【第20話】最高のおもてなし
そうしてグラトルとの戦いを終え、5人はグラウンドから出て街へと戻っていく。
そこからは、特に大きなハプニングもなく、色々な店や建物を回っていった。
楽しい時間はあっという間に過ぎ、気がつけば空が夕焼けに包まれ、時刻は17時になっていた。
そろそろ城に帰ろうかと話をしている時、アクアが皆に嬉しい提案をする。
「皆さん、今日は1日動き続けて、さぞお体も疲れが溜まっているでしょう。よろしければ、レイン王国が運営する温泉にでも入りませんか?」
そんな提案に、チックが断るわけもなく……
「おう! 入りてえ! 早く連れてってくれ!!」
チックはアクアの肩を掴んでグラグラと揺らしながら叫ぶ。
そんな様子を見てヴィルとバーナはチックに“じ〜っ”と冷たい視線を送る。
しかし、温泉には2人も興味があるようで、2人もチックと同じ意見であった。
そして、ヴィルがバーナに声をかける。
「そういえば俺たち、体を拭いたりはしたけど、風呂には入ってなかったな」
バーナは小さく頷いて話す。
「うん、もう2週間以上入ってないよ」
そうして、満場一致でアクアの提案に賛成し、5人は温泉へと向かうことになった。
時刻は18時。辺りはだんだんと暗くなってきて、空にはポツポツと綺麗な星が輝いている。
5人はようやく温泉へとたどり着き、体にタオルを巻き付けると、早速入ることとした。
しっかり男湯と女湯に別れており、バーナは女湯、それ以外の皆は男湯に入っていった。
その温泉は露天風呂で、綺麗な夜空が一面に広がる。
その温泉を見るなり、チックは叫ぶ。
「うぉぉぉおおお!! なんだこれ!!??」
チックが叫ぶのも無理は無い。
そこの露天風呂からは、明るく光るレイン王国の街を一望できるようになっていたのだから。
「早速入りましょう!」
アクアの声で、皆がそれぞれ温泉へと入っていく。
「熱っ!」
アイスは足をつけた瞬間、そう声を上げた。
アイスはまだ9歳。温泉の温度はかなり熱くなっていたため、アイスにはキツイのだろう。
そこで、アクアがアイスに声をかける。
「熱かったか? あそこに調度良い温度のお風呂があるから入っておいで」
そうしてアクアが指を指す方向には、ちょうど1人入れるくらいの小さな温泉があった。
アイスは頷いて、そのままその風呂の方へと向かっていく。
アイスの方を見ると、どうやら水温はちょうど良かったようで、気持ちよさそうに浸かっている。
そして、大きな温泉にはヴィル、チック、アクアの3人が入りリラックスする。
そうして少し浸かっていると、アクアがチックに話しかけた。
「チックさんの体は本当に筋肉が大きいですね。鍛えていらっしゃるんですか?」
筋肉のことを聞かれたチックは、とても嬉しそうな笑顔を浮かべて、話し出す。
「おう! そうだぜ! 毎日筋トレは欠かさずやってるからな!!」
それほどまでの筋肉を、アクアは見たことがなかったのか、思わずチックの体に見惚れてしまう。
その流れで、アクアがヴィルの方へ目を向ける。
そしてヴィルの顔を見ると、アクアはヴィルに問いかける。
「ヴィルさんの顔にある模様? みたいなものって、何なんですか?」
そう、ヴィルの左頬に(ひだりほほ)は、不気味な模様が浮かんでいるのだ。
アクアはなんの悪気もなく、ただ普通に聞いたつもりだった。
しかしその瞬間、チックがなぜか焦り出す。
「アクア! それは聞いちゃダメだ!」
チックがいきなり焦った様子で大声を出すものだから、アクアは驚いて固まってしまう。
しかし、ヴィルの反応は、チックの思っていたものとは全く違った。
「チック、大丈夫だ。別に俺自身はこれを、そんなに気にしてるわけじゃないしな」
2人の言っていることがよく分からず、混乱するアクア。
そこで、ヴィルがアクアに、その模様について語り始める。
「この模様はな、俺が前までかかってた病気のせいで出来たんだよ。不治の病だって言われて、余命があと1年だったんだけどな、なぜかもう体もめちゃくちゃ動くし、痛くもねえんだよ。まあこの模様は消えなかったけどな(笑)。」
そう言って、ヴィルは小さく笑った。
アクアは、暗い表情を浮かべ、落ち込んだ様子でヴィルに謝罪する。
「そうだったんですか……私の配慮が足りませんでした。本当に申し訳ないです」
そう謝るアクアに、ヴィルは微笑みながら言う。
「そんな暗い顔するなって。別に気にしなくていいぞ、コンプレックスでもないし」
そのヴィルの話を聞いて、チックが驚いた様子でヴィルに聞く。
「お前、コンプレックスじゃなかったのかよ! いつもマスクしてるから、コンプレックスなのかと思ったぜ!」
確かにヴィルは、四六時中マスクをしている。
そこでヴィルが、自身がいつもマスクをしている理由をチックに話す。
「まあ、マスクをしてるのは、この模様を隠すためだけど、コンプレックスだからじゃなくて、周りの人を怖がらせないためなんだよ」
それを聞いて、チックは“お〜”とヴィルに感心する。
2人の会話を聞いてもなお、アクアは自分の質問に罪悪感を感じているのか、暗い表情が晴れずにいる。
そんなアクアをヴィルが気にかける。
“ピュッ”
その時、ヴィルが手を水鉄砲のようにして、アクアの顔にお湯をかけた。
「うっ……何するんですか……」
アクアが顔を擦りながらそう言う。
気づいたら、ヴィルはアクアの隣にいた。
「そんなに暗い顔すんなって。せっかく温泉に入ってるのに、もっと疲れが溜まっちまうぞ」
ヴィルの慰めの言葉に、アクアも表情が和らいでいく。
「……はい」
その時、チックがアクアに声をかける。
「そうだぞアクア! 暗い顔すんな!」
そう言ってチックは、ヴィルと同じように手を水鉄砲のようにして、アクアに水を発射する。
“ブシャーッ”
しかし、その威力はヴィルとは比べ物にならないほど強く、アクアとヴィルはビショビショに濡れた。
「おっと、すまん!」
それとともに、アクアが盛大に笑いだし、男湯はとても賑やかな雰囲気に包まれた。
一方その頃女湯では、バーナがただ1人温泉に浸かっていた。
「(楽しそうに話してるな〜。アイスだけでもこっちに来てくれたら良かったのに。アイス、ちゃんとお風呂入ってるのかな〜。ちょっと覗いてみようかな)」
なんとバーナは、アイスの裸姿を見るために、男湯と女湯を隔てる壁をよじ登り、男湯を覗こうとした。
しかし、次の瞬間……
“ブシャーッ”
「うっ……!」
なんと、ちょうどチックがアクアに放った水が、あまりの威力で、その先にいたバーナにも直撃し、バーナはそのまま、女湯の温泉へと落ちてしまった。
そうしてバーナは、温泉の中で叫ぶ。
「チックふざけんな〜!!」
多少のハプニングはあったが、5人は温泉にゆっくり浸かって、疲れを癒した。
5人がさっぱりした様子で温泉から出ると、廊下には、知らない女が立っていた。
格好を見るに、どうやらレイン王国の城に勤める者のようである。
「皆様、歓迎パーティーの用意が出来ました。ご案内致します」
3人は、いきなり歓迎パーティーなどと言われても、全くなんのことか分からず混乱する。
そして、ヴィルがアクアに問いかける。
「なあアクア、歓迎パーティーってなんだ?俺たちのことか?」
その問いに対し、アクアはニコッと笑う。
「とりあえず、皆さんついてきてください」
なんのことなのかは教えてはくれなかったが、3人は言われるがままに、女を先頭に、アクアとアイスの後をついて行った。
しばらく城内を歩くと、昼にも案内された食堂へと案内される。
食堂からは、賑やかな声が聞こえてくる。
そして中へ入ると、レイン王国の幹部と思われる人や、城の従者、その他色々な人が、楽しそうに話している姿が目に入る。
すると、5人の存在に気づいたレイン国王が、近づいてくる。
「皆さん! よくぞ、おいでくださいました! お料理の用意も出来ております! 今日は存分に楽しんでいってください!」
たった3人のためにそこまでするか、とヴィルは内心思っていたが、せっかく用意してくれた歓迎パーティーを楽しまないわけにもいかないと思い、歓迎パーティーに参加することとした。
レイン国王から“料理”という言葉を聞いて、チックは周りをキョロキョロと見渡すと、料理の置いてあるテーブルへと走っていき、置いてある料理を次々と食べ始めた。
そんなチックは置いておいて、ヴィルは、レイン国王に質問する。
「レイン国王、歓迎パーティーをやるなんて、いつ決めたんだ?」
レイン国王は、満面の笑みを浮かべると、アクアとアイスの肩に手を乗せて嬉しそうに話し出す。
「実は、この歓迎パーティーは、アクアとアイスの案なのです」
そうして、アクアとアイスが照れくさそうにしながら話す。
「皆さんには何度も助けていただいていますし、これくらいはさせてください」
「皆さんは私の命の恩人ですし、何かお返しをしたいと思いまして」
なんともまあ、綺麗な心の持ち主なのだ、とヴィルとバーナは、3人に感動する。
そして、ヴィルとバーナも、それぞれ食べたいものを食べに行くことにした。
そうして、歓迎パーティーが中盤に差し掛かった時のことである。
ヴィルとチックとバーナの3人は、3人で一緒になって食堂の中を回っていた。
ヴィルはワインを片手に持ち、チックは大量の肉を皿に乗せて、バーナは大量のバナナを手に抱えている。
「このワイン美味っ……」
ヴィルが、そう感想を述べると、チックも肉を食べながら言う。
「この肉もめっちゃ美味ぇぞ!!」
そうして3人がワイワイしていると、レイン国王がまた、3人の元へとやってきた。
しかし、今度は後ろに何人か人がついてきている。
レイン国王が3人の前に立ち、声をかける。
「皆さん、楽しんでいただけているでしょうか」
チックは口に肉を入れたまま、レイン国王に言う。
「おう! 肉も美味ぇし、最高だぜ!!」
チックの言葉に、レイン国王は嬉しそうな笑顔を浮かべた。
すると、レイン国王が話し始める。
「それは良かったです。そこで、同盟を結ばせていただいたということで、うちの幹部の者たちも紹介しないといけないと思いまして、こちらの4人を連れてきました」
レイン国王の後ろに目を向けると、確かに4人立って並んでいたが、その中に1人、見覚えのある人物がいた。
その者に、ヴィルが声をかける。
「おぉ、グラトルさん。さっきぶりだなぁ」
すると、グラトルが前に出て話す。
「いやぁ皆さん、先ほどはありがとうございました!」
いきなり仲良く話すものだから、レイン国王も驚いた様子で、グラトルに問いかける。
「なに、グラトル、皆さんとどこかでお会いしたのか?」
驚いた様子で目を向けてくるレイン国王に対し、グラトルは豪快な笑顔を浮かべながら返答する。
「実は、アクア王子とアイス王子が、皆さんを訓練場へ連れてこられまして、皆さんとは一度、剣を交えさせていただいたのです」
それを聞いたレイン国王は、3人の方を見て、心配そうな顔をしながら話す。
「そうだったんですか! 皆さん、お怪我はございませんでしたか?」
レイン国王があまりに心配するものだから、ヴィルは、なんとかレイン国王の不安を取り除こうと、するのだが、そこにチックが割って入る。
「おう! なんともないぜ! 俺ら最強だからな!」
王国一の剣士を前に、自らを最強と豪語するのは如何なものかと思うが、グラトルは笑って返す。
「がっはっはっは! 確かにチックさんのような、強風を巻き起こす剣は見たことがなかったですな!」
王国一の剣士に褒められ、気分が良くなっているチックに、バーナが水を差す。
「でもチック負けてたじゃん」
バーナの言葉に、チックはイラッとして、言い返す。
「あ!? あとちょっとで勝てただろうが! っつーか、お前は戦ってねえんだから黙ってろよ!」
それに対し、バーナもキレ返す。
「はぁ!? どこがあとちょっとだよ! 開始15秒くらいで負けてたじゃんか!」
歓迎パーティーだろうがなんだろうが、どこにいても喧嘩が始まるこの2人には困ったものだが、ヴィルはもう慣れたのか、2人を無視して話を進める。
「ところでレイン国王、隣の3人は誰なんだ?」
すると、レイン国王はハッとした様子で、急いで残りの3人の紹介をする。
「あ!申し訳ございません。グラトルの隣におります彼女は、マギア・アルス。レイン王国では、魔導書の管理、魔術の研究をしてもらっております。」
マギア・アルスは、金髪で髪の長い、スタイルの良い色気のある女性で、頭には大きなウィッチハットを被っている。
マギアは、1歩前に出ると、丁寧なお辞儀をして挨拶をする。
「マギア・アルスです。皆様、よろしくお願い致します」
するとマギアは、バーナと喧嘩をしているチックの元へ歩いていき、チックの肩にそっと手を乗せると、耳元で囁いた。
「チックさん……筋肉が凄いですね。男前でかっこいい」
チックは、マギアの声を聞いて、後ろを振り返る。
その瞬間、チックはマギアの姿を見るなり、鼻血を勢いよく噴射して、地面に倒れた。
「あら、どうなされたんでしょう」
マギア・アルス、色気全開で近づいてきて、チックに何もさせずに倒してしまうとは、男のことをよく理解しているようである。
それにしても、マギアの姿を見るなり鼻血を出して倒れるとは、チックは実に女に弱い。
続けて、レイン国王が他の幹部の紹介をする。
「そして、マギアの隣にいるのが、セルス・ミニット。私の秘書として働いてもらっております」
セルス・ミニット、見るからに優秀な秘書である。
秘書らしく綺麗に整ったなスーツを着ており、その立ち姿には、一切の隙もない。
セルスは3人に軽くお辞儀をすると、そのまま後ろに下がった。
そして、レイン国王が最後の1人を紹介する。
「そして、一番端におりますのが、レイン王国一の武器職人、ファベル・アルミンでございます」
ファベル・アルミン、レイン国王一の武器職人とは言うが、その風貌は、ヨボヨボなおじいちゃんであり、本当に武器など作れるのだろうかと心配になる。
すると、ファベルがゆっくりとヴィルの前に近づいてくると、妙なことを言い出した。
「お主……こんなヨボヨボなジジイが本当に武器なんか作れるのか……そう思っておるじゃろ」
その問いに対し、ヴィルは全く動じることなく淡々(たんたん)と返す。
「おぉ、よく分かったな」
そんなに冷静に返されるとは思っていなかったのか、ファベルが少し落ち込んだように見えた。
しかしファベルは、続けて話す。
「じゃがなぁ若造、わしは70年もの間、剣を作り続けてきたんじゃ! この体を見てみい〜!」
ファベルはそう言った瞬間、自身の着ている服を“バサッ”と勢いよく脱ぎ捨てる。
「どうじゃ! わしのこの筋肉! そこに寝てるやつと張り合える良い体じゃろ!」
そう言って、服を脱いだファベルは、色々なポージングを見せてくる。
それを見て、ヴィルは特に何も思わなかったが、バーナは恥ずかしそうに目を手で塞いでいる。
すると、後ろにいたマギアが、右手の拳に力を込めて、ファベルの脳天を思い切り殴り、怒鳴り声をあげる。
「おいジジイ! 何、裸晒しとんじゃ! 公然わいせつで務所送り込んだろうかワレェ!」
先ほどまでの色気は全くなく、怒りの形相でファベルに怒鳴りつけるマギア。
ファベルは、殴られた箇所を手で押え、涙目で言う。
「うぅぅ、マギちゃん酷いぞよ〜」
その様子は、どこかチックとバーナの関係に近しいものを感じて、ヴィルはクスッと笑った。
ファベルは、のろのろと服を着て、皆に頭を下げたあと、落ち込んだ様子で後ろに下がる。
ちょっとしたハプニングはあれど、レイン国王による幹部の紹介が終わった。
それからは、芸を見たり、ダンスを見たり、3人は歓迎パーティーを存分に楽しみ、はちゃめちゃな出来事で盛りだくさんだった1日を終えた。
楽しい時はあっという間に過ぎ、翌朝、皆はレイン王国の門の前に集まる。
3人は、自分たちの家に置いてきた荷物を取りに行くため、レイン国王が手配してくれた馬車に乗り込む。
そうして馬車が動き出すと、チックは身を外に出して、皆の方に手を振る。
「すぐ帰ってくるからな〜! 待ってろよ〜!」
皆も笑顔で手を振りながら3人を見送る。
3人の乗った馬車が、遠くへ離れ、だんだんと小さくなってくる。
レイン国王は3人を見送り、王国に戻る。
その時だった……
“ガラガラガラガラガラガラ”
どこからか馬車が向かってくる音が聞こえる。
「(皆さんの乗っている馬車の音ではない……どこだ?)」
レイン国王は辺りを見渡す。
そして、レイン国王の目に、4台の馬車が映る。
そしてここから3人は、予想だにしない王国間の対立へと巻き込まれていく。




