【第21話】大捜索〜緊急会議〜
歓迎パーティーを楽しんでいるレイン王国の皆の知らないところで、ワーマ王国は着々と動き出していた。
幹部会議をしたその日の夜、ワーマ国王から幹部たちに、緊急会議の集合がかかった。
皆が時間通りに会議室に集合し、緊急会議が始まる。
ワーマ国王が、緊急会議の議題を話し始める。
「悪いな、こんな時間に集まってもらって。実は、幹部会議の後、グアルム王国とレイン王国に手紙を送ったのだ」
いつも怠惰国王が、あの3人のことともなると、そこまでするようになったのかと、幹部の皆は感心する。
そして、ワーマ国王が神妙な面持ちで話を続ける。
「そして先ほど、グアルム王国から返事が届いたのだ」
その言葉に、若干の違和感を感じ取ったシュヴェルト隊長は、ワーマ国王に質問する。
「ワーマ国王、レイン王国からの返事はあったのでしょうか?」
その質問を受け、ワーマ国王は怒りを抑えているのか、目を瞑って話す。
「いや、レイン王国からの返事は来ていない」
その声には、どこか怒気がこもっているように聞こえる。
普通なら、王国からの手紙の返事が当日に返ってこないなど当たり前なのだが、この件は世界を揺るがすほどの超重要事項。
グアルム王国からは返事があるのに、レイン王国からは返事がないことに、幹部の皆は、レイン王国に少しの疑念を抱く。
そこで、エースがレイン国王に問いかける。
「ところで、返事の内容って何だったんすか?」
そして、ワーマ国王は、グアルム王国からの返事の内容を話し始める。
「あぁ、結論から言えば、グアルム王国には来ていないらしい」
しかし、この答えには、特に誰も驚くことはなかった。
なぜなら、ワーマ王国から抜け出して、1番近くにある王国は、グアルム王国ではなく、レイン王国であり、3人はレイン王国に入国した可能性が高いからである。
そこで、グアルム王国からの返事の内容を聞いたエースは、嬉しそうに声をあげる。
「ってことは、もうグアルム王国の捜索はしなくても良いってことっすよね!?」
しかし、ワーマ国王は、首を横に振って答える。
「いや、もしかしたら、あの3人の正体を知って、隠している可能性もある。念の為、グアルム王国内を捜索することの許可は得ているから、やはり貴様らには、グアルム王国の捜索をしてもらおう」
それを聞いて、エースはガッカリした様子で、机に突っ伏してしまう。
すると、シュヴェルト隊長が口を開いた。
「しかしそうなると、よりレイン王国が怪しくなってきましたね」
その声に、ワーマ国王も大きく頷く。
「あぁ。今の状況から見て、レイン王国にいる可能性が最も高いだろう」
それから少し沈黙が続き、少しすると、サン隊長がワーマ国王に質問をした。
「ワーマ国王、もし仮にどちらかの王国に、その3人の転移者がいたとして、ワーマ王国への加入を拒否した場合、どうされるおつもりですか」
その質問に、ワーマ国王は悩ましげな表情を浮かべながら話す。
「うむ……やはりその場合は、なんとか説得をして、ワーマ王国に戻ってきてもらいたいのだが、どうしても嫌というのであれば、最悪、始末するしかないであろう」
その言葉に、会議室には一気に緊張感が漂い出す。
ワーマ国王がそこまでの決断をする理由……それは、複数能力をもつ異世界人の特徴にある。
異世界転移による複数能力の異常発現……それは、規定数以上の異世界人を転移した場合にごく稀に起こるものであり、この世界には10人しか存在しない。
そして、なぜ複数能力をもつ異世界人を生まないよう、規定を設けるのか。
それは単純明快。
能力の掛け持ちは、純粋にこの世界の人間の能力を上回る力を持つからである。
異世界人の暴走が起これば、この世界の人間ではどうしようもなくなってしまう。
本来なら、そのような転移者は、規定数以上の転移を行った場合にのみ起こるので、そもそも異常発現を起こすこと自体、この世界では禁忌とされているのである。
もしこの事実が他の王国に知られてしまえば、ワーマ国王は近隣王国はもちろん、離れた王国までもの信用を失うことになるであろう。
ましてや、他の王国の支配を目論んでいるのではないかと疑いの目を向けられ、ワーマ王国ごと、この世界から消されてしまう可能性すら最悪の場合は考えられる。
この事実の隠蔽、また、ワーマ王国の戦力拡大のため、ワーマ国王は一刻も早く、あの3人を連れ戻したいのだ。
そんなこんなで夜の緊急会議は終わり、幹部は皆、明日に備え眠りにつく。
一方その頃、レイン王国では、歓迎パーティーを無事終わらせ、3人も眠りについた頃だった。
レイン国王は、ワーマ王国との同盟関係や、その他王国との貿易関係等について、自室で頭を悩ませていた。
すると、レイン国王の部屋の扉を、何者かがノックする。
「失礼致します」
入ってきたのは、レイン国王の秘書こと、セルス・ミニット。
なにやら紐で縛られた巻紙を持っているようである。
セルスはそれを、レイン国王の机に置く。
「国王様、ワーマ王国からの手紙でございます」
その言葉を聞いた瞬間、レイン国王は寒気に襲われる。
なぜなら、レイン王国は現在、ワーマ王国と上手くいっていない。
もしかすると、同盟関係の破棄なのではないか、そう思ったからだ。
レイン国王がゆっくりと紐を解き、手紙を開く。
するとその内容は、レイン国王の思っていたものではなかった。
「3人の極悪転移者がレイン王国に侵入している可能性がある、捜索に協力しろ……?」
レイン国王は首を傾げる。
そして、レイン国王は、セルスに事情を聞くことにした。
「セルス、これは一体どういうことなのだ?」
レイン国王がそう尋ねると、セルスは真剣な表情で語り始める。
「はい、どうやら近頃、ワーマ王国に転移してきた異世界人が、ワーマ王国を脱走し、色々な王国を回って悪さをしているようです。そこで、レイン王国に侵入している可能性があるから、心当たりはないか、また念の為、捜索に協力してほしいとのことです」
レイン国王は、思っていた内容とは違い、ほっと胸を撫で下ろす。
しかし、レイン国王には、そんな3人の存在など微塵も身に覚えがない。
「そんな3人は全く心当たりがないな。ここ最近でもそのような報告は受けていないしな。しかし、不法侵入している可能性があるのかもしれないのなら、捜索に協力するのは良いだろう」
ここで断っても、ワーマ王国との関係が悪化するだけなので、レイン国王は快くそれを受け入れた。
すると、セルスが少し苦い顔をしながら、レイン国王に告げる。
「レイン国王、手紙の最後の部分を見てみてください」
言われるがままに、レイン国王は手紙の最後の部分に目を当てる。
それを見たレイン国王は、目を丸く見開き、我が目を疑う。
そこには、衝撃的な一言が書いてあった。
「そ……捜索は明日!? ワーマ王国から第3戦闘部隊の捜索班がやって来るだと!? これでは返事が間に合わないではないか!」
そう、レイン王国から返事を送れなかった理由、それは、アイスの捜索や、3人の歓迎パーティーの準備で忙しく、手紙を読むのが遅れてしまったからである。
「くっ……仕方ない、明日事情を話すしかないか……」
レイン国王は唇を噛みながら、険しい顔で頭を悩ませる。
すると、セルスは、ある1つの恐ろしい仮説を思いつき、ワーマ国王へと話す。
「まさかとは思いますが、ワーマ国王の言っている極悪転移者の3人というのは、今日レイン王国にやってきたヴィル様方ではないのでしょうか」
それを聞いて、レイン国王は冷や汗をかきながら話す。
「まさか……そんなはずは……彼らはワーマ王国から追放されたと言っていた。ワーマ国王の言っていることと異なっているぞ」
そんなレイン国王に、セルスは冷たい視線を向けて話す。
「極悪人と言われる人間が、真実を述べると思いますか? 追放されたと嘘をつき、レイン王国に入り込む目的であった可能性もあります」
セルスの言い分を、レイン国王は必死に否定する。
「しかし、レイン王国では、何も悪事を働いていないではないか!」
その時、セルスは目を瞑り、どこか切ない表情で話す。
「実は、街の見回りをしていた者から、あの3人が、ワーマ王国から派遣されてきた兵士と名乗る人物に手をあげたという報告が入ってきております」
それを聞いて、レイン国王の顔が青ざめていく。
レイン国王は、消え入るような小さな声で、セルスに訴える。
「しかし……彼らは……」
セルスは、レイン国王の心を呼んだかのように、レイン国王の言葉を遮り、話す。
「しかし彼らが転移者であるとは、到底考えられない……そうおっしゃりたいのでしょう」
レイン国王は、自らの心を読まれ、驚く。
しかしセルスは、険しい表情を浮かべ、話を続ける。
「しかし、私は見てしまったのです。歓迎パーティーで初めて、私は彼らとお会いしました。その時、ヴィル様の懐には、グリーンマイトが使われているナイフが仕込まれていました」
レイン国王は、不安そうな表情で、セルスに問いかける。
「それが……どうかしたのか……?」
セルスは、グリーンマイトという鉱石の性質をレイン国王に説明する。
「グリーンマイト、今から約400年前までは一般に流通していた鉱石です。現在は獲得量が著しく減少し、希少価値の高い鉱物となりました。それに、グリーンマイトには、転移者の固有能力を増強させる力があります。それもあってか、現在は非常に価値が高いので、一般には手に入れることは出来ないのですが、もし彼らが極悪転移者なのだとしたら……」
そこまで説明すると、レイン国王も理解したようで、俯きながら小さな声で言う。
「わざわざそれを持っているということは転移者である可能性が高く、彼らのような身分では手に入れることが出来ない……つまり盗みを働いたと言うわけか……」
そんなレイン国王を見て、セルスも心が痛くなったのか、少し悲しげな表情を浮かべる。
「その可能性が非常に高いかと……」
もはやここまでくると、ワーマ国王の言っている極悪転移者の3人とは、ヴィル、チック、バーナの3人で確定だろう。
レイン国王も内心では分かっていた。
レイン国王の体は小刻みに震えている。
「レイン国王、ここはやはり、彼らとの同盟関係を断ち切り、ワーマ王国に連れていった方が……」
セルスはそんなレイン国王を宥めようと声をかける。
しかし、レイン国王はゆっくりと顔を上げ、決意に満ちた表情で、セルスに訴えかける。
「それでも……彼らはアイスを救ってくださった英雄。それに、彼らの瞳は、決して濁ってはいなかった。私は、そんな彼らのことを信じたい……」
セルスは、そんなレイン国王の力強い訴えに心を動かされ、それ以上とやかく言うことをやめた。
「左様でございますか。それは、失礼いたしました。念の為、ワーマ王国には、そのような3人は来ていないとのお返事を書いておきます」
そうしてセルスは、レイン国王の部屋から出ていった。
レイン国王は、自室でただ独り、3人がワーマ国王の言う極悪転移者でないことを祈るのであった。
〜翌朝〜
ワーマ王国では、各戦闘部隊の捜索班に、ワーマ国王からの集合がかかり、開けた土地に皆が集まっていた。
「良いか! 今回の目的はあくまで、3人の転移者をワーマ王国に連れ戻してくることだ! よって、戦闘はなるべく避けること! もし奴らがワーマ王国への入国を拒否した場合は、一度撤退し、すぐに私に報告するように!」
ワーマ国王の声に、その場の士気が鼓舞され、皆がやる気に満ちた表情を浮かべる。
そうして、各捜索班は、馬車に乗り込むと、それぞれが目的地に向かって走っていくのであった。




