【第18話】レイン王国
料理が美味しすぎて、気づいたらあっという間に完食してしまっていた3人。
「あ〜! 美味かった〜!!も う食えねえぜ!」
特にチックは中でも1番食べており、腹がパンパンに膨らんでいた。
すると、アクアが国王の耳元で、思わぬ提案を囁く。
「父上、この方々は今、ワーマ王国に位置する森の中で暮らしています。ここで同盟関係もできたわけですし、レイン王国の城内にある部屋に、皆さんに住んでいただくのはどうでしょうか?」
それは、3人にとっても嬉しい話。
「確かに、有事の際に、お互いに離れていては不便か……良いと思うぞ」
レイン国王からの許可を得て、アクアは満面の笑みで3人に提案する。
「皆さん! もしよろしければ、これからレイン王国で暮らしませんか!? 部屋も食事も提供致しますので!」
そんな嬉しいお誘いを、この3人が断る訳もなく……
「是非!お願いします!」
と、3人は勢いよく頭をテーブルに打ちつける。
すると、ヴィルが頭を上げて、話し始める。
「あ、そうだ、俺たち、レイン王国で暮らすなんて思ってもなかったから、結構荷物とか向こうの家に置いてきてるんだよ。明日1回取りに戻ってもいいか?」
そのヴィルの問いかけに対し、レイン国王は快く承諾する。
「では明日、レイン王国から、馬車と兵士を数名送りましょう」
レイン国王は、どこまでも器が大きい。
3人はその場で、レイン国王に向かって礼をする。
すると、またしてもアクアがとある提案を持ちかけてきた。
「皆さんにはこれから、レイン王国で暮らしていただくということで、是非ともレイン王国内を見てもらいたいです。私とアイスで王国内を案内致しますので、皆さんどうでしょうか?」
特にこの後やりたいことがなかった3人は、暇つぶしにちょうど良いと思い、アクアの提案を受け入れた。
アクアとアイスが席を立ち、その後ろについて行くように、3人も席を立って食堂を出ていく。
それから少し歩いて、5人は城の外へと出てきた。
すると、ヴィルが街を見て、ボソッと感想を述べる。
「こうして見ると、凄く綺麗な王国だなぁ」
それに対して、アクアが微笑みながら話し出す。
「はい、レイン王国は、大自然に囲まれた、恵まれた王国だと思っております。そんな美しい自然に恥じないよう、我々も治安維持、治安向上のため、日々務めているのです」
ワーマ王国とは違い、ガラの悪いような人間が見当たらず、本当に治安が良いのだなぁと、3人は感心してしまう。
と思ったのも束の間、前方にある果実売場に目をやると、坊主で少しガタイのいい男が、店主と揉めているようである。
それを一番に発見したアクアが、4人を置いて一目散に走り出す。
アクアが、果実売場の前まで来ると、客の男と店主のおばさんに声をかける。
「すみません。何かトラブルですか?」
すると、声をかけられて、男は後ろを振り向く。
その瞬間、男は顔を赤くしながら怒鳴り声を上げる。
「あ? 俺が買ったバナナに虫が入ってたんだよ! だから無料で交換しろって言ってんのに、このババアが聞かねえんだよ!」
アクアが話を聞いて、後ろにいる店主の方に目を向ける。
すると、アクアと目が合った店主は、あたふたした様子で弁明を始める。
「アクア王子! いえ、うちの店は果実を売りに出す前に、念入りにチェックをしていますし、今までそんなクレームが入ったことは一度もありませんので、そんなはずは……」
それを聞いてアクアが男に聞く。
「お客さん、虫が入っていたというバナナを見せていただくことは出来ますか?」
すると、男はどうしようもない事を口にする。
「そんなもんあるわけねえだろうが! 全部食っちまったんだからよ!」
訳の分からない男の妄言に、アクアも嫌気がさす。
「しかし、証拠がないのでは、店としてもどうしようもないですよ」
すると、男は口角をあげてニヤリと不気味に笑う。
「アクア王子……だっけか?お前、俺が誰だか知らねえのか?」
それに対しアクアは、男に向かって鋭い眼光を放ちながら言う。
「はい。存じ上げておりません」
そして男は、アクアを蔑むような目で見て言う。
「俺はワーマ王国から派遣されてきた兵士だぞ。それなのに俺に対する態度がこれか?」
それを聞いて、アクアの顔が苦い顔へと変わる。
その様子を見て、男はさらに調子に乗って話し出す。
「はっはっは! そうだと分かれば何も言い返せねえよな!?」
そして、男の顔は狂気に染まっていき、アクアを殴り始めた。
“ズボッズボッ”と、鈍い音が辺りに響く。
「はっは〜!! さっきは偉そうにしやがって! 俺の正体が分かったら何も出来ねえくせによ〜!!」
殴られているにも関わらず、アクアは全く抵抗する素振りを見せない。
「ゲホッ……グホッ……」
そんなアクアを見て、店主が叫ぶ。
「アクア王子〜!! お客さん! 分かりました! もうバナナを差し上げますから、乱暴はやめてください!!」
店主がそう言うと、男はアクアを殴るのを止め、店主の差し出すバナナを強引に取ると、捨て台詞を吐き捨てる。
「最初からそうしてれば良いんだよ!!ババアが!!」
そうして、男は満足そうにその場から立ち去ろうとする。
バナナの皮をむいて、食べようとしたその時……
「あ〜む」
なんと、チックがそのバナナを1口で食べてしまったのだ。
そう、4人は、小さなトラブルだと思い、アクアに任せていたのだが、アクアが殴られている様子を見て、急いで駆けつけていたのだ。
「てめえ! 誰のバナナ食ってると思ってんだ!!俺はワーマ王国から派遣されて……」
そんな男の言葉を遮り、チックはバナナを飲み込むと、その場で叫ぶ。
「美味〜〜〜〜い!!!!」
自分の言葉を無視されて腹が立ったのか、ものすごい怒りの形相でチックに向かって拳を放つ。
しかし、チックは油断をしているようで、実はしっかり男のことを見ていた。
その拳はチックを捉えることはなく、いとも簡単に躱される。
その隙を見て、チックは男の首を思い切り掴み、そのまま地面に叩きつける。
“ドーン”
その威力は凄まじく、地面にヒビが入るほどであった。
そして、後ろからヴィルがチックに話しかける。
「おいおい、これ死んでねえよな?」
それに対し、チックは不気味な笑顔を浮かべながらヴィルに言う。
「ああ! 相当手加減したから、流石に死んではないと思うぜ!」
その威力から見るに、チックの言葉は微塵も信用出来ないが、ヴィルが男に目をやると、微かに呼吸をしていたので、まだ男は生きていることが確認できた。
そしてヴィルが、男の腕を掴み、そのまま近くにある木まで引っ張って行く。
その頃、バーナとアイスは、アクアの心配をしていた。
「兄さん! 大丈夫ですか!?」
アクアは苦しそうに咳をするが、なんとか話せるようにはなっていた。
「あぁ……大丈夫だ。これくらいの痛みは慣れている」
そう言って、心配するアイスを落ち着かせるアクアだったが、その体はまだ少し震えている。
その頃ヴィルは、男を木の近くまで引っ張り、そこに乱雑に置く。
男の意識は戻ったようであるが、体は痺れて動いていない。
男は、声を震わせて、ヴィルに脅しをかける。
「お前……こんなことをして……どうなるか分かっているのか……ゲフッ」
そんな男の脅しを無視して、ヴィルは目を翠色に光らせ、男の目を凝視しながら話し始める。
「お前……バナナに虫なんか入ってなかったよなぁ?」
ヴィルがおぞましい狂気を、男にぶつける。
しかし、男は意見を変えようとしない。
「そもそもお前は関係ないだろう。なんの証拠があって言っているんだ」
そう問われるヴィルだったが、男にさらに顔を近づけ、ニヤリと笑って答える。
「証拠なんて要らねえんだよ。全部見えてるんだから……」
ヴィルの<翠眼>は、人の心の中をも読み取る。故に、ヴィルの前で嘘をつくことなど不可能なのだ。
そして、ヴィルは手にウイルスを纏わせると、男の頭の中へと、その手を突っ込んだ。
「うおっ……」
それと同時に、男の意識は闇へ落ちた。
その頃、3人の元に、チックが歩み寄る。
苦しそうなアクアを見て、チックはアクアに声をかける。
「もう心配すんな! あいつは俺らが締めといたから、もう大丈夫だぜ!」
チックのその言葉を聞いた瞬間、アクアが顔を“バッ”と上げ、不安そうな焦りを見せながら、チックに問いかける。
「ま……まさか!? あの方に手を出してしまったのですか!?」
そんな反応をすると思っていなかったチックは、心配そうに見つめてくるアクアに疑問をぶつける。
「ん? あいつは悪人だろ? 何かいけなかったのか?」
そんなチックに、アクアはあの男について話を始める。
「あの方は、ワーマ王国から派遣されてきた兵士らしいのです」
それを聞いて、チックはさらに問いかける。
「それがどうしたんだ? 悪いことをしてたんだから報いを受けるのは当然だろ」
そう言うチックに、アクアは追加で説明をし始める。
「先ほどもお話をしたように、ワーマ王国から送られてくる兵士の質が、最近下がってきているのです。単純な戦闘力に限らず、今のように好き勝手してしまうんです。しかし、ワーマ王国とは一応同盟関係ではありますので、手を出してしまうと、敵対関係になり、最悪の場合、戦争になりかねないんです」
とにかく人の話を聞かないチックは、あの時、料理が出てくるのを楽しみにしていたあまり、レイン国王の話を全く聞いていなかったのだ。
チックは、不思議そうな顔をしながら、ただその場で立ち尽くす。
すると、いつの間にか皆の前に、ヴィルが立っていた。
そして、そのことについて心配するアクアに対し、ヴィルが声をかける。
「そのことなら大丈夫だぞ。少し改造したから」
アクアは、ヴィルが言っていることを全く理解出来ず、思わず聞き返してしまう。
「えっと……改造? ですか?」
百聞は一見にしかず。
言葉よりも見せた方が早いと思い、ヴィルはその場で、指を“パチン”と鳴らす。
すると、木の影から男が出てきて、皆の元にスキップをしながら近づいてくる。
しかし、その男の様子がどこか変なのである。
口を開けたまま舌を出し、鼻水が垂れたままで、常に不気味な笑顔を浮かべている。
そんな男を見て、バーナが思わず口を開く。
「え……気持ち悪……」
ヴィルが、男に対して言葉をかける。
「おい、ちゃんとアクアと店主に謝れよ」
すると男は、“はい!”と大きな声で返事をして、アクアと店主の前に立つと、頭を深く下げて謝罪をする。
「さっきは、酷いことをして、ごめんなさい! もうしません! これ、さっきのバナナのお金です!」
アクアも店主も、男の変わりようにとても戸惑っている様子である。
そこでヴィルが、男に忠告をする。
「よし、もう悪さするなよ?」
すると男はまたしても“はい!”と大きな声で返事をすると、ウキウキでスキップをしながら街へと戻って行った。
男のあまりの豹変ぶりに、アクアはヴィルにどうなっているのかを問う。
「ヴィルさん! あれは一体どうなっているんですか!? 何をしたんですか!?」
ヴィルは少し苦笑いをしながら答える。
「あぁ……あいつがワーマ王国から派遣されてきた兵士だってことは知ってたから、多分あのままにしておいたらワーマ国王にチクられるんじゃないかなって思ってな。脳みそを少しいじっただけだ。まあ今の部分の記憶だけを消そうと思ったんだけど、一応悪さをしないように、心を純粋にしてあげたんだよ。そしたらああなっただけだ」
その説明を受けて、アクアはさらに混乱する。
それは、アクアだけではなく、周りにいた全員がそうであった。
何はともあれ、トラブルは無事解決した。
5人が店の前から離れようとした時、店主のおばさんに声をかけられた。
後ろを振り向くと、店主が果物の入った袋を差し出してきていた。
「これ、少ないんですけど、助けていただいたお礼です。皆さんで食べてください」
ヴィルは、別に見返りは求めていなかったので断ろうとしたが、それよりも早く、チックが店主の差し出す袋を手に取ってしまっていた。
「いいのかよ!! やったぜ!!」
一度受けとってしまったのなら、返すのは失礼だと思い、ヴィルは断らなかった。
そして、5人で店主に礼をすると、その場から立ち去っていった。
歩いている途中で、アクアが3人に話しかける。
「先ほどは助けていただいてありがとうございました。皆さんに助けていただくばかりで、申し訳ないです」
そう礼をするアクアの顔は、申し訳なさで満たされていた。
そんなアクアに、ヴィルが答える。
「いいんだよ、気にすんな。俺たち、もう同盟関係だろ?助け合っていこうぜ」
そんなヴィルの気遣いに、アクアは目に涙を浮かべる。
そんなアクアを見て、店主にもらった果物を頬張りながら、チックがアクアをいじる。
「なんだよアクア、お前泣いてんのか?」
それを指摘されて恥ずかしかったのか、アクアは目を擦りながら、チックに返す。
「ぐっ……泣いてないです!」
それを聞いてもなお、チックはアクアをからかおうとする。
「いや絶対泣いてただろ〜!顔赤いぞ〜!」
それに対して、アクアが顔を赤らめながら返す。
「泣いてないです!!」
この時、3人は、アクアとの心の距離が少し縮まったような気がした。
そうして5人は、そのままレイン王国の街の中を歩いていくのであった。




