【第19話】王国一の剣士
店主からもらった果物を頬張りながら、レイン王国の街の中を歩く5人。
すると、アクアが3人に疑問に思っていたことを聞く。
「先ほど助けていただいた時や、レッドゴブリンとの戦いを見て思ったのですが、皆さんはワーマ王国にいた時は、兵士とかをやられていたのですか?」
その質問に対して、ヴィルが笑いながら答える。
「多分そうなるはずだったんだけどな……追い出されちまったから、なれなかったんだよ」
それに続いてチックが嬉しそうに言う。
「まあでも追い出されて正解だったかもな! そのおかげで、レイン王国に来れたわけだし!」
それを聞いてアクアが、嬉しそうな笑顔を浮かべる。
そして、ヴィルがアクアに聞き返す。
「でも、それがどうしたんだ?」
アクアはハッとして、思い出したかのように話を続ける。
「皆さんと同盟関係を結ばせていただいた以上、是非とも皆さんに会っていただきたい者たちがいまして……」
別に予定があるわけでもないので、3人はそれを快諾し、アクアについて行くことにした。
そうしてアクアについて行くと、その先に広いグラウンドのような場所が見えてきた。
よく見ると、そのグラウンドでは、鎧のようなものを着て剣を構える兵士のような人間が多数見える。
その様子を見て、チックがアクアに問いかける。
「なあアクア! あそこにいる奴らは何やってるんだ?」
アクアが3人に向かって、彼らについての説明をし始める。
「あそこにいる方々は、レイン王国の戦闘部隊に所属する、兵士なんです。今はちょうど訓練をしていますね」
そうして5人は、グラウンドの中へと入っていく。
たくさんの兵士が訓練をしている中、腕を組みながらその様子を見ている男が目に入る。
すると、アクアがその男の方へと向かっていく。
5人の存在に気づいたのか、その男は立ち上がって、5人の元へと歩いてくる。
「これはこれは、アクア第2王子にアイス第3王子ではないですか。それと……後ろにいる方々は……」
その男が後ろの方を見ながら、アクアに尋ねる。
するとアクアが、後ろにいる3人の方を振り向いて、その男についての紹介をし始める。
「皆さん、こちらはこの戦闘部隊の指揮官を務めていらっしゃる、王国一の剣士、グラトル・ビルトさんです」
グラトル・ビルト、レイン王国一の剣士と言われるほどの、高い戦闘力を誇っている。
後に判明することとなるが、グラトルと対峙した者は皆、“グラトルの剣を避けることは不可能”と発言しており、剣士たちの中では、とても恐れられている存在なのである。
続いて、アクアがグラトルに、3人について紹介をする。
「そしてグラトルさん、こちらの3名は、私たちを何度も救ってくださった、ヴィルさん、チックさん、バーナさんです。実は、レイン王国は、この方々と同盟を結ぶことになったんです」
3人は照れくさそうに頭を搔く。
すると、グラトルは驚いた顔をして、3人に近づいてきて挨拶をする。
「おお、そうでしたか! 皆さん、グラトル・ビルトです。これからよろしくお願いします!」
そう言って、グラトルは豪快な笑顔を浮かべた。
すると、グラトルがアクアに尋ねる。
「ですがアクア王子、同盟を結んだとは、具体的にどういうことでしょうか?」
アクアは、グラトルに対し、3人との同盟関係について話し始める。
「はい、この方々は、ミノタウロスやレッドゴブリンの群れと互角、いやそれ以上の戦闘力を持っています。同盟を結ぶことで、お互いにとって利があるということで、同盟を結んだ次第です」
そこまで話すと、グラトルは、3人に興味を示した様子で、3人に近づき、話しかけてくる。
「ほう……アクア王子にそこまで言わせるとは、なかなかの実力の持ち主ですな。どうですか、私と1戦、剣を混じえてみませんか?」
グラトルは、3人の強さが気になったのか、ひと試合やらないかと誘ってきたのだ。
確かに3人は、そこそこの実力の持ち主だが、目の前にいるのは、レイン王国一の剣士と呼ばれる男。勝ち目などあるわけがないと思い、ヴィルは断ろうとする。
「いやいや、俺らは剣が得意なわけじゃないし……」
しかし、ヴィルが断ろうとする途中、隣にいるチックが、断ろうとするヴィルを差し置いて話し出す。
「おういいぜ! 俺最強だから、お前に勝ってレイン王国一の剣士の称号を貰ってやるよ! な? ヴィルもやるだろ?」
あまりにチックがやる気満々なので、流れ的にヴィルはそれを断ることが出来ず、結局グラトルと戦うことになってしまった。
バーナは、体が小さく、怪我をすると危ないということで見学となった。
そうしてヴィルとチックは、グラトルに連れられて、グラウンドにある1対1のフィールドへと案内される。
ヴィルとチックは、木刀を渡され、フィールドに上がるよう指示される。
チックがあまりにもやる気満々なので、ヴィルはチックに先行を譲る。
ルールは簡単。制限時間は1分。木刀が相手の体に触れたら勝利。フィールドの外に出たら負け。
フィールド上に、木刀を正眼に構えるグラトルと、木刀を右手に持ち肩に乗せて構えるチックが対峙する。
周りには、先ほどまで訓練をしていた戦闘部隊の構成員たちが集まり、その様子を見ている。
そして、ゴングの音とともに試合が始まる。
先に動いたのはチックだった。
「おっしゃ〜!」
そう言ってチックは、右手で持つ木刀を強く握り、そのまま横に大きく振るう。
“ゴォォォオオオ”
すると、その瞬間、チックの振った木刀から、グラトルに向かって、大きな風が巻き起こる。
それを見たグラトルは目を大きく見開いて驚く。
「(なんと! 一振で強風を巻き起こすとは! 馬鹿げた力を持っている!)」
しかしグラトルは、体を大きく左にそらして避ける。
チックはそれを確認すると、そこから爆発的な踏み込みをし、グラトルに向かって突っ込む。
「体勢悪いな〜!! もらったぜ〜!!」
だが、グラトルは一向に避けようとしない。
そして、チックの振るう木刀がついにグラトルの頭を捉えた……と思ったその時……
“パンッ”
なんとグラトルの木刀が、チックの体に当たっていたのだ。
これにはチックも驚きを露わにする。
「えぇぇぇえええ!? おい! 俺今当てただろ!!」
文句を言っても、負けは負けなので、チックは潔く負けを認め、フィールドから降りていく。
そして、皆の元へ戻ると、バーナから意外なことを告げられた。
「チック、全然違うとこに木刀振ってたよ。それに、グラトルさん大分大振りしてたのに、なんで避けなかったの?」
その言葉に、チックは混乱してしまう。
「違うところに振ってた!? そんなわけねえだろ! ちゃんと頭に当ててただろうが!」
あまりにチックが真剣に語るので、チックが嘘をついているとも思えず、バーナも少し混乱してしまう。
そんな中、アクアが2人に声をかける。
「チックさん、バーナさん。実は……そのからくりは、グラトルさんの能力にあるんです。」
そのアクアの言葉を受けてもなお、2人は理解が追いつかず、まだ少し混乱している。
そんな2人に、アクアはグラドルの能力について説明をする。
「グラトルさんの能力は、「残像」。目をつけた相手に対し、自分の2秒前の姿を映すという能力です。まあ、相手は一種の催眠状態にかかった状態と言えますね」
それを聞いて、2人はようやく理解する。
「マジかよ! じゃあ絶対勝てねえじゃねえか!」
そんなチックの言い分に、アクアも同じ気持ちなのか、その場で俯いてしまう。
「はい……グラトルさんの能力は、剣士の間では有名で、知っている方も多いのですが、分かっていても、視覚情報に囚われてしまい、結局避けることが出来ないのです。私ですら、1度も避けられたことがないのですから」
チックはアクアの話を聞いて、急いでヴィルにも伝えようと、周りをキョロキョロと見回すが、近くにヴィルの姿はない。
そんなチックに、アクアが声をかける。
「チックさん、もしかしてヴィルさんをお探しですか?」
そのアクアの問いに、チックは焦った様子で答える。
「そうだよ! ヴィルにそれを教えてやらねえと、あいつまで負けちまうぜ!」
そう焦るチックに、バーナが冷たい目線を向けながら話す。
「いやでも、仮に能力のこと知ってても避けられないんでしょ。なら教えても意味ないじゃん」
バーナの発言に、チックも納得し、大人しくヴィルとグラトルの試合を見ることにした。
その頃ヴィルは、既にフィールドに上がっていた。
その時、グラトルは3人について、内心思うところがあった。
「(アクア王子にあれほど言わせるから、ずば抜けた戦闘力をお持ちなのかと思ったが……ミノタウロスやレッドゴブリンといえば、魔物ランクは確かBかその辺だっただろう。それならうちの構成員でも可能だが……っていかんいかん。レイン王国と同盟を組んでくれているという事実に意味があるのだ。剣の強さだけではないのだ)」
自らの期待が高すぎたが故に、現実を見て少し落ち込むグラトルだったが、対戦相手はまだ残っている。
剣士として、手を抜くわけにはいかないと思い、またしても木刀を正眼に構える。
一方ヴィルは、右手に木刀を持ち、左手はズボンのポケットに入れて立っている。
剣士の端くれにも置けない構えだが、ヴィルには関係ないのだろう。
ヴィルは、先ほどのチックの試合に違和感を感じていた。
「(チックは俺たちの中でも特に反応がいいはずだ。能力<ニワトリ>によって、視覚、聴覚等は特に鋭くなっているから、あんなに鈍い動きをするわけがない。なのに、誰もいない空に木刀を振って、横から来ていたグラトルの方は一切向かずにそのまま木刀を当てられて試合が終わった。何か変だな……)」
少し考察してみるが、一向に答えが出てこない。
戦う前に、何か少しでも情報を得ようと、ヴィルは目を翠色に光らせ、<翠眼>でグラトルを凝視する。
名前:グラトル・ビルト 能力:残像
能力説明:目を向けた相手を催眠状態にし、自らの2秒前の姿を映す。
「(ん? 残像? ……ということは……あぁ、そういうことか)」
ヴィルは、そのからくりに気づいたようで、疑念の表情が明るいものへと変わる。
ヴィルは、能力を止めることなく、目を翠色に光らせたまま、グラトルのことをじっと見つめる。
そして、開始のゴングが鳴り、試合が始まる。
しかし、試合が始まっても、両者とも一向に動こうとしない。
「(ふん……来ないのか。ならばこちらから行くぞ!)」
グラトルは、一向に動こうとしないヴィルに嫌気がさしたのか、ものすごいスピードでヴィルに突っ込んでいく。
たとえ能力を使わなくとも、そのスピードだけで十分に戦えそうなほどである。
本来なら、相手の目には、グラトルが未だ突っ立っている姿が映るのだろうが、ヴィルの能力<翠眼>は、物事の本質を見抜く。
つまり、ヴィルの視界には、グラトルの2秒前の残像ではなく、グラトルの現在の姿が映っているのである。
「(すまないな……いくら来客とはいえ、手加減は出来ないのだ)」
グラトルはそのまま、ヴィルの頭を狙って、木刀を縦に振るう。
それを見ていた周りの者たちは皆、誰もがグラトルの勝利だと確信し、ヴィルに期待している者など、誰もいなかった。
“シュッ”
しかしその瞬間、ヴィルは左にフラっと躱す。グラトルの木刀はヴィルの頭を捉えることはなく、ヴィルの右腕スレスレのところで空を切った。
これにはグラトルも驚きを隠せない。
「なんと!!」
その瞬間、周りからは大きな歓声が飛び交う。
それもそのはず、グラトルの振るう剣は不可避と言われており、そこにいた誰もが、グラトルの剣を避けたことがなかったのだから。
そして、ヴィルが右手に持つ木刀を振り上げ、グラトルへと振りかざす。
“カァン”
しかし、グラトルはレイン王国一の剣士と言われる実力の持ち主。
躱された直後の体勢でも、右から振るわれるヴィルの木刀をはじいてみせた。
「(私の姿が見えているのか? いやそんなはずは……)」
グラトルはそこから体勢を立て直し、凄まじい早さで木刀を振るう。
その手数はとんでもなく、ヴィルは全てを見切って攻撃を躱し、時に防御をするが、防戦一方となり、だんだんとフィールドの端へと追い詰められていく。
“カァンッカァンッ”
と、辺りには木のぶつかり合う重い音が響く。
「(流石は王国一の剣士……剣圧がとんでもないな……)」
ヴィルは、このままではフィールドの外へと押し出されて試合が終わってしまうことを危惧し、一捻り加えることにした。
ヴィルはポケットに突っ込んでいた左手を出し、人差し指をグラトルの足元に向ける。
その様子にグラトルが気がつく。
「(なんだ? 何か仕掛けてくるのか? ……いや、このまま押し切ってしまおう!)」
次の瞬間、ヴィルの指先に、小さなウイルスが宿る。
そして、それをグラトルの足元を目掛けて放つ。
そのウイルスは、グラトルの股下を通り、グラトルの後ろの地面に広がる。
するとその瞬間、ヴィルの姿が消える。
「なっ……! どこに……!?」
両手で強く木刀を振っていたグラトルは、その勢いで体勢を崩してしまう。
「隙あり……」
その時、グラトルの後ろ側から、ヴィルの冷たい声が聞こえてくる。
グラトルが後ろを振り返ると、既にヴィルは、木刀を振り上げていた。そして、次の瞬間……
“カンカンカン”
ヴィルの木刀がグラトルに当たる前に、なんと、試合終了のゴングがなってしまったのだ。
ヴィルは微笑みながら頭を搔いて言う。
「くそ〜……もう少しだったのになぁ……」
グラトルはその場に立ち上がると、ヴィルの前に手を差し出した。
「いやぁ、あそこまで追い詰められたのは久々ですよ。とても勉強になりました」
そう言ってグラトルは豪快に笑う。
グラトルの差し出してきた手をとり、ヴィルとグラトルは固い握手を交わす。
試合が終わり、ヴィルが皆の元へ戻ると、チックがヴィルに向かって興奮した様子で声をかける。
「おいヴィル! お前もう少しで勝てたのに惜しかったな〜!」
ヴィルは少し照れくさそうにしながら話す。
「そうだな……能力とか関係なく、あの人はめちゃくちゃ強かったなぁ」
それを聞いてハッと思い出したかのようにアクアがヴィルに問いかける。
「あっ、そういえば、グラトルさんの攻撃をどうやって躱したんですか!?」
ヴィルは自分の能力について、アクアに話そうとする。
「それはなぁ……」
しかし、ヴィルが答えようとした時、試合を見ていた構成員の者たちが、次々とヴィルの元へと向かってきた。
「君すごいな!」
「どうやってグラトルさんの攻撃を避けたの!?」
「僕にも避け方を教えてくれよ!」
ヴィル含め5人は、他の構成員に囲まれ、八方塞がりとなってしまう。
その様子に皆が困っていると、グラトルが近づいてきて、大きな声で呼びかける。
「はい皆! 休憩時間は終了だ! 訓練に戻るぞ!」
その気迫は凄まじく、皆は大人しくグラトルの指示に従って、訓練へと戻って行った。
そして、グラトルが5人に向かって話を始める。
「今日はありがとうございました!私も己の弱さを知る良い体験になりました!」
そして、3人の方へと目を向ける。
「そしてそこの御三方、これからよろしくお願いします!」
そう言ってグラトルは頭を深く下げた。
「それでは我々は訓練に戻りますので、ここで失礼致します。」
グラトルはそのまま、構成員たちのいるグラウンドへと戻って行った。




