【第3話】武器屋
町にやってきた3人が、しばらく歩いていると、ポツンと立っている、小さな武器屋を発見した。
その武器屋はとてもボロボロで客足が少なく、今にも潰れそうであったが、時間があまりないことから、3人はそこの武器屋で武器を調達することに決めた。
中に入ると、そこには1人の老人がボロボロの椅子に座りながら、大きないびきをかいて寝ていた。
寝ている老人を起こすのは少し気まずいが、そうこう言っていられない。3人にはもう時間がないのだ。
ヴィルが、その老人店主に声をかけ、体を揺すると、店主は目を覚ました。
「んあ? あ! お、お客さんかい!?」
口から垂れたよだれを服で拭い、おぼつかない足で、フラフラと会計台の前に立つ。
そして、久しぶりの客への喜びなのか、顔をしわくちゃにした笑顔を浮かべて話す。
「いや〜! お客さんなんて久しぶりじゃの〜! ゆっくり見ていっておくれ〜!」
そうは言われても、3人にはあまり時間がないので、ゆっくり見ている暇はない。何でも良いから何かしらの武器を買おうとした、その時……
「うっ……ん? なんだ?」
ヴィルが急に体調が悪くなったかのように、小さな呻き声のようなものを発した。
それをチックは心配して声をかける。
「お、おい、大丈夫かよ……」
今、何が起きたのか、ヴィル自身もよく分かっていなかったが、何とか説明をしようとする。
「ん……なんか……見えるんだよ」
それに対し、チックが質問を返す。
「見えるって……何が見えるんだよ?」
チックがヴィルに聞いても、ヴィルはよく分からない返答ばかりしていた。
少しすると、ヴィルの状態はいつも通りに戻った。チックがもう一度質問をしてみるが……
「おう……やっと普通に戻ったな。で…何が起きたんだ?体調悪いのか?」
正直、ヴィル自身も、今起きたことを上手く説明できる自信がなく、とりあえず放置しておくことにした。
「い……いや、特に何も……」
少し変なヴィルのことを心配するチックだったが、時間がないことを思い出し、急いで武器を探すのであった。
3人が持つ金貨はそれぞれ20枚。このあと、食料や生活必需品等を買うことを考えたら、あまり散財は出来ない。
そこから約5分ほど探して、それぞれが買いたい武器を見つけ、店主のいる会計代に持っていった。
この武器屋の外見からは想像できないほど、武器の品揃えは豊富であり、魅力的な武器が多数あったため、比較的早く見つけることが出来た。
そして、それぞれが武器を会計台に置く時、チックがあるものに目をつける。
「なあ爺さん。この店では、武器をこんなに綺麗に飾ってあるのに、なんであそこにあるナタだけは地面に突き刺さってるんだ?」
そう、他の武器は綺麗に並んでいるのに対し、1つのナタだけが、店の床に突き刺さっており、異様なオーラを発していたのだ。
すると、店主はそのナタについて説明し出す。
「いや〜……あのナタはなぁ、ワシが初めてここに来た時から刺さっておってな〜。もう60年くらい経つんじゃよ。いや、正確にはもっと前からかもしれんな〜」
なんと、そのナタは60年以上も前からそこに、突き刺さっているのだという。
60年以上も地面に突き刺さっているというのに、そのナタには錆一つなく、その刃はとても鋭く、綺麗であった。
そこに、チックが問いかける。
「なんで刺しておくんだ? 引き抜いて他と同じように並べれば良いじゃねえか」
チックがそう言うと、店主の顔は少し暗いものに変わった。
「できるものなら、とっくにそうしておるわ」
そう告げる店主に、今度はヴィルが聞く。
「何か出来ない理由があるのか?」
すると、店主は重い口を開き、それについて話し始める。
「ワシもあれを抜きたいんじゃけどな。どれだけ抜こうとしても抜けないんじゃよ。あのナタ自体が重いのか……何か特別な力が働いていて動かんのか、ワシには分からないんじゃ」
そう話す店主の顔はだんだんと悲しい顔に変わっていく。
「昔から、大柄な男に引き抜いてもらうよう、頼んだりはしてるんじゃが、どいつもこいつも金を要求してきてのう。ワシはそんな大金を持っておらんから、今もそのままってわけなんじゃ」
それを聞いた3人は、店主に同情する。
「そうか……大変なんだな」
そう言うヴィルを横目にチックはある提案をする。
「それじゃあ、俺らであのナタを引き抜いてやろうぜ!」
皆、人助けは嫌いではないため、チックのその提案に乗ることにした。
店主含め、4人全員が、そのナタの前に立つ。
そこで、近くでそのナタを見たチックが言う。
「このナタが、そんなに重いなんて想像出来ないけどな! もしかしたら、選ばれた人間だけが抜くことができるとかなんじゃねえか!?」
確かに、ナタの大きさはごく普通の大きさであり、重すぎるということは考えられない。
元の世界とは違い、一人一人に能力があることから、このナタにも何かしらの力が働いているのかもしれない。
そこで、まずは誰から引き抜くか決めることになった。
「それじゃあ俺から行かせてもらうぜ!」
なんと、チックからやると言い出した。
すると、チックにしては珍しくネガティブな発言をする。
「まあ、俺が選ばれた人間なわけないからな。」
明らかなフラグに聞こえるが……確かに、選ばれた人間なら国王からこんな仕打ちは受けていないような気もする。
そして、まずはチックから腕に力を込めて、そのナタを引き上げる。
「うおぉおらあぁぁあ!!」
すると、いとも簡単にそのナタは持ち上がってしまったのだ。
チックの腕の筋肉の張り具合から見るに、そこまで力を入れていなさそうに見える。
これには、店主も思わず目を見開き、地面に腰をついて驚いた。
まさか、チックが選ばれし人間だったのか……
しかし、あまりに簡単に引抜けるものだから、あまり納得出来ず、チックは店主を疑う。
チック「これ、本当に他の人は引抜けないのか? 爺さんの力がなかっただけじゃないのか?」
そこでチックは、ヴィルにも、これを引抜くよう指示し、そのナタを元あった場所にもう一度差し戻した。
「なんだよ……選ばれし者、とかじゃないのか〜」
そう口にしながら、ヴィルはナタを引抜こうとするが、どれだけ力を入れても、ナタは全く抜けない。
やがてヴィルは疲れ果て、そのナタから手を離した。
あまりにナタが引き抜けないものだから、ヴィルは驚いた様子でチックに向かって言う。
「ま……まさか、本当にチックが選ばれし者だったのか……」
ヴィルも若者で、平均男性の力と比べたら、少し強いくらいはあるはずなのだが、それでもこのナタが抜けないということは、もうチックが選ばれし者で確定というわけだ。
チックはあまりの嬉しさで、雄叫びをあげる。
「うおぉぉおお!! 俺が勇者だ〜!!」
まさか自分が選ばれし者であったなんて思ってもいなかったチック。
そして、チックは先ほどまで選んでいたナイフを元の場所に戻し、ナタを持ってこう言った。
「なあ爺さん! 俺、このナタを買うぜ!」
なんとチックは、そのナタを買うと言ったのだ。まあ確かに、選ばれし者が持っていた方が、色々と都合が良いだろう。
「あぁ。きっとそのナタも、お前さんに買ってもらうのが1番じゃよ」
店主はニコニコしながら、それを許可してくれた。
皆が会計台に戻り、チックがナタを購入するため、そのナタを会計台の上に置いた時の事だった。
“バキバキバキッ”
なんと、ナタを乗せた会計台は粉々(こなごな)に壊れてしまったのだ。
あまりに急な出来事に、皆、驚きから、声を出せずにいた。
その時、ヴィルが1つの可能性を思いつく。
「これ……もしかして、選ばれた者だけが引抜けるんじゃなくて、単純に重すぎるんじゃねえか?」
まさかそんなはずはないだろうと思いながらも、、試しにチックがナタを持ち上げて、それをヴィルに手渡した。
すると、ナタはそのまま下へと落下し、ヴィルもその勢いで地面に打ち付けられてしまう。
ヴィルもしっかりとナタを掴んでいたはずであるから、やはりこのナタ自体が重すぎることが確定した。
「なんだよぉ〜! 俺は選ばれし者じゃなかったのかよ〜!」
少しガッカリするチックだったが、普通の人間が持ち上げられないほどの重さのものを軽々と持ち上げる時点で、十分選ばれた人間ではある気がする。
それはさておき、店主はヴィルの持ってきたナイフに目をつける。
「あんた、なかなか珍しいもん持ってくるの〜」
どういうわけか、店主はニヤニヤしながらヴィルにそう言った。
気になったヴィルは店主に聞く。
「ん? なんでだ?」
すると、店主の返答は意外なものだった。
「ほっほっほ(笑)。なんせ、このナイフ、転移者や転生者でない者が持っても、何も起きないただのナイフなんじゃが、転移者や転生者が持つと、その能力を増大させることができるという優れものなんじゃ」
店主は続けて、そのナイフについての説明を始める。
「これは、今から約400年くらい前かの〜。異世界人の能力を増大させる鉱石、グリーンマイトというのが発見されての〜。異世界人についての決まりがなかった昔に、グリーンマイトが乱獲されて、今となっては全く取れなくなった、希少価値の高いナイフなんじゃ」
どうやらとても貴重なナイフらしい。
そういえば、この店主は、まだ3人が転移者であることを知らない。
そこで、チックが店主にそのことを伝える。
「ん? 俺ら転移者だぞ。だからそのナイフ使えるじゃねえか!」
それを聞いた店主は口が開いたまま塞がらなくなるほど驚いた。
なにせ、久しぶりの客だと思っていた人間が、実は異世界からの転移者であったのだから。
すると、店主は急に態度が変わり、震えるような声で3人に言った。
「こ……これは失礼致しました。転移者様でございましたか」
続けて店主が、3人に対して問いかける。
「転移者様ともあろう方々が、なぜこんな汚い武器屋に足を運んでくださったのでしょうか?」
そして、3人は、国王から退国命令が出されていて、今日中に王国を出ないといけないということ、もうあまり時間がないこと等、これまでの経緯を簡潔に店主に告げた。
「確かに、服装がこの世界のものとは思えませんな。そういうことでございましたか。大変でしたなぁ」
そこで、店主は思わぬことを言ってきた。
「それでは、お代は結構です」
なんと、武器を無料でくれるというのだ。
確かに、あまり散財は出来ないが、無料でもらうのはどうしても申し訳ない。
ヴィルは、そんな店主の優しさを断りつつ、金貨を手にして店主に差し出す。
「でも……流石にタダってのは、こっちとしても申し訳ねえよ」
しかし、店主はヴィルが差し出す金貨を受け取ろうとしない。
そこで、ヴィルは金貨を10枚、店主の手に握りこませ、ある案を提案した。
「それじゃあ、壊れた会計台の弁償代としてこれ受け取ってくれ」
武器屋でかなり時間を要してしまったため、それ以上、店主には何も言わせず、そのまま武器屋を後にした。
後ろからは、“ありがとうございました!”と力強い声が聞こえ、3人はなんだか良いことをした気分になって、すこし照れくさそうに笑った。
ところで、バーナは何を選んだのか、気になったチックがバーナに聞く。
「バーナ、お前は何の武器にしたんだ?」
すると、バーナは背中に付けた大きな武器を手に取り、言った。
「私はこの大鎌にした。黄色くて可愛いから」
まあ、男2人とは違って、あまり武器に興味がないバーナだったが、何かしら武器は持っておいた方が良いということで、可愛い武器を選んだという。
しかし、その大鎌は、バーナの身長ほどの大きなものであり、チックはそれについてバーナに聞く。
「でも、それお前には大きくねえか? 上手く使えないんじゃねえか?」
すると、馬鹿にされたことが気に触ったのか、少し怒りながら、チックに返す。
「私は体が小さいから、大きいものに憧れるんだよ」
まあ、体が小さいからこそ、大きな武器を使うことで、身を守れることもあるのだろう。
そんなことはさておき、次は国外生活で必要になるであろう、生活必需品を買わなくてはならない。
もうすぐ夕日も見えなくなりそうなくらいにまで日は沈んでいた。
3人は武器屋で手に入れた武器をしまうと、小走りで、町の市場へと向かっていった。