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【第11話】重大なミス

 ちょうどその頃、ワーマ王国ではとんでもないことが起ころうとしていた。


 ルルは、側近専用室で、1人悩みを抱えていた。それは、ヴィル、チック、バーナについてのことであった。


「(あの水晶の光り方はやっぱりおかしい。あんな風に光る水晶なんて、今まで見たことがない……)」


 ルルはあれから、何人かの転移者の能力鑑定をしたのだが、その水晶の光り方はどれも同じようなものであり、ふと3人のことを思い出して、3人の時の水晶の光り方に違和感を覚えていたのだ。

 それからルルはずっと、3人が水晶に触れた時の、水晶の光り方に疑問を持っていた。


 そう、通常は、水晶に手をかざした時、その水晶は一色だけを発色するのである。

 しかし、バーナは、黄色に発色しながら、その周りがキラキラと輝きだし、チックは、赤色に発色したあと、その光り方が強くなっていった。

 ヴィルは、緑色の一色かと思ったが、その直後、その緑は暗く濁り、その中に小さく鮮やかな緑色が輝いていた。


 そしてルルは、ふと、昔のことを思い出す。


「(昔、お父さんから聞いたことがある。もしかしたら……まさか……いや、まさかそんなことは……ないよね)」


 その時、ルルの頭の中には、ある仮説が思い浮かんでいた。

 その仮説とは、あの3人が、能力を複数持っているのではないかということである。

 しかし、ルルは水晶に表示された文字を見て、確かに能力は1つしか表示されていなかったことを思い出すが、それでも不安な気持ちが残る。


「(でも、もしそうだったら……)」


 ルルは、まさかそんなことはないだろうと自分を疑いながらも、確かめずにはいられなくなり、側近専用室を出ると、その足で、城の大図書館へと向かった。


 ワーマ王国の城の中にある大図書館。そこは、100万冊を優に超える数の本が置かれている。

 ワーマ王国は、他の王国に比べれば、比較的小さな王国であるにもかかわらず、高い戦闘力を持つと言われているが、その理由の一つが、この大図書館であると言われるほど、この図書館の存在は、ワーマ王国にとって、とても大きなものなのである。


 ルルは、やっとのことで大図書館に着き、中へと入っていく。

 時刻は夜の9時を回っている。早い者は既に眠りについている頃だろう。


「(最近は忙しくてあまり来れてなかったけど、こうして見ると、すごく大きいな〜)」


 大図書館の中はとても広く、何百人もが余裕で入れるほどの広さであるが、夜遅いこともあり、やはり中には、勉強をする者や、研究本を読んだりする者等が数人いる程度であった。


 ルルは、早速目当ての本を探し始めた。

 歴史関連、武具関連、料理関連……料理関連!?


「(違う違う! なんでこんな時に料理本なんか見てるんだよ私!)」


 しかし、どれだけ探しても目当ての本は見つからない。


 探し始めてから10分が経過し、ルルはあることに気がつく。


「(そうか……あれは本来、国王様が許可をした者以外は、触れることが禁じられている物。それが、城の関係者が誰でも手に取ることができる場所にあるはずがない。となると……)」


 そう、ルルが目当てとしている本は、国王に許可された人間だけが読むことが出来るという物であったのだが、ルルは、焦りと緊張からか、その事をすっかり忘れていたのだ。


 するとルルは、足早に、この大図書館の館長の元を訪れる。

 館長は普段、この時間は館長室で事務作業をしている。ルルは館長室の前に立つと、扉を“コンコン”と優しくノックする。

 館長は、扉をノックする音を聞くと、扉についている覗き穴を指で押し開け、外を確認する。


「はい、どなたですか……って、ルルさんじゃないですか」


 館長はそう言うと、(こころよ)く扉を開けて、ルルを館長室の中へと招いた。

 ルルは館長室へと入ると、館長が笑顔で迎え入れる。


「お久しぶりです。ブック・パープル館長。」


 彼女の名は、ブック・パープル。ワーマ王国の大図書館の館長を勤めている。

 髪色は濃い赤紫色、腰までかかるロングヘアで、艶々(つやつや)と輝き、動く度にその髪の毛がサラリと(なび)く。歳は、見た目からして50代といったところだが、正しい年齢は、ワーマ国王含め誰も知らない。あらゆる本に精通(せいつう)しており、まさに本のスペシャリストと言える人間である。


 ブック館長がニッコリとした笑顔をルルに見せながら、優しく問いかける。


「それで、今日はどうされたのですか。こんな夜遅くに」


 ルルは、ブック館長の問いに対して、その重い口をゆっくりと動かしながら言う。


「じ……実は、ある本を探していまして……」


 ブック館長は続けて話しかける。


「あら、そうなんですか。ちょうど今、事務作業が終わったところでしたので、良かったら一緒に探しますよ。ところで、なんの本をお探しなんでしょうか?」


 なんと心が広い人間なのであろうか。ルルは、その優しさに感動する。

 そしてルルが、目当ての本の名をブック館長へと告げる。


「その本が……『異世界転移法則書』という本なんですけど……」


 ルルが、その本の名を言った途端(とたん)、突然ブック館長の目が鋭くなる。

 そして、先程までのブック館長からは想像もできないようなオーラを放ち、ルルに対して強い圧力をかける。


「ひっ!」


 ブック館長の圧力が強すぎたのか、ルルの体は緊張して硬直し、目には少し涙を浮かべていた。


「なぜ、あの書が必要なのですか? 国王様から許可は頂いたのですか?」


 ブック館長は、怖がるルルに構わず、更に強い圧で問いかける。


「あ……え……えっと、その……実は……」


 ルルは、ブック館長に対する恐怖からか、もうまともに話せそうになかった。

 その様子を見て、これではまともに会話も出来ないと思ったのか、ブック館長は、普段の優しいブック館長へと戻る。


「はぁ……ルルさん、あなたも国王の側近になってから3か月なんですから、このくらいの重圧は耐えていただかないと、やっていけませんよ」


 そうアドバイスをするブック館長に、ルルは涙をポロポロと流しながら、頭を下げて謝罪をする。


「も……申し訳ありません……」


 そして、ブック館長は、本題へと話を戻す。


「ところで、どうして『異世界転移法則書』が必要なのですか?」


 その問いかけに対して、ルルは涙をハンカチで(ぬぐ)うと、その理由(わけ)を話し始める。


「ブック館長、以前、この世界に転移してきた3人組を覚えていますか?」


 するとブック館長は、首を横に振って答える。


「いいえ、存じ上げませんね。私は大図書館の館長ですので、そのような話は耳にしないのです」


 思わぬ回答に、ルルは少し戸惑うが、詳細に説明をすることにした。


「実は、国王様が、少し前に異世界から、ある3人組をこの世界に転移させたのです。そして、いつものように転移者様には、水晶にお手をかざしていただいたんですけど、その水晶の光り方に違和感がありまして、それで、それについて知りたく、『異世界転移法則書』を探していたのです。


 ルルが話終えると、ブック館長は頷きながら、ルルの話を聞いていた。

 すると、ブック館長が、またも鋭い目でルルを(にら)みつけながら、低い声で言う。


理由(わけ)は分かりました……ですが、ルルさん……その内容は、私に伝えても大丈夫なのですか?」


 そう言われたルルは、困惑した表情を見せる。


「え……えっと、ダメ……なんですか?」


 ルルは冷や汗をかき、ブルブルと震えながら、ブック館長に問いかける。


「ええ。特に異世界からの転移者に関しては機密事項……国王様と側近のあなた、それから、その他の上層部だけが知り得る情報は、外部に流してはいけないのですよ」


 そう言われたルルの顔がだんだんと青ざめていく。


「そ……それでは、私はこれから……どうしたら……」


 ルルは床に膝をつき、泣きそうになりながらそう(こぼ)す。

 するとブック館長は、そんなルルを可哀想(かわいそう)に思ったのか、ゆっくりとルルに近づき、不安そうに見つめるルルの肩に“ポン”手を置いて、優しく答える。


「ふふっ。大丈夫ですよ、安心してください。このことは2人だけの秘密。私は誰にも言いませんから」


 そう言って、ルルのことを抱きしめるブック館長。

 その瞬間、ルルはブック館長の優しさに包まれ、ブック館長に安心感を覚えた。


「ありがとう……ございます……」


 その言葉をもらった時、ルルは顔を赤くして、またも涙を流した。


 それから少しして、ルルの目的を聞いたブック館長は、館長室の机の引き出しについている鍵を、詠唱を唱えて開け、中から『異世界転移法則書』を取り出すと、ルルに手渡した。

 本来なら、国王からの許可を得ていない者や、怪しい動きをする者には、この書を渡したりはしない。

 しかし、大図書館を何度も利用してくれていたり、そのルルの真面目さに、きっとブック館長は情が湧いたのだろう。


「ありがとうございます!」


 ルルは目を輝かせて、ブック館長にお礼を言う。

 流石にここまで重要な書となると、館長室からの持ち出しはダメらしく、館長室にある小さな机の上に広げて読むこととした。


 『異世界転移法則書』そこには、多元世界からこの世界へと人間を転移する際の、あらゆる規則が載っている。

 転移の方法はもちろん、その際のルールや、留意点まで詳細に載っているのだ。


 館長は、自身の椅子に座って、ルルが読み終わるのを待っている。

 事務作業も終わって早く休みたいであろうブック館長を、長い間待たせるわけにはいかない。


 ルルは、黙って書をペラペラと(めく)る。

 そして、ルルはとあるページにたどり着くと、そこで書を(めく)るのを止めた。


「(あ……あった! きっとこれだ!)」


『異世界転移法則書』

第四篇 「転移の際の留意点」

第59条 複数能力の異常発現(107条参照)

 異世界の人間の過剰転移により、ごく稀に発生する。複数能力の異常発現を目的とした転移、これを絶対に禁ずる。


第六篇 「能力鑑定」

第107条 複数能力の異常発現

 複数能力の異常発現が起きた場合、能力鑑定の際、水晶の複数発色、水晶の発光が起こる。


 これらの内容を読んだルルは、確信する。


「(間違いない……あの3人は、複数能力持ちの転移者だ)」


 椅子に座っていたルルは、その場で“バッ”と立ち上がる。

 その様子を見たブック館長が、優しい目でルルを見て話しかける。


「探していたものは見つかりましたか?」


 ルルは、『異世界転移法則書』をそっと閉じ、ブック館長の元へ行ってそれを返す。


 「はい。おかげで(わだかま)りが晴れました」


 すると、ブック館長はニコッと笑ってルルの目を見る。


「そうですか。それは良かったです」


 そして、ブック館長が、ルルに1つお願いをする。


「ところで、この話は私たちだけの秘密ですよ。このことが国王様にバレてしまえば、私もあなたも処刑されてしまいますからね」


 それにルルは、当然の(ごと)く頷き、その要求を飲む。


「も、もちろんです!」


 ルルは、ブック館長に深々と頭を下げて、お礼を言う。


「本当にありがとうございました」


 そう言うと、ルルは扉の方へゆっくりと歩いていく。

 後ろでは、ブック館長がルルに向かって小さく手を振り、ルルを見送っている。

 その時のブック館長の目には、ルルが肩を(すぼ)めて、どこか落ち込んでいるようにも見えたが、時刻は夜の9時30分、きっと疲れているのだろうと思い、その時は特に声をかけなかった。


 自室に戻ったルルは、ベッドに座って、眠りにつく準備をする。


「やっぱり、きっとあの3人は能力を複数持ってる……明日の会議で、ちゃんとこのことを国王様に伝えないと!……でも、こんな重大なミスをしたんだから、きっと私は何かしらの罰を受けるんだろうなぁ……」


 ルルは、3人の能力に対する仮説が確信に変わったことで、1つの悩みが消えたが、自分が無知であるが(ゆえ)に、このような重大なミスをしてしまい、国王と3人には申し訳ないことをしたと、反省するとともに、何かしらの罰が与えられるのではないかという不安を抱えながら、その日は眠りについた。


〜翌日〜


 窓に差し込む光を浴びて、ルルは目を覚ます。

 昨晩、寝る時間が少し遅かったこともあるが、3人の能力に対する驚き、そして国王に報告しなければならないという不安と緊張から、あまり質の良い睡眠ができなかった。


 朝は時間がないため、すぐに準備を済ませ、部屋を出ると、足早(あしばや)に会議室へと向かう。

 そう、今日は、ワーマ王国の幹部たちによる重要な会議の日なのである。

 ルルは、3人についてのことを、今日この会議で国王に報告しようと、強い決意を固める。

 そして、会議室の前まで来ると、中から幹部の人間たちが話をしている声が漏れ聞こえてくる。


 ルルは、込み上げてくる緊張と不安を押し殺し、“コンコン”とノックをすると、ドアノブに手をかけ、扉を開ける。


「し……失礼します」


 ルルがそっと扉を開け、中に入ると、既に他の幹部は席に着いているようであった。

 前に目をやると、ワーマ国王の姿もある。

 すると、なぜかワーマ国王はルルを(にら)みつけながら怒鳴る。


「貴様! 遅いぞ! 側近の癖して、一番最後に入ってくるとは何事だ!」


 ルルは、頭を深く下げ、必死に謝る。


「も……申し訳ございません!!」


 時間は間に合っているはずなのだが、どうもこの日のワーマ国王は機嫌が悪いようである。

 ルルは荷物を置くと、急いで席に座る。


「(今日の国王様は、いつも以上に機嫌が悪いなぁ……これじゃあ言い出しずらいなぁ……)」


 こうして、ワーマ王国の幹部による会議が始まる。

 そしてこれから、3人はとんでもない事に巻き込まれていくことになるのだが、この時はまだ誰も知る(よし)もなかった。

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