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 魔女は、しばしば自筆の本を取り出してタウルスに聞かせてやった。

 魔法の歴史を研究している特殊な仕事柄か、それが楽しいと信じているような口ぶりだった。

「こんな話を知っておるか。世界にはふたつの文化があったらしい、という学説じゃ」

「……僕の記憶には記録されていません」

「ひとつは未知のものに対し、科学的なアプローチで解明しようとした理性的文明、もうひとつが神秘を神秘で解決する野性的文明じゃ。我々は野性的な文明、すなわち魔法を選択し、今日まで発展してきたが、もしこの理性的文明の体系が確立していたら、世界はどうなっていたじゃろうなぁ」

「……わかりません」

 魔女はページをめくり、得意げにこの山で取れた鉱石を少年の手の上に乗せる。

「それは玉鋼じゃ。非常に硬いが、錆びやすく、熱せれば溶けるものじゃ」

「……熱し、木炭と打ちつけることで、硬度を取り戻すことが記録されています」

「そうじゃ。儂らはそれを感覚で知っておる。じゃが、科学的文明からすると、それは鉄という単一の要素に絞られるらしい。鉄は酸素と結合することで脆くなるが、木炭に含まれる炭素と呼ばれるものがこの酸素と結合することで、鉄本来の硬度を取り戻すという」

「……僕の記憶には、そのような現象は記録されていません」

「じゃろうな。この世界は魔法に満ちておる」

 魔女が言うところによると、この世界は『野性的な文明』を発展させた結果、反映したものだという。

 もしも、理性的な文明が発展していたら、どんな世界になっていたのか。

 世界はもっと平和だっただろうか。

 そんなおとぎ話を想像し、少年は、少年らしく、夢を見た。

 久しぶりの、穏やかな夢だった。

 闘争と怨嗟の声が木魂する戦場とは程遠い、平和で灰色な科学の世界の夢を。

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