のエネルギー。

 その炎を、何度も、何度も、何度も、浴びせるが、魔王は、倒れなかった。

「……っ!」

 タウルスはけして下がらず前進し、炎を打ち続ける。

 しかし、魔王は炎を乗り越え、腕を振り上げてきた。

 視界が見えないことに加えて自身の放つ炎熱のせいで、タウルスはその攻撃を感知できない。

 ごきん、と嫌な音が鳴り、タウルスの顔が歪む。

 自分の炎を乗り越えて損傷を受けることなど、戦いの場では初めてだった。

 タウルスは敵の強さを確認し、火力を上げる。

 炎を押しつけ、拳をもらい、炎をおしつけ、拳をもらう。

 黒い竜巻は絶えず吹き荒れ、地表はすでに焦土と化している。

 タウルスは歯を食いしばり、爆炎を押しつける。

 行き場を失くした灼熱の炎の帯が、狂人の振り回す鞭か、のたうち回る蛇のように暴れ回る。本当にどこにも行き場のなくなった熱のエネルギーは、プラズマとなり、バリバリと白雷を伴いながら魔王を薙ぎ払う。

 しかし、今度の魔王は倒れない。

 背後に控える裸山を意識して、火力を出し切れていないのだろうか。

 それとも、全力を出しても、及ばない相手だというのだろうか。

 勝てなかったら。

 絶対強者だったタウルスの脳裏に、かすかな敗北の予感がよぎる。

 勝てなければ、こいつは、自分と魔女を殺す。

 タウルスはあの花畑の光景を思い出し、それを失うことは、これまで焦がれていた死よりも恐ろしいことだと身震いした。

「死にたくない」

 あれだけ死にたいと願っていたのに。

「死にたくない」

 死を求めて歩いてきたはずなのに。

「死にたくない」

 のに。

 目を焼くような炎と閃光の中で、包帯が焼かれて灰となり、義眼が露になる。

 白い肌に灰が積もり、タウルスの顔が、曇る。

「生きて、いられない」

 太陽の爆熱に耐え、拳を振り上げ続けてくる敵を相手に。

 タウルスは、勝ち目がなかった。

 轟、と黒い風が吹く。それは死神の笑い声にも似ていた。

 魔王の魔導装甲の内側に、黒い目をした不気味な男が立っていた。

 男はゆっくりと手を伸ばすと、タウルスの頭を掴んだ。

 熱い手の平だった。

 タウルスは、走馬灯のようにそれまでの戦いの日々や父との温もり、魔女との日々を思い出し、そして。

 零れた雫は、太陽の炎熱によって蒸発した。

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