【第15話】レッドゴブリンとの戦い
4人とレッドゴブリンたちが見合わせるその場に、緊張感が漂う。
レッドゴブリンも、4人を警戒しているのか、なかなか襲いかかってこない。
自分たちから攻めるか、レッドゴブリンからの攻撃を待ってそれを受けるか、皆が思考を巡らせる。
しかしそれは、ありえないハプニングで打ち砕かれることとなる。
“ブゥ〜ッ”
「あっやべ!」
なんと、こんな状況であるにもかかわらず、チックは思い切り屁をこいたのだ。
バーナが鼻をつまみながら、チックに向かって怒る。
「ねえ汚い! やめてよ!」
しかし、それを、攻撃の意思と思ったのか、レッドゴブリンが一斉に4人に襲いかかってくることとなり、まさかのチックの屁が、開戦の合図となるのであった。
3人それぞれが密接した状態で戦うとなると、それぞれの攻撃が当たってしまう可能性もあるので、レッドゴブリンが皆に襲いかかると同時、ヴィル、チック、バーナの3人は、囲まれた中心から少し離れたところに移動して、戦うこととした。
アイスは、戦闘経験がなさそうであることから、中心に留まっていた。
アイスに、レッドゴブリンの攻撃が及ぶ恐れがあるため、バーナが即座にバナナを、アイスの足元に投げ、バナナモンスターを召喚してアイスを守る。
しかし、バーナの能力を知らなかったアイスは、急に足元から生えてきた化け物に驚き叫ぶ。
「わぁぁああ!! なんですかこの化け物!!」
怖がるアイスに、バーナが大声を出して教える。
「大丈夫! こいつはアイスのことを守ってくれるから! とりあえず、そいつの近くにいて!」
アイスは、何が何だか分からず、とりあえずバーナの指示に従い、バナナモンスターの根元にがっちりとしがみつく。
アイスの護衛はこれで確保出来たとして、他の3人には次々とレッドゴブリンが襲いかかる。
チックは、向かってくるレッドゴブリンを、『硬化』で硬めた拳で思い切り殴ろうとする。
しかし、予想以上にレッドゴブリンの動きが素早く、チックの拳は空を切る。
「なんだこいつら! 思ったよりつばしっこいぞ!」
レッドゴブリンの動きはとても素早く、チックはすぐに背後を取られてしまう。
そして、そのレッドゴブリンの持つ斧が、チックの背中へと襲いかかる。
しかし、チックもスピードなら負けていない。背後のレッドゴブリンには既に気づいており、斧が背中に突き刺さる前に、後ろを振り向き、斧を、右手に持っているナタで防ぐ。
「ひゅ〜! あっぶね〜!」
そして、その一瞬の隙を見て、そのレッドゴブリンの首を掴み、奥にいる2匹のレッドゴブリンに向かって投げつける。
「レッドゴブリンでボーリングだ〜!!」
その勢いはとんでもなく、その2匹は避けることが出来ず、3匹のレッドゴブリンは一緒になって吹っ飛ぶと、後ろにある木にぶつかって動かなくなった。
「よっしゃ〜! ストライクだぜ!」
それで安心したのも束の間、今度は他の2匹のレッドゴブリンが、同時に正面からチックに襲いかかる。
チックは、そのまま真上に高く跳び上がる。
「おっしゃ〜! 大地をぐしゃぐしゃに砕いてやるぜ〜!!」
そう言いながら、チックは両手の拳を硬化させ、拳を地面に向けながら落下する。
“ドーンッ”
そして、ものすごい轟音とともにチックの拳が地面に突き刺さると同時、チックの拳付近から地面にヒビが入り、そのままレッドゴブリンのいる方へ、ヒビが広がっていき、地面が大きく砕ける。
それによって、何体かのレッドゴブリンは足を骨折したり、捻ったりで動けなくなっていた。
「よっしゃ〜! 一気にまとめて倒してやったぜ!」
その頃バーナは、手から何本もバナナを生成しては命を吹き込み、地面に投げつけていた。
地面からは何体ものバナナモンスターが現れる。
レッドゴブリンのうちの一体が、バーナに棍棒を振るおうとする。
しかし、その棍棒がバーナに届く前に、バナナモンスターの通常個体が、そのレッドゴブリンにかぶりつき、そのまま丸呑みしてしまう。
一見、バーナはバナナモンスターに守られ、何もしていないようにも見えるのだが、実は、バナナモンスターを自分の意思で操作することも出来る。
よって、自信が想像するクリエイティブな戦い方もできるのだ。
正面からは、3匹のレッドゴブリンが同時に襲いかかる。
それを見てバーナは、ニヤリと口角を上げる。
「3匹同時なんて、頭が悪いな〜」
レッドゴブリンが高くジャンプし、手に持つ棍棒を振り上げ、バーナの頭目掛けて振り下ろそうとする。
それに対してバーナは、左腕を“バサッ”と空中で振るう。
「よいしょっと」
当然これは、レッドゴブリンの手前で空振り、レッドゴブリンに対して当たりはしない。
レッドゴブリンたちは、バーナのその行動に対し、空中でニヤリと不気味に笑う。
「なに勘違いしてんの……」
しかし、バーナの目的は、初めからレッドゴブリンを殴ることではなかった。
バーナが左腕を振ったと同時、それと同じ動きをするかのように、3匹のレッドゴブリンの横側から、バナナモンスターの細い個体が、ものすごいスピードでレッドゴブリンに向かって突っこむ。
次の瞬間、細い個体は、3匹のレッドゴブリンの腹に巻き付くように動き出し、3匹を拘束する。
細い個体に拘束されたレッドゴブリンたちは、必死に抜け出そうと、棍棒で細い個体の茎を殴る。
細い個体は、見ての通り細いため、耐久性はあまり高くなく、このまま殴り続けられてはいずれちぎれて、拘束が解けてしまう。
バーナはまたしてもニヤリと笑う。
「これで……終わりじゃないよ……」
バーナは、振るった左腕の拳に力を入れて、拳をギュッと強く握る。
すると、その細い個体の拘束する力が増し、さらに強くレッドゴブリンの腹を締め付けた。
腹を締め付けられる感覚はさぞ痛いのだろう。
レッドゴブリンたちは、持っている武器を捨て、“シャーッ”と掠れるような声を発し、腹に巻き付く細い個体のしなやかな茎を必死に剥がして、少しでも空洞を作ろうとしている。
しかし、バーナの攻撃はこれだけでは終わらなかった。
「ふふっ。抵抗しても無駄だよ」
バーナは、今度は右腕を“バサッ”と風を切るように振るう。
それと同時、今度は反対側から、頭と茎が大きいバナナモンスターが、拘束されているレッドゴブリンたちの元へ突っ込む。
今度は、レッドゴブリンたちを拘束するのではなく、その大きい個体は、口をあんぐりと大きく開けて、レッドゴブリンたちに近づいていった。
そして、その大きな個体は、細い個体ごと、3匹のレッドゴブリンたちを丸呑みしてしまったのだ。
そのまま、大きな個体は地面へと潜っていき、バーナは、3匹のレッドゴブリンを無事倒すことが出来たのだった。
「バイバイ〜!」
バーナは微笑みながら、手を振る。
一方、ヴィルは、5匹のレッドゴブリンと対峙していた。
5匹のレッドゴブリンたちが、半円を描くような形のまま、一斉にヴィルに襲いかかってくる。
ヴィルは咄嗟に指をレッドゴブリンの頭に向けて、『Virus Shot』を1発放つ。
しかし、レッドゴブリンの動きは素早く、華麗に避けられ、その1発を外してしまう。
「くそ、やっぱり速ぇな」
レッドゴブリンは、動きが早い上に、体が小さいため、過去のオーク戦やミノタウロス戦のように、頭を撃ち抜くのはなかなか難しい。
そこでヴィルは、両手を前に出し、10本の指をレッドゴブリンたちに向ける。
「これなら当たるだろ」
そう言った瞬間、ヴィルの10本の指先からウイルスの弾が発せられた。
弾は小さくとも、指を広げている分、攻撃範囲は広がり、半円状に突っ込んできていたレッドゴブリン全員に、見事に命中した。
しかし、10本の指から撃った分、1本の指から撃つよりも威力が落ちていて、その効果は分散されており、また、同時に撃ったことで、体には当たったものの頭には当たっていなかったことから、レッドゴブリンたちへのダメージは、小さなものとなってしまっていた。
威力は落ちていると言えど、体の中には凝縮されたウイルスが入り込んでおり、撃たれた部位は、痙攣して動かせなくなっている。
それに、そのウイルスは段々と体の中で繁殖し、やがて体全体へと行き渡る。
“ガーッ”と苦しそうな声を出して、その場に蹲るレッドゴブリンたち。
「(可哀想だから、早くトドメを刺してやるか)」
ヴィルは、懐にしまっていたナイフを手に取る。
しかし、レッドゴブリンたちは、プルプルと体を震わせながらも立ち上がってくる。
「おぉ、あそこから立ち上がるのか、結構根性あるなぁ」
そんなレッドゴブリンたちを見て感心するヴィルだったが、早く倒さないとアイスに危険が及ぶかもしれないと思い、ナイフを右手に、レッドゴブリンたちへと突進する。
もうレッドゴブリンたちに、ヴィルの攻撃を避ける余力はない。
しかし、最後の抵抗か、レッドゴブリンたちは、斧や棍棒を振り上げ、ヴィルへと振り下ろそうとする。
しかし、そんな弱った体では、パワーもスピードも出せない。
「悪いけど、そんなのは当たってやれねえな」
ヴィルはその攻撃をヒラリと躱し、容赦なく、レッドゴブリンの鳩尾にナイフを突き刺す。
“グエーッ”という断末魔をあげるとともに、レッドゴブリンはその場に倒れ込む。
残りの4匹も同じように鳩尾にナイフを突き刺し、レッドゴブリン5匹を倒すことが出来た。
そのまま3人は、次々と襲いかかるレッドゴブリンたちを順調に排除する。
アイスは、その光景が怖いのか、目を瞑り(つむ)、しゃがみこんで頭を抑えて怯えている。
これは一刻も早く倒しきらねば、アイスにトラウマを植え付けることとなってしまうだろう。
そして、チックがレッドゴブリンと戦っているとき、あまりの数に対応しきれず、1匹のレッドゴブリンが、チックの横を通り過ぎて、アイスのいる方へと向かって行ってしまった。
チックは後ろを振り向いて叫ぶ。
「やべぇ〜!! アイスの方行っちまった!!」
急いで追いかけようとするチック。
チックの声を聞いて、アイスは顔を上げる。
すると、そのレッドゴブリンは既にアイスの眼前にまで迫ってきており、斧を振り上げていた。
もうダメだと思ったその時、始めにバーナが護衛として置いておいたバナナモンスターが動き出す。
バナナモンスターは、その大きな頭で、レッドゴブリンに向かって頭突きをし、レッドゴブリンを吹っ飛ばす。
頭突きをされたレッドゴブリンは、空中へと高く吹き飛ばされ、既に意識を失っていた。
そのままレッドゴブリンが空から降ってくる。
バナナモンスターは口を大きく開け、落ちてくるレッドゴブリンをそのまま丸呑みしてしまった。
それを見たチックが安心する。
「ふう……助かったぜ!」
チックがほっと胸を撫で下ろすと、横からバーナがチックに叫び出す。
「チック! 後ろ! 危ない!」
バーナの声で、チックが後ろを振り向くと、棍棒を振り上げるレッドゴブリンの姿があった。
チックは気づくのが遅すぎた……
レッドゴブリンの容赦ない一撃が、チックの顳顬へと振るわれる。
“ゴンッ”と鈍い音が響き渡る。
頭、ましてや顳顬には、基本的に鍛え上げられるような筋肉はない。
それは完全に致命の一撃……かと思われた。
「残念だったな〜!!」
そう言って、チックは自信満々に叫ぶ。
そう、チックは、顳顬周辺を硬化させていたのだ。
故に、チックには一切その攻撃が通じていなかった。
そのまま、左拳に力を込める。
「不意打ちしてんじゃねえ〜!!」
そのまま渾身の一撃を、レッドゴブリンの腹に打ち込み、レッドゴブリンは白目を向きながら遥か彼方へと飛んでいった。
「腕以外も硬化できんだよ! 舐めんな!」
チックは、飛んで行ったレッドゴブリンへそう吐き捨てる。
殺っても殺っても、次々と4人に襲いかかるレッドゴブリンたち。
戦闘の最中、ヴィルはとある違和感を感じていた。
そしてそれは、チックとバーナも同様に感じていた。
そう、戦闘を始める前に比べて、明らかにレッドゴブリンの数が増えているのだ。
そして、一時は優勢だった3人が、徐々に押され始め、段々と中心部に近づいていく。
その時、チックが皆に声をかける。
「なあ!なんかこいつら増えてねえか!?」
それは、ちょうど全員が感じていた違和感であった。
レッドゴブリンと戦いながら、ヴィルがチックの声かけに応じる。
「ああ、ちょっとまずいかもしれねえな」
そしてついに、4人を絶望に誘う事態が起こる。
“シュッ”
風を切るような鋭い音が、チックの耳元で響く。
そう、それは一度は止んだと思った、弓矢による攻撃だった。
それにいち早く気づいたチックは皆に向かって叫ぶ。
「やべえ! 矢が飛んできやがった!」
その声を耳にした2人も、流石にそれには焦りを感じ始める。
次の瞬間、奥の方から一斉に弓矢が放たれ、またしても矢の嵐が4人へと襲いかかる。
ヴィルが、<翠眼>で、茂みの方へと目を向ける。
すると、茂みに隠れながら弓矢を放つレッドゴブリンのシルエットが、ヴィルの視界に映し出される。
「お前らだな……」
ヴィルの視界に入った弓矢を撃つレッドゴブリンは2匹。
ヴィルは、その2匹に対して指を向け、一撃で仕留めるために、威力を高めて発射する。
集中力を高めて放ったその2発は、茂みに隠れるレッドゴブリンの脳天を正確に貫いた。
脳を浸食されたレッドゴブリンたちは、その場に仰向けに倒れ込む。
しかし、たった2匹のレッドゴブリンを倒したといっても、その矢の嵐は全く収まることなく続いている。
チックは、襲い来る矢を、驚異的な動体視力で躱すとともに、その矢の軌道を測り、レッドゴブリンの位置を特定する。
「よっしゃあ、そこだな!」
チックは、足元に落ちている尖った石を拾い、そのレッドゴブリン目掛けて、とんでもない速さで石を投げつける。
「これでも喰らっとけ〜!!」
そう言って投げられた石は、隠れているレッドゴブリンの顔面に直撃し、レッドゴブリンは顔面が砕け、その場で倒れた。
アイスを守ることが、何よりの最優先事項。
「(このままじゃアイスが危ない。)」
バーナは、右手から3本のバナナを同時に生成し、手をキラキラと光らせて命を吹き込むと、それをアイスのいるところへ投げつける。
これで、アイスの防御はさらに堅くなり、アイスに攻撃が及ぶ心配は少なくなった。
しかし、4人に襲いかかるのは、矢だけではなく、棍棒や斧を持った、近接特攻のレッドゴブリン。加えて、アイスを守りながらの戦闘となり、段々と3人の体力も削られていく。
「ったく、本当めんどくせぇな……」
ヴィルが険しい表情を浮かべながらそう口に零す。
飛んでくる矢を避けながらの戦闘へと切り替わり、近接戦がやりづらくなった3人。
段々と体力も減ってきて、先ほどまでの余裕がなくなってくる。
チックが、近づいてきたレッドゴブリンの腹に拳をねじ込む。
そのレッドゴブリンは、吹き飛ばされた直後は、体を痙攣させて蹲っているが、少しすると平然と立ち上がって、またしても襲いかかってくる。
「くっそ! こいつら一撃じゃ死なねえぞ!」
そう、3人の体力の減少もあるが、矢の嵐によって体勢を取りづらく、一撃に力がなかなか上手く入らないのだ。もはや打撃では、レッドゴブリンを倒すことは難しくなってきていた。
一撃で仕留められない、加えてレッドゴブリンの増援。3人にとっては、戦闘開始時の2倍ほどの数になっているように感じられた。
そして、3人の隙間を抜けるレッドゴブリンの数が増えてきた。
バーナのおかげで、アイスを守るバナナモンスターは増えたのだが、その茎には、3人が避けた矢が何本も突き刺さっている。
ヴィルが、アイスのことを少し心配して後ろを振り返った時……もう遅かった。
“キエーッ”
アイスを守っていたバナナモンスターたちが、次々に奇声をあげて倒れていく。
その奇声を聞いて、チックとバーナも後ろを振り返る。
すると、既に3人の隙を見て中に入り込んでいるレッドゴブリンがいた。
「こりゃあまずいな……」
「やべえ〜!!」
「アイス!!」
既にレッドゴブリンは、アイスの目の前。
位置的に考えても、3人はもう間に合わない。
アイスはその瞬間、死を悟り、目に涙を浮かべたまま、襲い来るレッドゴブリンを見ながら呆然としていた。
ついに、レッドゴブリンが、両手で斧を振り上げ、その強靭がアイスへと襲いかかる……




