【第22話】大捜索〜グアルム王国〜
そうして、グアルム王国へと向かうことになった、第1戦闘部隊、第2戦闘部隊、第4戦闘部隊。
捜索が目的とはいえ、訓練も必要であるというワーマ国王からの指示により、各戦闘部隊は、それぞれ異なるルートを通ってグアルム王国へと向かっていくことにしたのであった。
その時、1つの馬車の中では、フォーとエースが話をしていた。
「もう〜なんで俺が捜索なんかしなきゃいけないんだよ〜! 勘弁してくれよ〜!」
そう弱音を吐くエースに、フォーはいつも通り冷たく返す。
「これは世界を揺るがす一大事です。一刻も早く見つけなければ、最悪の事態に繋がりかねません。なので弱音ばかり吐くのはやめてください」
そんなフォーに、エースは泣きつく。
「分かったよ〜! だったらせめて、一緒に回ってくれよ〜!」
フォーは、眉ひとつ動かすことなく冷静に返す。
「無理です。各班で分かれて動かなければいけないので。というか……エースさんの馬車ここじゃないでしょ。なんでここにいるんですか」
エースは、満面の笑みを浮かべて告げる。
「そんなの、お前と一緒に話したいからに決まってんだろ!」
そんな告白にも、フォーは一切動じることなく、またしても冷たい言葉を浴びせる。
「僕は別に話したくありません」
なんだかんだで仲の良い2人は、グラグラと揺れる馬車の中で、楽しく(?)会話をして向かうのであった。
そうして、進み始めてから約1時間。
皆は、ようやく、グアルム王国の領土へと入っていった。
しかし、これはまだ国境を越えたに過ぎず、グアルム王国まではまだかなりの距離がある。
ただ馬車に揺られながらグアルム王国へと向かうその時間は、エースにとっては何よりも苦痛であった。
しかし、そんなエースに応えるかのように、第1戦闘部隊の捜索班に危機が訪れる。
“シュッ”
エースたちの乗る馬車に、正面から1本の矢が突き刺さる。
その瞬間、フォーたちの乗っている馬車が急停止した。
フォーたちの乗っていた馬車に限らず、第1戦闘部隊の馬車全てが、その場で急停止した。
「ん?なんですかね」
フォーは、馬車が急停止したにもかかわらず、至って冷静な反応を見せる。
皆が馬車から顔を出し、外を見ると、何やら背の低い生物が向かってきているように見えた。
すると、フォーたちの乗っている馬車に、他の兵士が焦った顔をして窓から話しかけてきた。
「大変です! レッドゴブリンの群れに遭遇しました! 奴らは既に戦闘態勢に入っています!」
そう必死に訴える兵士だったが、その瞬間、またしても飛んできた1本の矢が、その兵士の右肩に突き刺さってしまう。
「ぐうっ……!」
その兵士は新米だったのか、矢を避けることは出来なかったが、叫ぶことなく必死に痛みに耐えている。
すると、今度はサン隊長がやってきた。
「君、大丈夫か? かなり深く刺さってしまっているが、応急処置を施せば、大事には至らないから、とりあえず今は落ち着くんだ」
撃たれた兵士は、汗をかきながら、撃たれた箇所「かしょ」を反対側の手で抑えながら、サン隊長の言葉をしっかりと受け取る。
そして、サン隊長が、フォーたちの乗っている馬車の窓から、フォーたちに向かって指示を下す。
「レッドゴブリンの群れに当たってしまった。私が始末するから、君たちにこの子の応急処置を頼んでも良いかな?」
もう今にも戦闘が始まりそうというこの状況でも、冷静に判断し、隊員に適切な指示を下せるサン隊長は、やはり優秀であることが見て取れる。
しかし、そんなサン隊長に意見を述べる者がいた。
「サン隊長、俺、暇すぎて辛かったんで、俺1人でレッドゴブリンお相手していいっすか?」
そう、それは、馬車での移動時間をとても退屈に感じていたエースだった。
しかし、サン隊長は厳しい視線をエースに送り、それを否定する。
「君は第2戦闘部隊だろう、なぜこの馬車に乗っているのかは知らないが、君1人では危険すぎる。私の指示に従いなさい」
サン隊長にそこまで言われては、従うしかない。
しかし、どうしても戦いに参加したかったエースは、サン隊長に代替案を提案する。
「分かったっすよ! それじゃあ、サン隊長の手伝いをさせてください! それならいいっすよね?」
あまりに押してくるものだから、サン隊長も面倒くさくなったのか、それならば良いと言うように、黙ってレッドゴブリンの方へと歩いていった。
「よっしゃ〜! じゃ、フォー行ってくるからな!」
エースはそう言って、扉を勢いよく開け、サン隊長の元へと走っていった。
第1戦闘部隊は、レッドゴブリンの群れに、円状に囲まれ、前進も後退もできない状況にある。
数は約80匹。第1戦闘部隊の捜索班として選抜されたのは20名なので、圧倒的に数的不利である。
しかし、サン隊長は皆の乗る馬車に声をかけ、馬車の中で待機しているよう指示を下していた。
つまり、もともとサン隊長1人で戦うつもりだったのだ。
そうして馬車の外では、サン隊長とエースが、80匹のレッドゴブリンと対峙していた。
他の隊員たちが、2人を心配そうに馬車の中から見ている。
サン隊長とエースはお互いに背を向けて立っている。
すると、サン隊長がエースに、ある指示をした。
「私は前の半分の相手をしよう。君は後ろの半分の相手をしてくれ」
その指示に、エースはどこか嬉しそうにしながら返事をする。
「あざっす! 任せてください!」
本来なら、サン隊長1人でも相手をできるのだが、エースがここまで参戦したいというのだから、異なる戦闘部隊の隊員だとしても、隊員の意見を尊重するのが隊長。
サン隊長は、そんな信念の下、エースの参戦を許可したのだった。
そうして、サン隊長とエースの、対レッドゴブリン戦が始まる。
先手を仕掛けたのはレッドゴブリンだった。
棍棒や斧を持ったレッドゴブリンたちが、次々とサン隊長に襲いかかる。
しかし、サン隊長は表情を一切変えることなく待ち構える。
そんなサン隊長に、レッドゴブリンの武器が、容赦なく次々と振り下ろされる。
「『雷鎧』」
サン隊長は、レッドゴブリンの攻撃が直撃する寸前、小さな声でそう唱えた。
するとその瞬間、サン隊長を、白い光が覆う。
辺りには“バチバチ”と何かが弾けるような音が響く。
そうして、サン隊長に振り下ろされたレッドゴブリンの武器は、瞬く間に塵と化し、それを掴んでいたレッドゴブリンたちは、体にビリビリと強い衝撃が流れた後、地面に転げ落ちた。
そう、サン隊長が纏っていたこの白い光は、超高電圧の雷であったのだ。
それをまともに喰らったレッドゴブリンたちは、真っ黒になりながら死んでいく。
だが、レッドゴブリンは厄介なことに、近距離と遠距離を共にこなせる、なかなかに優秀な魔物であり、近くに来たレッドゴブリンを倒せても、弓を構えているレッドゴブリンには、攻撃が及んでいない。
そして、次々と放たれる矢の攻撃が、サン隊長を襲う。
しかし、これもサン隊長には全く効かなかった。
なぜなら、サン隊長が纏っている雷によって、その矢は全て、サン隊長に当たる前に塵になってしまうからである。
そして、サン隊長が右腕を高く上げる。
「分散」
サン隊長がそう唱えると、今度はサン隊長の上げる右腕から、弓を構えているレッドゴブリンたちに向かって、雷が放たれた。
それによって、他のレッドゴブリンたちは、サン隊長によって全員丸焦げになってしまった。
一方その頃エースは、腰から剣を引き抜き、レッドゴブリンたちの方をまっすぐ見ていた。
そして、エースはニヤリと口角を吊り上げる。
「『音速分裂』!」
エースはゆっくりとレッドゴブリンの方に歩いていきながら、そう口にした。
その瞬間、エースの横に、どんどんと透けた残像のようなエースの姿が現れる。
そう、まるで、分身をしたかのように。
そんなことはお構い無しに、レッドゴブリンが次々とエースに向かってスタートを切る。
しかし、エースはそのままゆっくりと歩き続ける。
そして、1匹のレッドゴブリンが、真ん中のエースに棍棒を振り下ろす。
エースはもちろん、その棍棒を剣で受け止める。
しかし、次の瞬間……
“グサッ”
なんと、そのレッドゴブリンの後ろから、もう1人のエースが剣を突き刺し、腹部が貫通していたのだ。
そのレッドゴブリンは、その場で力なく倒れる。
そして、そこからは同様、分裂した何人ものエースが、次々とレッドゴブリンを切っていき、なんと1人で、40匹ものレッドゴブリンを倒してしまったのだ。
この光景には、他の第1戦闘部隊の兵士も言葉を失う。
流石は第2戦闘部隊トップ隊員。
戦闘力がずば抜けて高いことが窺える。
そうして、レッドゴブリンを見事全滅させたサン隊長とエースは、馬車に戻っていった。
その馬車の中では、右肩を撃たれた兵士の応急処置をするフォーの姿があった。
「おう! フォー! レッドゴブリンの駆除完了したぜ!」
エースはとても満足そうにフォーに語るが、フォーは不貞腐れたような態度でエースに返す。
「そのせいで僕が応急処置をすることになったんですけどね」
エースは「すまんすまん」と謝りながら、馬車に乗り込む。
すると、戦闘を終えたサン隊長がやって来て、怪我をした兵士に話しかける。
「君、動けるかい? ここまで来てしまったから、ワーマ王国に戻ることは出来ないけれど、捜索の際は、無理しなくて良いからね。とりあえず君は、私の馬車に乗りなさい」
そう言ってサン隊長は、手を差し伸べる。
その兵士は、サン隊長の隊員思いの優しい心に触れて、涙を流しながらサン隊長の手を取った。
皆の再出発の準備が出来た頃、サン隊長が馬車の外に出て、皆の乗っている馬車の方を向いて話を始める。
「いいか皆! グアルム王国の地には、こうした危険な魔物が大量に生息している! これから先もこのようなことが起こるかもしれないから、気を引き締めて行くように!」
皆はサン隊長の声に、馬車の中から大きな返事を返した。
そうして、レッドゴブリンの襲撃は、ものの1分程度で終わり、第1戦闘部隊は、再びグアルム王国へと向かうのであった。
グアルム王国には、ワーマ王国やレイン王国よりも、より強い魔素が蔓延っている。
それ故に、グアルム王国の土地には、ワーマ王国やレイン王国とは比にならないほどの魔物が存在しているのである。
その頃第2戦闘部隊では、第1戦闘部隊と同様、グアルム王国の洗礼を受けていた。
第2戦闘部隊を襲っていたのは、魔物ランクA-のケルベロス。
ケルベロスとは、3つの頭を持った巨大な犬である。
頭が3つあるせいか、戦闘知能は異常に高く、スピードも早い上に、大きく鋭い爪で薙いでくるという非常に厄介な魔物である。
「私が相手をしよう」
その時、シュヴェルト隊長は、単身馬車から降り、黒剣を抜くと、ケルベロスと対峙した。
「(ケルベロスは、頭は3つあるが、心臓は1つ。心臓さえ刺してしまえば、奴は絶命する。)」
そう、シュヴェルト隊長は、冒険者時代、数多の魔物を倒してきた猛者。
人間世界に住み着く魔物の情報には詳しく、今目の前にいるケルベロスの弱点も、瞬時に導き出した。
そして、先に動いたのはケルベロスだった。
大きな4本足で、凄まじい速さでシュヴェルト隊長へと突進してくる。
しかし、シュヴェルト隊長は一切動じることなく、静止している。
“シャキンッ”
ケルベロスは、前足から大きく鋭い爪を生やす。
そうして、シュヴェルト隊長の目の前まで来た時、大きな前足を振り上げ、その強靭を容赦なくシュヴェルト隊長へと振り下ろす。
“カーンッ”
その強烈な一撃は、辺りに強風を巻き起こし、その威力は、人の乗っている馬車が少し傾くほどであった。
その強風とともに、辺りには砂埃が舞い上がる。
そして、砂埃が晴れた時、ケルベロスの目の前にいたのは、鎧に傷跡1つ付いておらず、至極当然のように立っているシュヴェルト隊長であった。
「(心臓を突いたところで、一時的に怯みはしても、きっとケルベロスの異常な再生能力ですぐに戻ってしまうだろう。ならば……)」
シュヴェルト隊長はその瞬間、 ケルベロスの振り終わりの隙をついて、ケルベロスの体の下へと潜り込む。
“グサッ”
次の瞬間、シュヴェルト隊長は、黒剣をケルベロスの心臓部分目掛けて思い切り突き刺す。
“グォォォオオアアア”
ケルベロスは、けたたましい叫び声をあげる。
しかし、シュヴェルト隊長の攻撃はこれでは終わらない。
「『衝撃解放』」
シュヴェルト隊長がそう口にした瞬間、突き刺した黒剣の辺りが、何やらウニョウニョと動き出した。
そして、次の瞬間……
“ドーンッ”
何かが爆発したような爆発音が、辺りに響いた。
その音と同時、ケルベロスは、白目を剥いて力なく倒れた。
この時、何が起こっていたのか。
それは、シュヴェルト隊長の能力にあった。
あの時、シュヴェルト隊長は、あえてケルベロスの攻撃を躱さず、ケルベロスの強力な一撃による衝撃を吸収していた。
そして、黒剣をケルベロスの心臓に突き刺したと同時、その吸収した衝撃を、黒剣を伝ってケルベロスの心臓へと解放したのだ。
それにより、ケルベロスの心臓は破裂し、絶命したのだ。
ケルベロスによる襲撃を、たった1人で抑え、ましてや倒してしまうとは、シュヴェルト隊長の力はまだまだ計り知れない……
そうして苦難を乗り越えた第2戦闘部隊は、ケルベロスの死骸の横を通って、グアルム王国へと向かっていくのであった。
一方、第4戦闘部隊はというと、辺りに白い霧がかかり、空は真っ黒な雲が広がる、薄暗い不気味なルートを通っていた。
そこら一帯は特に魔素が濃い地域であり、大量の魔物が出現しやすいのである。
当然そんな所を通っていては、魔物に襲われないはずもなく……
“バッ……カタカタカタカタカタ”
第4戦闘部隊の走る馬車の周りから、奇妙な音とともに、地面から何かが生えてくる。
その時、他の兵士がその正体に気づいたようで、焦った顔でビリー隊長に告げる。
「隊長! スケルトンの住処に入ってしまったようです!」
それを聞いても、ビリー隊長は静かに目を閉じて話す。
「ふん……スケルトンならば戦う意味もなかろう……ほれ、レンス……」
そう言って、ビリー隊長は片目を小さく開き、同じ馬車に乗っていたレンスに目で合図を送る。
レンスは何も話すことなく静かに頷く。
すると、走っていた4つの馬車を、青い半透明のドームのようなものが覆った。
“スッ”
その瞬間、馬車から一切の音が消える。
それにより、スケルトンは辺りを見回すように首を横に動かすと、次々と地面へと潜っていった。
スケルトンには目がないため、相手を視認することは出来ない。
しかし、音という空気の僅かな振動を感じ取り、相手を認識し襲いかかってくるのである。
しかし、レンスの能力<消音>により、振動を感じ取れなくなったスケルトンは、相手が消えたと錯覚し、地面へと潜っていったのである。
こうして第4戦闘部隊は、スケルトンと交戦をすることなく、スケルトンの住処を通り抜け、グアルム王国へと向かっていくのであった。




