【第7話】スキルと食料調達
どれほどの時間が経っただろうか。
ヴィルは、ふと時計の方を見ると、時計の針は午後1時を指している。
寝すぎたと思い、ヴィルは慌てて外へ飛び出す。
すると、そこには異様な光景が広がっており、ヴィルは唖然とする。
チックは、そこら辺で取ってきた丸太5本ほどをツタで束ね、ベンチプレスをしている。明らかに1トンは超えているだろうが、それすらも軽々と持ち上げている。
一方、バーナは、黄色い変な生物と遊んでいるように見えるが……何をしているのか。
「ずっと寝てて悪かったな」
ヴィルのその声で、2人は、ヴィルがようやく目を覚ましたことに気がつく。
すると、2人は作業をやめ、ヴィルの元へ走ってくる。
そして、チックが目をキラキラとさせながら、ヴィルに詰め寄る。
「なあなあ! ヴィル! 俺のスキル見てくれよ!!」
続けてバーナも、ヴィルに話す。
「私のスキルも見て。すごいから」
あまりの勢いに、ヴィルは思わず2人に聞く。
「まさか、俺が寝てる間、ずっとスキル研究してたのか?」
2人は首を縦に大きく振って頷く。
「おう! そうだぜ!」
そしてバーナが、チックのことをジトーっと見ながら言う。
「チックは筋トレしてただけじゃん」
それを聞いたチックは、怒りながらバーナに言い返す。
「筋トレだけってなんだよ!! それを言ったら、お前だって変なキモイ生物と遊んでただけだろ!」
2人のくだらない罵り合いは見たくないので、ヴィルが間に入って止める。
「分かった分かった。これから狩りに行くためにも、それぞれのスキルを確認しておく必要があるだろうし、今から皆でそれぞれスキルを見せ合おう。それでいいだろ?」
2人はヴィルの案に賛成し、言い合いをやめた。
ヴィルは起きてからまだ1分ほどなのに、いきなりスキルの見せ合いっこが始まることとなり、2人に振り回されるのであった。
チックが、先ほどまでベンチプレスで使っていたベンチを観客席として持ってくる。
まずは、チックのスキルから見ることになり、ヴィルとバーナはベンチに座る。
チックは、どこからか大きな石を持ってきて、2人の前に置くと、自慢げに話し始める。
「ふっふっふん。今から俺は、この大きな石を、この拳で! 1発で! 割ってみせるぜ!」
そもそも、こんなに大きな石を1人で持ってこれるだけでも異常であるというのに、さらにこれを割ると言い出したのだ。
ヴィルとバーナは、チックを心配する様子で声をかける。
「おいおい……こんな大きな石を素手で割るって言ったって、手怪我するぞ……」
「そうだよ。まあ一応薬は少しなら買ってあるけど……」
それを聞いたチックは、首を横に振り、“チッチッチ”と舌を鳴らしながら、ウザイ顔で2人に言う。
「お前ら心配しすぎだぜ! 俺は怪我しないし、完璧に1発で割ってやるよ!」
そこまで言われたら、チックの自由にさせるしかない。
チックが石を持ち上げて、自身のスキルを見せようとしたその時、何かに気づいたように、ヴィルが慌てて立ち上がり、チックに声をかける。
「ちょっと待て! チック!」
あまりに慌てているので、一体なんだろうと思い、チックがヴィルに聞く。
「おいおいどうしたんだよ。俺の晴れ舞台を邪魔しないでくれよ〜!」
すると、ヴィルはバーナにベンチから下りるよう指示する。
バーナがベンチから下りると、ヴィルはベンチの場所を移動しだした。
そして、チックの斜め右後ろくらいまでベンチを移動し、チックに事情を説明した。
「いや〜すまんすまん。あの位置からチックが石を割るとなると、俺らのところに、確実に石の破片が飛んでくるから、怪我する前に避けたんだよ」
事情を聞いたチックは納得し、続きを再開することにした。
「よし! 気を取り直して、今度こそ行くぞ〜!!」
そう言うと、チックは手に持つ石を上に高く投げた。高さでいうと15mくらいまで上がっただろう。
ちょうど、石が頂点に達した頃くらいに、チックが右手の拳に力を入れて言う。
「これが俺の、新しいスキルだ〜!!!」
チックがそう言うと、強く力を入れた右腕が黒く染まり、煌びやかに輝きだす。
石がだんだんと速度を増して地面へと落下する。
もはや、通常の人間であれば、落ちてくる石に、正確に拳を突き出すことなど出来ない。
そして、石がチックの目の前に落ちてきた瞬間、チックは、目を丸く見開き、とんでもない速さで拳を突き出す。
チック「破ぁぁぁあああ!!!」
“バーンッ”
すると、ものすごい音を鳴らして、落ちてきた石は、チックの拳によって粉々に砕けた。
それを見て、ヴィルとバーナはポカーンと口を開けて驚く。
さらに、砕けた石の破片は、ヴィルの言った通り、周りに飛び散り、さっきのベンチの位置にも、飛んできていた。
ヴィルの言う通りにしていなかったら、どうなっていただろう、とバーナは冷や汗をかく。
あまりにパンチの威力が高すぎたのか、砕いた石のだいぶ後ろの方に生えている木が、風圧だけでミシミシと音をたてている。
そして、チックが腕から力を抜くと、チックの右腕は、いつも通りの肌の色に戻った。
見せたいものを見せれたチックは、ニコニコしながら2人に近づいてくる。
「どうだ!? 凄いだろ!?」
まさか、あそこまで石が粉々になるとは思ってもいなかったので、2人はしばらく声を出せなかった。
そこで、冷静さを取り戻したヴィルが、チックに問いかける。
「なあチック、さっきの腕が黒くなったのはなんだったんだ?」
その質問に、チックは自信満々に答える。
「俺の腕がさっき黒くなっただろ!? あれは俺の新しいスキル、『硬化』だぜ!」
『硬化』
自らの体の一部または全部を、鋼鉄のように硬くすることで、自身へのダメージを極小化できる。
自分の新しいスキルを見せれて満足したチックは、ベンチに座る。
そして、チックがバーナに声をかける。
「じゃあ次はバーナ見せてみろよ!」
バーナは立ち上がり、ゆっくりと前に歩いていく。
そして、手からバナナを生成する。
ここまでは、いつもと何ら変わりはない。
何が起こるのだろう、と2人はバーナの方をじっと見る。
すると、バーナの手が突然、キラキラと光り出した。
だんだんとその光が弱くなっていくと、バーナが2人の方を向く。
「それじゃあ私は、今から、あそこにある木をぐちゃぐちゃにして見せます」
そう言うと、バーナは、両手に持っているバナナを地面に放り投げた。
すると、そのバナナは、ズブズブと地面に潜っていく。
そして、なんとバナナが潜っていった地面から、気持ちの悪い見た目の、黄色い怪物が生えてきたのだ。
目や鼻はなく、体は地面から生えていて、その場から移動することは出来ないようだが、茎が伸び縮みして、移動をしようとしている。そして、なんと言ってもとにかく口が大きい。頭が大きく、鋭い牙を多数生やしている。
それらの怪物は、バーナの周りをグルグルと回っている。
「よし、行け」
バーナが、対象物である木を指さし、命令をすると、2体のバナナの怪物は、かなりの勢いでその木に向かって突進し、頭突きをする。
“ドーンッ”
ものすごい衝突音が辺りへと響き渡る。
しかし、何度も何度も頭突きをするが、まだあまり威力が足りないのか、その木は、外側の皮が剥がれるだけであった。
しかし、次の瞬間、バナナの怪物は口を大きく開き、鋭い牙で、その木を噛み始めたのだ。
木は、みるみるうちにボロボロと崩れていき、バナナの怪物が噛んだところから徐々に細くなっていき、しばらくすると、その木は倒れてしまった。
対象物を破壊し終えた怪物たちは、バーナの元へ戻ると、徐々に小さくなりながら、地面に潜って行き、姿を現さなくなった。
そして、バーナは2人の元へ戻ってくる。
「ど、どう? これが私の新しいスキル。」
ヴィルは、笑顔で“良かったぞ”と伝えるが、隣にいたチックは、目をキラキラさせながら興奮していた。
「うぉぉおおお!! バーナすげえじゃねえか!! あんなこと出来たのかよ!! あれ、なんて言うスキルなんだよ!?」
そこまで褒められると思っていなかったバーナは恥ずかしそうに、下を向いてベンチに座る。
「あれは、『バナナモンスター』。私の言う通りに動いてくれるんだよ」
『バナナモンスター』
バナナに生命を宿すことで、主人の言う通りの行動をする。役目を果たすと、地面に潜って消える。
そのスキル名を聞いて、チックはバーナを馬鹿にするように言う。
「なんかお前のスキル名、子どもみてえだな(笑)!」
馬鹿にされたバーナは、黙ったまま、バレないようにバナナを生成し、そこに魂を吹き込み、チックの後ろにポトンと落とす。
すると、バナナモンスターが現れ、チックの頭を“バチン”と叩くと、そのまま小さくなっていき、地面の中へと消えた。
「痛ってえな! 何すんだよ!」
また喧嘩が始まりそうだったので、喧嘩が始まる前に、ヴィルは立ち上がって2人の前に立つ。
「まあまあ、最後は俺の番だから、ちゃんと見といてくれよ?」
2人は喧嘩になりそうだったが、ヴィルの方を見ることにした。
ヴィルの方へと目を向けると、ヴィルは手を銃のような形にし、それを木に向けて、目を瞑りながら立っている。
そのスタイルを見て、何をするのか大体予想できた2人は、少し気が緩んでいた。
次の瞬間、ヴィルの指先には、とんでもないオーラを纏った、ウイルスの塊が出来ており、辺りには風が吹き始める。
ヴィルが、これからとんでもないものを撃とうとしていることに2人は気づいた。
「おいおい、これやばいんじゃねえか?」
辺りには緊張感が漂い、巻き起こる風音以外には、一切音のない静けさが広がる。
そして、ヴィルは目を開き、そのウイルスの弾を放つ。
その時の色は、もはや緑ではなく、黒に近い色になっていた。
そのウイルスは、目に見えないほどのスピードで進み、先にある木に当たった瞬間、“ドカーン”という轟音とともに、砂埃が舞い上がる。
しばらくして砂埃が晴れると、その先には、腐りきってボロボロになった木々があった。
それを撃ったヴィルは、その場に倒れ込む。
それを見て、急いで2人が駆けつける。
チックが、ヴィルを抱き抱えながら、心配そうな顔で声をかける。
「おい! 今度はどうしたんだよ! 腹減ったのか!?」
チックは心配してくれているのか、ふざけているのか分からないが、ヴィルはその場で息を整え、なんとか体勢を元に戻す。
「はぁはぁ……ちょっと、体力を使いすぎた。昨日の夜練習した甲斐があったなぁ」
威力の調整は出来るのだが、皆に見せるということで、どうせなら派手にいこうと思い、最大出力で放ったらしい。
ヴィルはそう言って、フラフラと立ち上がる。
「とりあえず、皆のスキルも見れた。これだけの力が出せるなら、何かしらの生き物を狩ることは出来るだろ」
時刻は午後2時。遅めの昼食だが、3人は、バーナのバナナを食べ、まだ明るいうちに、狩りに行くことに決めた。
バナナをむしゃむしゃと食べながら、チックが2人に聞く。
「狩りに行くって言ってもよお、何を、どこに狩りに行くんだ?」
確かに、どんな生き物、または魔物が、どこにどのようにして生息しているのか、3人にはまったく分からない。
「とりあえず、森の中を適当に歩いて、それっぽい巣穴とか見つけたら入ってみるっていうのでいいんじゃねえか?」
その意見に、チックは疑問をぶつける。
「でも、この世界の生き物なんか、何が食べられる生き物で、何が食べられない生き物かなんて分からねえぞ。食ったら毒が入ってた〜とか、俺は嫌だぜ!」
それに対し、ヴィルは自信満々に答える。
「それなら問題ないぜ」
バーナは、そんなに自信があるヴィルに対して問いを投げる。
「どうしてそんなに自信満々なの? なにか分かるの?」
そんなヴィルの態度を疑問に思う2人に、ヴィルは説明をする。
「なぜならなぁ、俺のもう1つの能力<翠眼>で全て分かるからなんだよ」
<翠眼>
能力の保有者は、目で見たものの本質を捉えることができる。(前話記載済)
自身の能力の説明をし終えると、ヴィルは突然、何かを思い出したかのように話し出す。
「あ〜……そういう事か、だからあの時……」
急にヴィルが意味不明なことを言うので、2人はヴィルにどうしたのか聞く。
すると、ヴィルは武器屋での出来事を、2人に話す。
ヴィルが、武器屋で急に呻き声のようなものを発した時、ヴィルの視界には色々な文字が表示されていたのだ。ナイフの価値、素材、特徴等。
急に視界に文字が浮かび上がるものだから、驚いてあのような声を発したのだと言う。
まあ、ルルからは聞かされていなかった能力であったので、これは仕方ないだろう。
「あ〜! そういうことだったのか!」
チックは、その謎が頭の片隅にあったため、その話を聞いてスッキリした様子だった。
ここでは、2人に話していないが、市場での出来事もそうである。
ヴィルが、男に金貨を盗まれた時、後ろを振り返ると、緑色に発光した足跡があったのだ。
それも、この能力のおかげだったのだろう、とヴィルは1人で納得するのであった。
「まあ、そういうことで、俺のこの能力があれば、何が食べられるかとかは判断できるから、そこら辺は安心してくれ」
そもそも、狩りの対象が見つかるのか、見つかったとしてもどのくらい時間がかかるのかが分からない。
しかし、狩りをするなら、まだ明るいうちの方が良いだろうと思い、3人はバナナを食べ終えると、各々の武器を持参し、森の奥へと歩いて行くのであった。
森の中を歩き続けること、早1時間……。
ここまで歩いて、未だ洞窟の1つも見つけられず、チックは空腹からか、イライラしだした。
「もう〜!! いつになったら動物出てくんだよ!! 俺は早く肉が食いてえのによお〜!!」
チックは、そうやって文句を垂れていたのだが、次の瞬間、鼻をヒクヒクと動かし、何かの匂いを察知する。
「うお!! これは! 肉の匂い!! こっちだぁ〜!!」
そう言うと、チックは匂いのする方向へ一直線に走っていってしまった。
この時、ヴィルとバーナには、全く肉の匂いなどしなかった。
実は、これはチックの能力<ニワトリ>によるものなのである。嗅覚が人間の何倍にもなり、遠く離れた場所からの匂いも察知することが出来る。
ヴィルとバーナは走ってチックのことを、後ろから追いかける。
しかし、チックの足が速すぎて、やがて2人は、チックの姿を見逃してしまう。
バーナは、チックとはぐれたことを心配してヴィルに尋ねる。
「ねえヴィル、チックとはぐれちゃったけど、大丈夫かな?」
そう言ってバーナが、ヴィルの顔を見上げると、ヴィルは至って冷静な表情をしていた。
「あぁ、大丈夫だ」
ヴィルは、瞳を明るい緑色に光らせる。すると、ヴィルの視界には、チックの足跡と思われるものが緑色に発光しているように映った。
ヴィルが、その足跡を追って走り出し、その後ろをバーナが走ってついて行く。
2人がしばらく走ると、その先には小さな洞窟があった。その入口には、チックが立っており、こちらに手を振って待っている。
「もう! 勝手に1人で行かないでよ。」
バーナが怒ると、チックは2人に“すまん”と謝罪する。
そして、チックは2人に対してこう告げる。
「なんかなぁ、この洞窟の中から、美味そうな肉の匂いがするんだよ!」
チックの言う匂いというものは、2人には分からなかったが、確かに中に何かがいる気配はする。
中に何がいるのか分からない状態で入るのは危険なため、まずはその洞窟をヴィルが、能力<翠眼>でチェックする。
すると、ヴィルは、視界に映ったものを2人に伝える。
「ここは……オークの巣窟だな。魔物ランクはB、中には6匹のオークがいて、その奥にもっと大きなオークがいるらしい」
しかし、説明を受けたチックとバーナは、ヴィルが何を言っているのか全く理解できない。
「おいおい、ヴィル。さっきからオークとか、魔物ランクとか言ってるけどよお、それってなんなんだ?」
ヴィルは、どうやらこの世界には魔物というものが生息しているということ、魔物にはランクがあり、最高S、最低Cまでで振り分けられているということを2人に説明した。
「まあ、よくわかんねけど、美味そうな匂いするから食えるってことだな!」
もう既にチックの頭の中には肉を食べることしかなかった。
「ランクBってことは、結構下の方ってことだよね。私たちでも倒せるのかな。数はオークの方が多いけど……」
確かに数だけで言えば、オークの方が多いが、所詮、ランクはBである。倒せない敵ではないだろう、と意気込んで、3人は、洞窟の奥へと足を踏み入れるのであった。