【第17話】国王の悩み
料理が提供されるまで、かなりの時間がかかる。
何か会話の種でもあれば良いのだが、とヴィルは思っていたが、そんな時、レイン国王がアイスに色々と事情を聞こうとする。
「アイス、お前は一体どこに行っていたんだ?」
それに対し、アイスは顔を俯かせて、その時あった出来事を話す。
蝶に見入ってしまい、馬車から落ちてしまったこと、ミノタウロスに襲われたが3人に助けてもらったこと、食事をもらい宿に泊めてもらったこと、レッドゴブリンとの戦いのこと、全てを話した。
それを聞いて、レイン国王は目を大きく見開き、とても驚いた様子で、椅子から落ちてしまう。
「なんと! そこまでして頂いていたとは! 感謝してもしきれません!」
そう言って、レイン国王は土下座をする。
「そんなに気にしないでくれ。レッドゴブリンとの戦いの時は、アクアに助けてもらったんだし、こっちだって感謝しきれねえよ」
そんなヴィルの言葉に、レイン国王は感動したのか、それまで硬かった表情が、柔らかいものへと変わる。
そして、レイン国王が、3人に質問をする。
「ところで皆さんは、どこの王国出身なんでしょうか?」
3人は、ワーマ王国を追放された身であるため、ワーマ王国出身とも言えない。
しかし、レイン国王に見栄を張って嘘をつくのも良くないと思い、正直に話すことにしたヴィル。
「もともとはワーマ王国だったんだけどな。追放されちまってよ(笑)」
ヴィルは、恥ずかしそうに笑いながら答える。
ヴィルに続けてチックが口を開く。
「今は森の中で生活してるぜ! 家も俺たちが作ったんだよ!」
ヴィルとは対照的に、ものすごく自信満々に答えるチック。
それを聞いて、レイン国王とアクアは唖然とする。
「追放されたんですか!? そ……それは、大変ですね……」
なぜ追放されたのかを聞こうとするレイン国王だったが、それを聞くのは失礼だと思ったのか、聞こうとはしなかった。
そこで一旦会話が終わるのだが、レイン国王はなぜか悩んでいる様子を見せる。
ヴィルは、<翠眼>で、レイン国王のことをじっと見つめる。
「レイン国王……何か悩んでるのか?」
<翠眼>によって、何に悩んでいるのかはヴィルは大体知っているが、会話をするために、あえて聞いてみることにしたのだった。
「ははは……実はそうなんですよ」
顔は笑っているが、その奥には悩みを抱えているように見える。
「せっかくだから話してくれよ。悩みを1人で抱え込むと良くないぞ」
しかし、レイン国王はなかなか話そうとしない。
そう、3人はワーマ王国出身。レイン国王の悩みは、ワーマ王国に関することであることは、アイスの昨日の話によって容易に想像がつくのだが、もし3人に話してしまったら、色々と情報が漏れてしまうのではないか、と不安に思っているのである。
「俺たちはワーマ王国を追放されてる身だ。別に情報を流したりはしねえよ」
なぜか口にしていないのに、心を読まれていることに驚くレイン国王。
このまま黙っていても、ヴィルにはバレてしまうだろうと思い、レイン国王は、思い切って悩みを打ち明けることにした。
「実は……最近ワーマ王国と上手くいっていなくて……」
レイン国王がそう言うと、バーナが会話に入る。
「もしかして、昨日の対談の話ですか?」
それに続いてチックも話し始める。
「ああ! なんか不平等な契約を結ばされたとか言うやつか? あいつひでえよな!」
ヴィルだけでなく、なぜかチックとバーナまでもが話を知っている。
これにレイン国王は思わず混乱してしまう。
すると、アイスがレイン国王に向かって話し始める。
「ごめんなさい父上。私が昨日、彼らと話をしている時に、話してしまったんです」
そう言ってアイスはペコペコとレイン国王に頭を下げる。
情報が外部に漏れたことを、レイン国王は怒るのかと思いきや、アイスの頭に手を“ポン”と置くと、優しい笑顔を向けて話す。
「いいんだよアイス。それはお前がこの方々を信頼していたから話したのだろう。何も問題はないぞ」
純粋で綺麗な親子愛を目の前に、3人は感動する。
そこで、ヴィルはレイン国王に話しかける。
「けど、詳しいことは全然聞いてねえんだ。良かったら話してくれよ」
大まかな内容は、もう既に伝わってしまっている。
もう隠す必要も無いだろうと思い、レイン国王は3人に、ワーマ王国についての悩みを話し出す。
「実は……」
〜昨日のワーマ王国との対談〜
「それで、今日は何の件で来たんですかね?」
ワーマ国王はレイン国王を見下し、圧をかけて問いかける。
「実は……ワーマ王国への武器の輸出価格を上げさせていただきたいという件なんです……」
ワーマ国王は、“やはりそれか”と言わんばかりに大きなため息をつく。
「以前も話しましたが、それは無理でしょう。そもそもなぜ値上げをする必要があるんですかね」
ワーマ国王はレイン国王を嘲り笑いながらそう問いかける。
レイン国王は、事細かにその原因を語る。
「はい、主な原因としては、レイン王国の武器職人が、高齢化により減少してきていることです」
それを聞いて、ワーマ国王は反論する。
「いやいやレイン国王。高齢化など、そちらの問題でしょう?なぜ我々が金を多く払わなくてはならないんですかね? それくらい自分たちで解決してくださいよ」
そこで、レイン国王はもう1つの原因を言う。レイン国王は気を使って、主な原因は高齢化と語ったが、本当の値上げの原因は次にあった。
「それと、実は原因がもう1つありまして……」
それを聞いて、ワーマ国王がニヤリと不気味な笑みを見せる。
「ほう? なんですかね?」
レイン国王は、冷や汗をダラダラとかき、声が震えているようだが、なんとか絞り出すように声を出す。
「ワーマ王国とレイン王国は古くからの同盟関係です。かつて結んだ契約には、『レイン王国はワーマ王国から資源を輸入し、ワーマ王国はレイン王国から武器を輸入する』というものがあります。我々レイン王国は、ワーマ王国から資源を輸入させていただいていますが、ワーマ王国からの輸入価格が異常に高騰しています。それによって、今の武器の価格ではレイン王国に赤字が出ているというのがもう1つの原因となります」
それを聞いたワーマ国王は、ワインを1口飲むと、レイン国王を見下すような態度で、低い声で話し出す。
「確かに輸出価格は上げましたよ。けどねぇ、我々も原料が取れなくてねぇ。こっちだって大変なんですよ。それが原因と言われても、困りますなぁ」
レイン国王は黙り込んでしまう。それを良い気に、ワーマ国王はベラベラと話を続ける。
「それにレイン王国は弱小国家。我々が優秀な兵士を送っているのをお忘れで? それを考慮してもなお、値上げをせびるのですか?」
もはや、ワーマ国王に値上げの交渉など不可能なのか、レイン国王が諦めかけたその時、黙って話を聞いていたアクアが口を開く。
「ですがワーマ国王、それはもう過去の話です」
急にアクアが話し始めるので、ワーマ国王は不機嫌そうにアクアに言う。
「貴方は、レイン国王の護衛としてここにやってきただけですよね? 貴方に発言権があるとお思いですか?」
しかし、アクアは、ワーマ国王の発言を無視して、冷静に話を続ける。
「確かに、ワーマ王国とレイン王国は、古くからの同盟関係です。レイン王国は小さな王国なので、ワーマ王国から数名、優秀な方を派遣していただき、逆にワーマ王国では、武器職人が少ないということで、武器を輸出することで、お互いの弱みを補填し、支え合ってきました。しかし、最近のワーマ王国から送られてくる方々は、昔と比べて圧倒的に戦闘の質が落ちていますし、何より、態度や素行が非常に悪いです」
それを聞いたワーマ国王が、今度はアクアの方を睨みつけ、怒気のこもった低い声で返す。
「何が言いたい?」
アクアは、ここでトドメの一言を言い放つ。
「そちらが送る兵士が弱体化しているのに、こちらが払う金額は以前から変わっていません。これは実質的な値上げと言えるので、そちらがこちらの値上げ交渉に応じないのは、平等ではないと考えます」
その発言に、ワーマ国王は怒髪天をついて、目の前の机を“バン”と叩くと、レイン国王の持ってきた契約書を“ビリビリ”と破り、大声で叫び出す。
「貴様らと話しても会話にならん! おい!シ ュヴェルト! こいつらをここからつまみ出せ!!」
ワーマ国王がそう叫ぶと、応接室の外にいたシュヴェルト隊長が、勢いよく扉を開けると、ものすごい速さで3人の背後に移動し、大きな黒剣を3人の首元に近づける。
「貴様ら、今すぐワーマ王国から出ていけ。さもなくば今ここで、お前らの首を跳ねるぞ」
そこまでされては、3人は、シュヴェルト隊長の指示に従い、ワーマ王国を出ていくしかなかった。
〜現在〜
「という感じなんです」
その話を聞いて、3人は、如何にワーマ国王の器が小さいかを改めて確認することとなる。
それにチックはとても怒っているようで、テーブルを“バン”と叩くと、怒りの言葉を吐き出した。
「本当にワーマってやつはクズだな! もういっそのことワーマ王国ごと消しちまおうぜ!」
感情豊かなのはチックの長所だが、時に感情に飲まれるところがあるのが、チックの短所でもある。
ヴィルは、そんなチックの怒りを抑えるよう、声をかける。
「まあまあ、そう怒りに飲まれるなって。感情で動くと、ろくな事がないぞ」
そうは言いつつも、ヴィルも心のどこかでは、ワーマ国王に怒りを覚えていた。
「レイン国王としては、今後どうしていきたいんだ?」
ヴィルのその質問に、レイン国王は頭を悩ませる。
「ワーマ王国とは古くからの同盟関係があり、これを断ち切るとなると、レイン家の先祖の怒りを買うと思い、なかなか断ち切れないのです。かと言って、このまま関係を持っていても、レイン王国に不利益なままです。困ったもんだ……」
レイン国王は頭を手で押さえ、大きくため息をつく。
すると、ヴィルがレイン国王に、一言告げる。
「それなら、俺たちとも同盟関係を結ばねえか? 何かと役に立つぜ」
ヴィルのその言葉に、レイン国王たちは驚く。
「いえいえ! これはレイン王国とワーマ王国間の問題です! 皆さんを厄介事に巻き込むわけにはいきません!」
そう遠慮するレイン国王だったが、そこにチックが入り込む。
「まあいいかもな! 俺たちちょうどやることなくて暇だったし、少し刺激があって面白そうだぜ!」
チックはとてもやる気満々だった。バーナは、チックほどやる気満々な様子ではないが、前向きな姿勢を見せる。
「まあ、手伝うくらいなら、全然いいかな」
そうして、3人の意見は決まった。あとはレイン国王の判断のみ。
「しかし、既に色々と助けていただいているのに、まだ皆様のお力を借りるなど失礼ではないでしょうか?」
それでもやはり引き下がるレイン国王に、ヴィルは言う。
「まあでも、俺たちも助けてもらったようなもんだし、その辺はあまり気にしないでくれよ」
レイン国王は、目を瞑り、申し訳なさそうに声を震わせながら言う。
「本当にいいんですか?」
そして、チックとバーナが、レイン国王のその問いかけに快く応じる。
「おう!任 せとけ!」
「うん……」
すると、レイン国王は立ち上がり、頭を深く下げて感謝を述べる。
「皆様、本当にありがとうございます!」
そう言うレイン国王の目には、うるうると涙が溜まっていた。
レイン国王に続けて、隣に座るアクアとアイスも、立ち上がって頭を下げる。
そして、ヴィルが立ち上がり、レイン国王に向かって手を差し出す。
「これからよろしくな」
差し出された手を、レイン国王は強く握り締める。
その手は、あまりに感動しているのか、プルプルと震えていた。
「はい! こちらこそよろしくお願いします!」
それに続いてチックとバーナも立ち上がって手を差し出す。
チックの握ると、そのあまりの大きさに、アクアは驚く。
「チックさん、ものすごく大きな手ですね。頼もしいです」
褒められているのか分からないが、単純なチックは、全部を褒め言葉として受け取り、気分良さそうに返す。
「ま……まあな! 俺強えから、絶対役に立つぜ!」
そして、アイスがバーナの手を取る。
「よろしくお願いします!」
アイスの無邪気な笑顔を見て、バーナはまたしても変なことを考えている。
「(はぁ……可愛い。ペットにしたい……)」
こうして、レイン王国と3人の同盟関係が結ばれたのだった。
そうしてしばらく待っていると、食堂に次々と料理を持った人間が入ってきた。
「お! あれ飯か!?」
チックは興奮して、目をキラキラと輝かせ、ヨダレをダラダラと垂らしている。
「ものすごい量だな……」
ヴィルは、その運ばれてくる量に驚愕する。
数えてみると、1人が1つの大皿を持っており、それが30人ほど入ってきていたのだ。
そして、その料理の乗った大皿が、次々とテーブルの上に置かれていく。
「うっひょ〜!!!」
チックは、その美味しそうな料理が目の前に置かれ、もうヨダレを滝のように流している。
そんなチックに、バーナは顔を引き攣らせながら言う。
「ちょっと、汚い」
料理が全て運ばれると、他の者は皆食堂からそそくさと出ていく。
「さあさあ皆さん、是非召し上がってください!」
せっかくのレイン国王からの料理。
量は多いが、残しては失礼だろうと思い、3人は完食する決意を固める。
「いただきます」
「いっただっきま〜す!!!」
「いただきます……」
まず最初に料理を手に取ったのはチックだった。あれだけオーク肉を毎日食べていたから、流石に肉以外のものを食べるだろうと思っていたら……なんと、チックが最初に手にしたのは、大皿にドカンと盛大に盛られた、大きな骨付き肉であった。
真っ先に肉を手に取るチックを見て、2人が言う。
「また肉食べるのかよ……」
そして、チックが口を大きく開けて、ガブッと噛み付く。
その瞬間、チックに衝撃が走る。
「(何だこの肉!? 柔らかすぎるだろ!! 外の皮がパリッとしていて香ばしいスパイスの香りが鼻を通って味をより際立たせる。そしてこの中の肉……油が多いわけではないのにプリっとしていて、舌に乗せた瞬間に溶けてなくなる)」
チックはあまりの美味しさに、その勢いのまま、ペロッと1本の骨付き肉を食べきってしまった。
ヴィルは、オーク肉を今まで散々食べてきていたことから、別のものから食べようとする。
テーブルの上を見渡していると、パンが目に入る。
ヴィルはあまりパンが好きではないのだが、チックがこんなに美味しそうに食べているのだから、もしかしたらパンも美味しいのではないかと思い、パンを1つ手に取り、ちぎって口に運ぶ。
そのパンを1口食べた瞬間、ヴィルもチックと同じような反応を見せる。
「(なんだこれ……フワッフワすぎるだろ! ちぎるまでは大きいのに、口に入れて噛んだ瞬間、柔らかすぎるフワッフワのパンが小さくなる。少し噛むと餅のようにモチモチする。もうこれはパンだけで食べても美味い! いや、パンだけで食べた方が美味い!)」
いつもとは全然違う顔をする2人を少し気持ち悪いと感じながら、バーナは机の上にあったバナナを手に取る。
「(この世界にもバナナってあるんだ……)」
不思議そうにバナナを見つめ、皮をむいて、1口食べる。
「(ん!? 何これ!! 今まで食べてきたバナナとはまるで別物!! バナナを1口齧ると、中に見える大量の蜜!バナナなのにモチっとした食感で、それが甘さとマッチしてて最高〜!!)」
すると、アイスがバーナにあることを伝える。
「バーナさん。そのバナナは、皮も食べられるバナナで、皮も甘くて美味しいんですよ」
それを聞いた瞬間、バーナは全身に電気が流れたかのような衝撃を受ける。
「(私はバナナマスターだから、前の世界で皮まで食べられるバナナなんか何本も食べてきた。けど、どれもレタスみたいな味で、別に美味しいかと言われたら普通だった。そんな皮が甘くて美味しいなんてこと……)」
そう疑いながら、バーナは皮を1口齧る。
「(え〜!! ほんとに甘いじゃん!! しかも中の濃厚な蜜の詰まったバナナを食べたあとでも甘いってことは、この皮相当甘いじゃん!!)」
3人は、あまりの美味しさに手が止まらず、レイン国王たちを唖然とさせるほどの速さで食べ進めていった。




