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【第5話】国外での生活

 市場を出た3人はしばらく走り続け、後ろを見て追っ手が来ていないことを確認すると、だんだんとスピードを落として、ゆっくりと歩き始める。


 そこでヴィルが、詐欺師男から逃げる時に、真横を通り過ぎたものについて、チックに聞く。


「ところでチック、さっき俺らを助ける時なにか投げたよな。何を投げたんだ?」


 ヴィルは、それについて、チックが何かを投げたということは見ていたが、何を投げたのかは、回転していたのもあるが、何より速すぎて視認できなかったらしい。

 ヴィルの意外な質問に、チックは動揺するが、ヴィルにはどんな嘘をついてもバレてしまうことは、元の世界での生活で分かっていたので、チックは正直に話すことにした。


「実はな……あまりにも腹が減ってたから、すっげえ美味い骨付き肉を買っちまったんだよ。それで、食べ終わった後の残った骨を、あいつに投げたってわけなんだよ。なんか危なそうだったからな」


 ヴィルに内緒で、自分が食べるための肉を買っていたことを打ち明けたチックは、絶対にヴィルに怒られると思って身構えていたが、ヴィルの反応は意外なものだった。


「ま……まあ、それのおかげで俺らは助けられたしな。そのくらいはいいんじゃねえか? ありがとうな。」


 ヴィルの思わぬ返答に、チックは少し照れくさそうに、頭をかいて微笑む。

 その時、バーナが続けてチックに聞く。


「その肉いくらだったの?」


 いらん質問をするな!とチックは内心叫びながら、目を瞑って苦しそうな表情を見せる。

 もしこれを誤魔化しても、あとで仮に金貨を数える機会があったらいずれバレるだろう。

 そう思ったチックは、手をパーの形にして、2人の前に出す。

 初めはチックは何をしているんだろうと思った2人だが、すぐに、それが何を示しているのかが分かった。

 少し不安そうな顔を浮かべながら、ヴィルはチックに問いかける。


「ま……まさか、金貨5枚……じゃないよな?」


 そう言われたチックは、気まずそうな顔をして、ヴィルに、それそれ!と言わんばかりに指を指す。

 値段を聞いたヴィルは、今度こそ怒るかと思ったが、これもまたチックの予想外の反応であった。


「そうか……美味かったのか?」


 まさかそんなことを聞かれるとは思っていなかったチックは、その肉の美味しさをヴィルに語った。

 それを聞いたヴィルは、「良かったな」と笑ってチックの顔を見た。


 この時ヴィルが怒らなかったのは、市場での出来事にある。

 知らない人間に金貨を1枚差し出してしまったのだから、肉を食べたチックのことを怒る気にはなれなかったのだろう。


 それから、市場での出来事を色々と話しながら、王国の門を目指していた3人。

 市場での買い物で色々とハプニングが起きたせいで、日はすっかり沈み、辺りは暗くなっていた。


 その時、3人の後ろの方から、“ゴーン”という鐘の音が鳴り響くと同時に、“ガガガガガ”と何かが閉まるような音が鳴り始めた。


「ん? なんの音だ?」


 チックとバーナは、特に気にしていない様子だったが、ヴィルはまさかと思って、門の方を見ると、離れていて分かりずらいが、だんだんと門が閉まっているように見えた。

 それにいち早く気づいたヴィルが2人に知らせる。


「おい、門がだんだん閉まってきてるぞ」


 ヴィルの言葉に、2人も門の方を見ると、確かに門が閉まり始めており、2人も慌て始める。


 この王国の出口は、パッと見るに、正面にある大きな門だけである。

 3人と門の間には、まだ500mほどの距離があり、歩いていては間に合わない。

 3人は、門が閉まる前に抜け出すため、走り出すが、その重い荷物のせいで、なかなか速く走ることが出来ない。

 このままでは、3人が抜け出す前に門が閉まってしまう。


「くそ……これじゃあもう、門から出るのは無理か……」


 ヴィルは、門が先に閉まることが分かっていたので、辺りを見回して、他に出口がないかと探す。

 そんなヴィルに、チックが思わぬ提案をしてきた。


「おいお前ら! 俺に掴まってくれ!」


 2人は、チックが何を言っているのか分からなかった。1人に全員分の荷物の重さ、そして2人分の体重が加わるのだから、どう考えても、今より遅くなるに決まっている。

 困惑した2人の様子を見て、チックは続けて言う。


「なんか俺、今凄く体が軽いんだよ! 今のこれも全然、全力疾走じゃねえぜ! いいから俺を信じて掴まってくれ!」


 このまま走ってもどうせ間に合わないのだ。どうせならチックの案に乗ろうと、2人は決心する。

 チックは、元の世界で、警察等から逃げるため、足は相当速かったのだ。

 そして、趣味は筋トレ。人間2人を持ち上げながら走るのもできるだろう。

 そして、チックはヴィルとバーナを両手に抱え込む。

 チックの案に乗ったヴィルだったが、不安は解消されず、思わずチックに声をかける。


「本当にこんな状態で走れるのか?」


 それを聞いたチックは、自信満々の笑顔で答える。


「おう! 全然余裕だぜ! こっからスピード出すから、お前ら落ちるなよ!」


 2人がチックに抱えられてもスピードが変わらない時点で、かなり常人離れしているのに、まだまだスピードをあげると言い出したのだ。

 そんなことができるのかと、少し疑うが、チックの案に乗った以上、チックのことを信じるしかないと思い、2人はチックの腕を、より強くしっかりと掴む。


「よぉ〜し!! 行くぜ〜!!」


 そう言うと、チックは足の筋肉に力を入れ、地面を強く蹴る。

 その瞬間、チックに掴まっていたヴィルとバーナは、そのありえないスピードに目が血走る。

 ものすごい強風で、髪の毛は、オールバック状態となる。

 チックの足は、筋肉が隆起(りゅうき)し、血管が浮き上がっている。

 力強く地面を蹴り、走るチックの後ろは、ものすごい砂埃(すなぼこり)が舞っており、その地面には、チックの足跡が残る。

 そして、ヒラヒラと何かが、3人の後ろでゆっくりと地面に落ちていった。


 もう門は、あと数秒で完全に閉まるだろう。

 その時の門の隙間は、人間がギリギリ通れるかどうかといったところ。

 3人は、その門に挟まれたら一溜(ひとたま)りもないことなど、容易に想像できた。

 間に合わず挟まるくらいなら、やはり止まるべきか……いや、そんなことを考えるくらいなら、走った方が良い。

 チックはひたすら走る。

 そして、門の目の前にまで来た瞬間、チックは思い切り前に跳び、体制を細くした。

 その結果……なんとか3人は王国の門を抜けることに成功したのであった。


 チックは前に跳んだことによって、体制を崩し、転んでしまった。それによってチックに掴まっていた2人も地面に叩きつけられることになったが、3人は、門を突破できたことを喜び、ガッツポーズをするのであった。

 その日は、色々なことがあって疲れたのもあり、他の王国に訪れるのは今度にすることとし、3人は森の中へと歩いていく。


 しばらく森の中を歩いていくと、ちょうど良いスペースがポツンとあり、3人は、今日はそこで野宿(のじゅく)をすることに決めた。

 バーナの買ってきたランプを真ん中に置いて灯りを確保する。

 ちょうど夕飯の時間であり、走り続けた3人は腹がとても空いていた。

 食料担当であったチックに、ヴィルが問う。


「なあチック、どんな食べ物を買ってきたんだ?」


 ヴィルがその問いに、チックは、買い物をした袋をガサガサと漁り始め、缶詰を手に取り答える。


「言われた通り、缶詰とか買ってきたぜ!」


 チックは2人に缶詰を渡し、3人で同時に、その缶詰を開ける。

 すると、中には、よく分からない肉の塊がゴロゴロと入っていた。

 見た目は、あまり美味しそうとは言えないが、香りは案外良いようである。

 腹ぺこの3人は、早速フォークを使って、その缶詰の肉を頬張る。

 すると、これがびっくりするほど美味いのだ。

 元の世界で昼食をとってから、何も食べておらず、異世界に転移されてから、走ってばかりで疲れていたのもあるのだろう。その肉の脂が体に染み渡る。

 缶詰を食べた3人は、もうクタクタだったので、その日は寝ることにした。

 ヴィルが、袋から薄いシーツを取り出す。

 ランプの灯りを消し、皆はぐっすりと眠った。


〜翌朝〜


 小鳥のさえずり、風に吹かれて木の葉が擦れる音に囲まれ、煌びやかな朝日が3人を照らす。まさに理想的な朝がやってくる。


 しかし、ヴィルはチックのうるさすぎる(いびき)によって起こされてしまう。

 元の世界では、全員、昼から夕方頃に起きるのだが、ヴィルはなぜか、チックの(いびき)で朝に起こされても、あまり眠くはなく、スッキリと朝を迎えられたのだ。

 朝日を浴び、そよ風に吹かれ、ヴィルの気持ちはとても晴れやかなものになった。


「朝に起きるのは、こんなに気持ちいいのか」


 すると、後からチックとバーナも起きてきた。


「ん……今何時だ?」


 バーナが腕時計を買ってきており、時間を見ると、朝の6時であった。

 バーナの能力で、バナナを生成してもらい、それを朝食とした。チックは大食いなので、バナナを軽く10本は(たい)らげていた。


 朝食を済ませた3人は、これからどうするかを決める。

 他の王国に行くと言っても、どこに行くのが良いか、全く分からない。

 そこでバーナが、買ってきた地図を広げる。

 3人の抜け出してきたワーマ王国の周りには、色々な王国がある。グアルム王国、ヤミル王国、レイン王国など。

 王国間の距離は、決して近いものではなく、歩いて移動しようものなら、何日もかかるような距離であった。

 そして3人は、その中でも一番近い王国、グアルム王国へ訪れることに決めたのであった。


 早速準備をして、グアルム王国へと向かおうとする3人だったが、ヴィルが、とある違和感に気づく。

 ヴィルは、嫌な予感がして、自分のポケットに手を突っ込んで、ポケットの中を漁る。

 すると、ヴィルの顔はだんだんと青ざめていく。

 明らかにヴィルの様子がおかしいので、チックはヴィルを心配して声をかける。


「おいヴィル、どうしたんだ?」


 すると、焦った様子で、ヴィルがとんでもないことを告げる。


「入国証が……ねえんだ……」


 それは、チックとバーナにとっても最悪の知らせだった。


「も……もしかしたら、俺のポケットに入ってるかもしれねえ!」


 そう言って、チックは自分のポケットを漁る。

 すると、チックの顔も何故か焦りの表情へと変わり、慌て出す。

 その様子を見て、まさかと思ったヴィルはチックに声をかける。


「まさか……お前……」


 そんなヴィルの声に、チックは頷きながら言う。


「俺も……ねえ……」


 2人が入国証を持っていないことから、少し、焦りを感じるバーナだったが、まさか自分までもが入国証をなくすことはないだろうと思い、ポケットの中を漁る。

 するとバーナが、持っていた荷物から手を離し、放心状態になってしまった。

 流れ的に、バーナも持っていないことが分かり、ヴィルとチックは(あき)れた様子で言う。


「この反応は……」

「こいつも持ってないってことだな。」


 しかし、確かにルルから入国証は貰ったはず……そこからポケットに入れて、武器屋を訪れ、市場で買い物をした。

 まさか、誰かに盗まれたのか?そんなことを考えていたその時、ヴィルが確信めいた声で言う。


「あっ……あの時か……」


 それを聞いたチックとバーナは、どこで入国証をなくしたのかを問う。


「なんだ!? 分かったのか?」

「どこにあるの……?」


 そしてヴィルの顔がだんだんと絶望に染まっていき、暗い声で話し出す。


「ワーマ王国から抜け出すために、チックに掴まって猛ダッシュをした時だ。あの時のスピードが速すぎて、ポケットから落ちたんじゃないか?」


 そして、チックとバーナは、その話に納得すると同時に、ワーマ王国の中で入国証をなくしてしまったのだから、もう取り戻しに行けないことに絶望する。


 3人は、持っている荷物を地面に置き、地面に座り込む。

 これからの予定が全てなくなってしまった3人は、その場でしばらく黙り込んだ。


 それから10分くらい経った頃、チックが声を上げる。


「いつまでも絶望してても何も始まらねえ!」


 そう言ったチックは、武器屋で買ったナタを片手に、どこかへ行こうとしている。

 そんなチックに、ヴィルが思わず声をかける。


「どこ行くんだよ!」


 その声はチックには届かず、気づけばチックは、1人でどこかへ行ってしまった。

 チックを心配する2人だったが、すぐに帰ってくるだろうと思って、その場で待機することにした。


 それから数分すると、少し離れたところから大きな音がなり始める。


“ドーンッ”


 そのものすごい轟音とともに、その音に驚いた鳥たちがどこかに飛んでいく様子が見えた。

 その音は、チックが走っていった方向から聞こえた。

 まさか、チックが何か危ない目にあっているのではないかと、心配する2人だったが、その心配は杞憂(きゆう)であった。

 なんと、大きな丸太を抱えたチックが、2人の元へ走ってきたからだ。

 その大きな丸太を2人の前に置いて、チックは話す。


「どうせ王国に入れなくなったなら、ここで自給自足して生活すればいいじゃねえか! ここに家でも作ろうぜ!」


 家を作るなど、あまりに無茶な気もするが、入国証がない以上、今はそうするしかないと覚悟したヴィルとバーナは、チックの案に賛成し、家作りの準備を始めることとした。


 ヴィルは子供の頃、建築関係の仕事に興味があり、少し勉強をしていたことから、多少は建築についての知識がある。

 3人で協力すれば、小さな家くらいは作ることができるだろう。

 しかし、ヴィルは、一つの問題を抱えていた。


「けどよ……道具がねえんだから、建築なんて無理じゃねえか?」


 そう、木は周りにたくさんあるが、まさか建築をすることになるとは想定していなかったため、建築道具を買っていなかったのだ。

 すると、チックは自身のナタを見せ、自慢げに話す。


「大丈夫だぜ! そんなものなくても、このナタと俺がいれば、全部解決だ!」


 何を言っているのかヴィルは分からなかったが、チックが、そのナタを振り上げ、丸太をスパッと切ると、ヴィルはチックの言葉の意味を理解する。

 なんとチックは、その丸太を、まるで豆腐を切るかのように簡単に切ってしまったのだ。


「どうだ?俺の力と、このナタさえあれば、ノコギリなんかいらねえし、(かんな)だって、ハンマーだっていらねえぜ!」


 これにより、ヴィルの悩みは解消され、早速、皆で家を作ることにした。


 ヴィルは主に、設計図を書いたり、指示をする担当。バーナの買ってきた紙とペン、ものさしを使って綺麗に設計図を仕上げていく。

 チックは、材木集め等の力仕事担当。チックの馬鹿げた力で、丸太はスパスパと切れていき、家を作る材木へと成り変わるため、とても効率が良い。

 バーナは、家造りに直接関わることはなかったが、焚き火を起こすための葉や、小枝、小石等を集めることにした。


 それぞれの役割は、まるで元の世界での生活ともよく似ており、それもあってか、家造りはとても効率よく進んだ。


 朝早くに起き、朝食をとったら、夜まで家造り、夕食を食べ、次の日に備え早く寝る。

 元の世界では全くしてこなかった、健康的な生活を続けること1週間。

 ついに、3人が協力し合って造っていた家が、ついに完成したのであった。


 初めての建築。ちゃんとした建築道具もなく、たった3人で短期間で造った家。

 それは、お世辞にも住みやすい家とは言えないが、苦労して造ったその家は、3人にとって、今まで住んできた家の中で、何よりも輝いていた。

 中には、ベッド、テーブル、椅子を置き、テーブルと椅子は、ちょうど良い高さに丸太を切っただけのものであり、ベッドは材木を積み上げただけのものだが、3人がこれから生活していくには、不便がないくらい立派な家となった。

 完成した家を見て、感動した3人は、それぞれ感想を(こぼ)す。


「これが……俺たちの家なんだな……」

「木切りすぎて腕が痛いぜぇ〜!」

「私は特に何もやってない」


 その日も夜まで家を造り続けていた3人は、もうクタクタで、夕飯も食べずに、家にあるベッドに横になって、木の温もりを感じながら、そのまま眠ってしまった。


 ついに自分たちの家が完成した3人は、他の王国に入国することが出来ないため、そこで自給自足の生活を始めることとなる。

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