【第16話】再会
レッドゴブリンの強靭がアイスの頭蓋を目掛けて振り下ろされる。
もはやここまでか……と思ったその時……
“キンッ”
辺りに金属音がぶつかり合う音が鳴り響く。
それと同時、レッドゴブリンは、奥の方へと吹き飛ばされていく。
「大丈夫か? アイス……」
どこか聞き馴染みのある声。アイスはそっと目を開ける。
するとそこには、レイン王国の第2王子、アクア・レインが立っていたのだ。
しかし、3人は、アクア・レインという名はアイスから聞いていたものの、見たことはなかったので、急な助っ人の登場に、驚きを露わにするとともに、アイスが助かったという安堵の気持ちに包まれる。
「僕の後ろに隠れていなさい」
アイスは言われるがままに、アクアの後ろにびったりとくっつく。
しかし、レッドゴブリンは容赦なくアクアへと襲いかかる。
アクアは剣を前に突き出し、正確にレッドゴブリンの心臓を突く。
「これはキリがないな……」
アクアはポロッとそう口にすると、何故か剣をしまってしまう。
そして、両手を前に出すと、レッドゴブリンと戦っている3人に向かって声を上げる。
「皆さん! 上空に避難してください!」
アクアの急な指示に、3人は困惑する。
「はあ!? なんで上に逃げるんだよ! っていうか、お前誰だよ!」
チックは次々とレッドゴブリンを殴り倒しながら、アクアに問いかける。
「今は説明している暇がありません! 早く上空へ避難を!」
アクアの言っていることが全く理解できないが、あんなに必死に叫んでいるということは、何か策があるのだろう。
ヴィルは咄嗟に飛び上がり、空中でとどまる。
チックとバーナは、ヴィルのように空を飛ぶことが出来ないため、チックは必死に頭を回転させる。
「(よし! これしかねえ!)」
すると、チックはバーナの方へ向かって勢いよく走り、バーナを左腕で抱える。
「ちょっと! 何すんの!」
次に、何故か死んだレッドゴブリンを右手に持ち、驚異的な脚力で、上空へと跳び上がる。
しかし、一度ジャンプしただけでは、滞空時間がさほどなく、すぐに落下してしまう。
そしてチックは、右手に持っていたレッドゴブリンをそっと離すと、それを踏み台として、ものすごい勢いで踏みつける。
「2段ジャンプだぜ〜!!」
なんと、チックは、空中のレッドゴブリンを踏みつけて、さらにそこからジャンプをして見せたのだ。
踏みつけられたレッドゴブリンはそのまま勢いよく落下して地面に突き刺さる。
チックとバーナは、その勢いで、ヴィルのいるところよりも遥かに高いところまで跳んでいった。
3人が上空に避難したのを確認すると、アクアは両手を地面に付ける。
「『Aqua Superficies』!」
アクアがそう口にすると、アクアとアイスのいる地点を中心に、大きな波が広がるように同心円状に波が広がり始める。
その波の高さは5mほどであり、ものすごい勢いで、何度も広がっていく。
まるで巨大な水面が揺れるかのように。
それによって、周りから飛んでくる矢は全て波に巻き込まれ、近づいてくるレッドゴブリンたちも、“ゴボボボボボ”と溺れながら一緒に波に飲まれて、外へと掃き出されていく。
アクアによって、周りにいたレッドゴブリンたちは離れたところで“ゲホゲホ”と咳払いをして蹲っている。
ちょうどその時、上空へと避難したチックとバーナが落ちてくる。
「うわあぁぁぁあああ〜!!」
バーナ急いでバナナを地面に投げつけて、バナナモンスターを呼び出す。
“ドーン”
チックが頭から地面に落ち、その衝撃は、地面を振動させ、辺りに轟音を響かせるほどであった。
バーナは、直前にバナナモンスターを呼び出していたこともあり、地面に直撃する手前、バナナモンスターに咥えられ、ゆっくりと下ろしてもらう。
「ふう……危なかったぁ」
バーナは冷や汗をかきながらも、無事着地できたことに、ほっとする。
そして、空でフワフワと飛んでいたヴィルも、ゆっくりと降りてくる。
3人の様子を見て、アクアが3人に声をかける。
「良かった、皆さん無事でしたか」
頭が地面に突き刺さったチックは、両手を地面に付けて、思い切り頭を引き抜く。
「無事じゃねえよ!! これ見て無事って言えんのか!?」
チックは“ドスンドスン”と足音をたててアクアの方へと歩み寄る。
そんなチックを見て、バーナがチックに向かって走り、後頭部を“バチン”と叩く。
「助けてもらったのに何言ってんの!」
そんな2人を気にもとめず、アクアは真剣な顔付きで、3人に呼びかける。
「ここは危険です! 近くにレッドゴブリンの巣があるので、これからまだまだ湧いてくると思います! 急いで逃げましょう!」
そう言って、アクアはアイスの手を掴み、レイン王国の方へと走っていく。
アクアとアイスを追いかけるように、3人も必死について行く。
10分ほど走っただろうか。5人は、レッドゴブリンとの戦場からはかなり離れたところまで来ていた。
「はぁはぁ……ここまで来れば、もうレッドゴブリンたちも追って来れないでしょう」
そう言って、アクアは3人に笑みを見せる。
すると、チックがアクアに向かって尋ねる。
「さっきは悪かったな! それで、お前は誰なんだ?」
そう聞かれたアクアは、3人の前に跪くと、自己紹介を始める。
「自己紹介が遅れて申し訳ございません。私は、レイン王国の第2王子、アクア・レインと申します。この度は、弟を救って頂き本当にありがとうございました」
その名前を聞いた3人は、驚きを隠せない。
「え〜!! また王子かよ!!」
王子に対して失礼な反応を見せるチックに対し、バーナが今日で何回目かの後頭部ビンタをする。
「チック! お前王子に対して失礼すぎるんだよ!!」
それに対してチックが、いつものように逆ギレをかます。
「あ!? お前だって相手が王子だからって、媚び売ってんじゃねえよ!」
チックの、煽りとも取れるその発言に、バーナはさらにキレる。
「はぁ!? 媚びてないんだけど!?」
そんな2人を横目で見ながらうんざりしているヴィル。
「(王子が2人もいるのに、目の前で喧嘩してるお前ら2人とも失礼だよ……)」
気を使わせてしまっては悪いと思い、ヴィルがアクアに話しかける。
「とりあえず、立ってくれよ。そんな畏まられても……それほどのことはしてないし、むしろ助けて貰ってるしな。さっきは助けてくれてありがとうな」
ヴィルがそう言うと、アクアは立ち上がる。
立ち上がった凛々(りり)しい姿のアクアを見て、ヴィルは思わず見入ってしまう。
アクアは、アイスと同じく、純白真っ白なサラサラの髪の毛。アイスとは違い、オッドアイではないが、その瞳は、アクアマリンのように輝いている。
すると、アクアがある提案をしてくる。
「皆さんは弟の恩人です。是非とも、レイン王国にご招待させてください」
もともとは、ただレイン王国にアイスを連れて行って帰る予定だったのだが、まさかアクアから王国への招待なんて、願ってもいないことである。
「え、いいのか? 俺らみたいなこんな、はしたない人間が行っても迷惑をかけるだけだぞ。」
ヴィルのその問いかけに、アクアは満面の笑みで答える。
「全く構いません。弟の恩人なんですから、むしろお礼をさせてください。きっと父も喜んで受け入れてくれるはずです」
そこまで言われては逆に断る方が失礼と言えよう。
3人は、アクアの言葉に甘えて、レイン王国へ招待してもらうこととなった。
「すぐ近くに、レイン王国の兵士たちが来ているはずです。そこまで行けば、馬車がございますので、そのままレイン王国までお送り致します」
ヴィルは、それを承諾し、アクアについて行くことにしたが、チックとバーナはまだ喧嘩をしている。
「お〜い、お前らいつまで喧嘩してんだ〜。早く行くぞ〜」
そのヴィルの呼びかけで、2人の喧嘩は止まる。
「おい! どこに行くんだよ!」
何も話を聞いていなかったチックがヴィルに問いかける。
「(はぁ……こりゃダメだ)」
ヴィルは、そんな2人を見て呆れた様子でため息をつく。
よく話が分かっていないチックとバーナだったが、とりあえずヴィルについて行くこととした。
それから少し歩くと、その先に、レイン王国の兵士と思われる、鎧を着た人間が数人と、馬車が来ていた。
その兵士たちは、3人の顔を見るやいなや、疑うような視線を向けて、アクアに話しかける。
「アクア王子、この方々は一体……」
そんな兵士に対して、アクアは微笑みながら答える。
「あぁ……アイスを救ってくれた方々だよ。お礼に、レイン王国に招待しようと思ってね」
それを聞いた瞬間、兵士が驚いた様子で、目を丸く見開く。
そして、3人の前に出ると、頭を深々と下げて言う。
「これはこれは、皆様のことを疑ってしまい申し訳ございません。馬車でレイン王国までお送り致しますので、是非、こちらにお乗りになってください」
3人は少し照れくさそうにしながら、馬車に乗り込む。
3人の乗る馬車には、アクアとアイスも乗ってきた。
そして、皆の乗る馬車の中で、ヴィルがアクアに話しかける。
「そういえばアクア、なんでアイスがここにいるって分かったんだ? あそこはまだワーマ王国の領土内だろ?」
それに対して、アクアが微笑みながら口を開く。
「別にあそこにいるのだと分かった訳ではありませんよ。昨日はレイン王国内を探し回っていたのですが、見つからなかったので、捜索範囲を広げてワーマ王国の領土を捜索していたところ、戦闘の激しい音が聞こえてきて、直感的にそこに駆けつけたところ、たまたま見つけられたって感じですかね。本当に運が良かったです」
弟がいなくなって、何日かけてでも、隣の王国に足を踏み入れてでも探し出そうとする、その綺麗な兄弟愛に、ヴィルは感心する。
ふと横を見ると、既にチックとバーナは眠ってしまっていた。
それにつられるように、ヴィルも眠気に襲われ、欠伸をする。
レッドゴブリンとの激しい戦闘で疲れてしまったのか、馬車のほどよい揺れによって眠りに落ちる。
そんな3人の様子を見て、アクアは顔を綻ばせて、アイスに話しかける。
「本当に愉快な方々だな」
アイスも、笑顔を見せながら答える。
「はい……本当に面白い方々です」
そして、それから1時間ほどだろうか。ぐっすり眠っている3人に声がかかる。
「……さん、……てください。皆さん、着きましたよ」
アクアの呼びかけに、真っ先に反応したのはヴィルだった。
「ん? もう着いたのか?」
目を擦りながら、ヴィルは馬車の窓から外を見る。
すると、ヴィルの目には、緑豊かな大自然に囲まれる、大きな城を中心とした綺麗な王国が映っていた。
しかし、チックとバーナは眠りがとても深く、アクアがなんど呼びかけても起きる気配がない。
「あぁ、大丈夫だ。こうすれば起きる」
ヴィルはそう言いながら、2人の頬を“バチン”とビンタする。
「えぇ……そんなことをしたら、怒られますよ」
アイスは心配そうにしていたが、チックとバーナの反応は、アイスの予想とは違い、意外なものであった。
「んあ? なんだ?」
「ん……着いたの?」
2人は眠りが深かった分、叩き起されても、叩かれたことに気づいていなかったのだ。
そして、3人が馬車から降りる。
その広大な自然に囲まれる王国。チックとバーナはその場で口をポカーンと開けながら、レイン王国を眺めている。
「さあ、行きましょう」
そうして、アクアとアイスがレイン王国の門へと歩いていく。
それに3人もついて行き、とうとうレイン王国へと入ることとなる。
門の入口は開いているが、そこには門番らしき人間がいる。
アクアは3人のことを説明すると、門番は快く通してくれた。
中に入った3人の目に映ったのは、楽しそうに会話をしたり、真剣に仕事をする、人間たちの姿であった。
しかし、ワーマ王国に比べて、若い人間が少ない。
アイスの言っていた通り、やはり高齢化が進んでいるようである。
しばらく街の中を歩き、段々と城へと近づいていく。
近くに来れば来るほど、その城の迫力が増してくる。
すると、城の前で、困ったような顔をしながら、うろうろと歩き回っている男が目に入る。
よく見ると、頭には王冠が乗っている。
「(ん? あれがレイン王国の国王か?)」
そう、この男こそレイン王国の現国王。アルマ・レイン国王なのだ。
皆の存在に気づいたのか、レイン国王が目に涙を浮かべながら走ってくる。
そして、レイン国王はそのままアイスのことを抱き上げる。
「おぉ〜!! アイス!! 無事だったんだな!!良かった……」
そう言って、レイン国王はボロボロと泣き出し始めた。
そんなレイン国王に対し、アクアがレイン国王の耳元で小さい声で囁く。
「父上、しっかりしてください。今日は来客がいるんです」
それを聞いたレイン国王が、少し驚いた様子で、涙を拭い、3人に目を向ける。
「あなた方は……?」
レイン国王の問いかけに、アクアが事情を説明する。
「この方々は、アイスのことを救ってくださった、とても勇敢な方々です」
レイン国王は、“なんと!”と叫び、さらに驚く。
そして、ヴィルが口を開く。
「そういえば、俺たちの自己紹介がまだだったな。俺はヴィル・アース。それと、隣にいる2人が、愉快な仲間たちだ」
自分たちの説明が適当なヴィルに対して、チックとバーナはツッコミを入れる。
「おい! 俺たちの説明が雑すぎんだろ! 俺はチック・エンだ!」
「私はバーナ・アーン。よろしく」
自己紹介が終わると、レイン国王が3人に向かって深々と頭を下げる。
「この度は、アイスを救っていただいて、本当にありがとうございました」
3人は照れくさそうに笑う。
「そ……そんな、大したことしてねえよ。国王、頭を上げてくれ」
レイン国王は頭を上げると、3人にお礼がしたいとのことで、ある提案をする。
「本当にこのご恩は決して忘れません。お礼といってはなんですが、是非、城内で料理でも召し上がっていってください」
その話に、チックが食いつく。
「おいおい! 料理って何出るんだ? 美味いんだろうな!? 早く食わせてくれよ!」
連日オーク肉しか食べていなかった3人にとって、これは嬉しいお誘いであったので、3人はすぐに了承し、レイン王国で料理をいただくこととなった。
早速城の中に入り、食堂へと案内される。
真っ白な長テーブル。キラキラと光る大理石のような床。
「ここが食堂です。是非、お好きな席にお掛けください」
3人は椅子に座り、料理が提供されるのを待つのであった。




