CASE0:カプリコ調査員はシチューに顔を突っ込んで死ぬ
一生懸命がんばったから、誰よりも時間をかけたから、血反吐するまで自分を追い込めたから。
だからうまくいくなんていう保証はどこにもない。
俺だって精一杯やってるさ。
誰か認めてくれよ。40代中年おっさんの俺の人生を。
でも、俺の想像力は俺の枠を超えることはないし、俺は、同客観的に見ても、社会の歯車にさせていただいている側の人間だ。
RRR、RRR……
金も女もない。部屋は雑誌やゴミやアレやらソレでごちゃついていて、足の踏み場もないので踏み固めて歩くしかない獣道と化している。
デスクがゴミ山でひときわ盛り上がっていて、三つある灰皿はどれも吸い殻のピラミッドができている。
RRR、RRR……
シワだらけの黒いカーゴパンツ。ビールっ腹が出ないようにデカめに買った灰色のシャツに、襟がよれて波打っている黒いコート。
厚底のブーツは、べこりと爪先が凹んでいる。
RRR、RRR……
首元には二枚のドッグタグ。
無精ひげに白髪が交じってきたボサボサの頭。
これらを、だらしないと思う段階はとっくに過ぎている。
RRR、RRR……
鳴り響く電話音。
電話音。ああ、鳴ってたか。
えーっと、魔導端末、どこにしまってたかな。
「こちら魔法執行人」
俺は政府の飼い犬。
死ぬほど危険な仕事を危険手当なしでせざるを得ない、しがない社畜である。
「魔導人形が殺された。至急、現場に迎え、ネモ」
「はいほー」
電話口から聞こえる同年代の上司に顎で使われる日々。
いつだって、言われたことをやるだけ。
右と言われたら右。左と言われたら左。
それで俺の世界は、今日も誰かの都合のいいように流れていく。