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【第10話】救助

 もし仮に、チックの聞こえたという声が、本当に子供の叫び声だとしたら、急がないと、取り返しのつかないことになりかねない。

 最速で向かうために、バーナはチックに乗るが、なぜか、ヴィルはチックに乗ろうとしない。


「おいヴィル! 早く乗れよ!」


 するとヴィルは、2人に向かって衝撃的なことを告げる。


「俺は飛んで、上から様子を見ながら、お前らを追いかけるから、お前らだけで行っていいぞ」


 そう、ヴィルの能力<ウイルス>は、その特性上、空中を浮遊することができるのである。

 2人はそれを聞いて、唖然(あぜん)とする。

 急がないと行けないので、ヴィルは特に説明をせず、上に飛び跳ねると、そのままさらに上に上がっていき、上空20mほどのところで、ふわふわと停止した。


「チック〜、早く行ってくれ〜」


 ヴィルがチックに声をかけて、子供の声のした場所への案内を(あお)ぐが、チックはヴィルの方を見て動かない。


「うおぉぉおおお! お前! 空も飛べたのかよ!」


 呑気に喋るチックに対して、バーナがイライラしながらチックの後頭部を叩く。


“バチンッ”


「早くして、バカ」


 頭を叩かれて、ようやく目を覚ましたチック。


「ああ、そうだった! しっかり掴まっとけよ〜!」


 チックはそう言った直後、とんでもないスピードで走り出した。

 やっと動き出したか、とヴィルは(あき)れながらも上から2人を追いかける。


 走り始めてから1分ほどして……ヴィルの視界にあるものが入り込む。

 それは、大きな牛のような魔物に担ぎ上げられている子供の姿であった。

 状況的に、おそらくあの子供だろうと直感したヴィルは、チックに向かって叫ぶ。


「おいチック! そこから右に90°曲がって直進しろ!」


 チックは、ヴィルの声を聞き取り、そのまま右に90°曲がる……はずだった。

 しかし、ヴィルの目は、ありえない光景を捉える。


「おう! 任せとけ!」


 そう、チックは自信満々にそう言うと、左に90°曲がって行ってしまったのだ。

 バーナが、チックの頭を“バチン”と叩く。


「バカ! そっちは左だよ! ここから後ろに向かって走れ!」


 バーナに言われてやっと気がついたチックは、その場から180°方向転換し、走り出す。


 森の中の木々の間を通り抜け、チックが前に目をやると、ノシノシと歩く、牛のような魔物がおり、それはヴィルが見たものと同じものであった。

 チックは、その魔物に向かってさらにスピードを上げて突進する。

 森の中を駆け抜ける、“ガサガサ”という音に、その牛のような魔物は、耳を傾け、やがて、チックとバーナの存在に気づく。

 しかし、気づいた時にはもう遅かった。

 チックは、木々を抜け、少し開けた道へと出ると同時、牛のような魔物の顔面に、飛び蹴りを入れる。

 その威力が強すぎたのか、魔物は、担いでいた子供を離し、茂みの奥へと吹き飛んでいく。

 魔物が離した子供は、そのまま地面へと落下していくが、ギリギリのところでチックが子供をキャッチし、怪我なく助けることができた。

 ヴィルが上から、皆の元へ降り、子供の様子を気にかける。

 ヴィルは能力<翠眼>で子供をじっと見て、様子を確認する。


「大丈夫だ、気絶してるだけで特に怪我とかはないっぽいな。」


 それを聞き、2人はほっと胸を撫で下ろす。

 その直後、チックに蹴り飛ばされた魔物が、奥からこちらに向かってきた。

 ヴィルが魔物に目をやり、詳細を確認すると、その魔物の名は、ミノタウロスということが分かった。


名称:ミノタウロス 魔物ランク:B+

特徴:身長:4m、体重:500kg

   人間を好んで食す(既5人)。


「こいつはミノタウロスだ。もう人を5人も食ってる。これからこの子供のことも食べるつもりだったんだろうな」


 ヴィルのミノタウロスについての詳細を聞いたチックは、口角を上げ、ヴィルに問いかける。


「っていうことは、あいつは殺ってもいいんだな?」


 その問いに対し、ヴィルは目を瞑り、静かに頷いて返事をする。


「ああ、いいぞ。」


 3人は、魔物に手を出すときには、必ずその魔物が人間に手を出しているかどうかを判断してから、するようにしている。

 魔物なら、見つけ次第殺しても良い、キングオークと戦う前までは、皆そう思っていた。

 話は3日前に(さかのぼ)る。


〜3日前〜


「人間と魔物の共生か……」


 ヴィルは、夕食のオーク肉を前に、ポロリとそう発言した。

 美味い肉がこれから食べられるというのに、少し浮かない顔をしているヴィルを見たチックが、声をかける。


「おいヴィルどうしたんだよ! これから肉が食えるって言うのによ!」


 ヴィルは、1人で抱えていてもモヤモヤするだけだと思い、思い切って2人に悩みを打ち明けた。


「実はな、キングオークが言ってた『人間と魔物の共生』っていう言葉が頭から離れなくてな。このオークたちも必死に生きてたんだと思うと、なんか心が痛くなってきてな」


 それに対し、チックは飄々(ひょうひょう)と返す。


「でもこいつら、人間を食ってたじゃねえか」


 それを聞いたヴィルは、驚いて、チックに聞き返す。


「お……お前、気づいてたのかよ!」


 チックは、オーク肉を頬張(ほおば)りながら(うなず)く。

 チックは一見、周りを見ていないようで、実は意外と細かいところまで見ているんだなぁとヴィルは感心してしまった。

 そしてチックが続けて話す。


「でもよ、俺らは人間だし、俺らが餓死(がし)するくらいなら、魔物を狩って食った方が良くねえか? 魔物の命を優先して、俺らが死ぬなんて嫌だぜ!」


 チックの言葉を聞いてもなお、ヴィルはどこか()に落ちていない様子である。

 すると、バーナが会話に入り込み、ある提案をしてきた。


「ヴィルって、<翠眼>だっけ?それで、相手のことが分かるんでしょ? それなら、人間に手を出した魔物だけを対象にすればいいんじゃない? さすがに人間を食べる魔物を生かしておく必要はないでしょ?」


 ヴィルはそれを聞いて、心の(わだかま)りが浄化されたような気がした。

 人間社会でも、人を殺めれば死刑になるように、人間を食う魔物は、人間にとっては脅威(きょうい)そのものであり、これ以上の被害を出さないためにも、始末した方が良いのだ。


「そうだな、そうしよう。それじゃあこれから魔物を狩る時は、もっと慎重に判断しないといけねえな。」


 そう言って、ヴィルは微笑んだ。


〜そして現在〜


 起き上がってきたミノタウロスとチックが対峙(たいじ)する。

 チックは、持ってきたナイフを右手に持ち、戦闘の構えを取る。

 ミノタウロスの魔物ランクはB+。相当手強いが、チックはどうやら自信満々の様子。

 一方ミノタウロスも、腰に付けた斧を手に取る。


「しっぽ取りで負けた悔しさを、ここで晴らしてやるぜ!!」


 少しの間見つめ合い、ミノタウロスがスタートを切る。

 体勢を低くして、チックに向かって突進するミノタウロスの速さは、とんでもなく速かった。

 しかし、チックの目はそれを捉えている。横に跳んで、容易(たやす)く回避する。

 チックに回避されたことで、ミノタウロスは止まれず、そのまま木に突っ込んでいく。

 そのスピードもあってか、その(つの)が木に突き刺さり、貫通している。あれを喰らえば一発で死ぬだろう。

 ミノタウロスは、すぐに木から(つの)を引っこ抜き、またもチックに向かって突進をする。

 しかし、今度は体勢が低くなく、チックの目の前に来ると同時、両手で斧を振りかざす。

 それを見たチックがすかさず叫ぶ。


「チャンス!!」

 

 チックは、そう言うと、ミノタウロスの開いた股下を通って、背後に回り込む。

 ミノタウロスは、振るう斧に力を込めすぎたのか、地面に突き刺さって抜けないようである。

 その隙を見て、チックは、ミノタウロスの尻尾(しっぽ)を掴み、右手のナタで切る。


“グァァァアアア”


 ミノタウロスは、尻尾(しっぽ)を切られた痛みから、叫び声をあげる。


「よっしゃあ! しっぽ取ったぜ!」


 どうやらチックは、この戦いをしっぽ取りと勘違いしているようである。


「しっぽ取りじゃねえよ!」


 バーナがチックにツッコミを入れる。


 しかし、チックはしっぽ取りで勝てて嬉しいのか、そのしっぽを持ちながら、呑気(のんき)に2人に向かって手を振っている。

 これにはヴィルも(あき)れた様子を見せる。


「ま……まあ、あいつが満足ならいいか」


 ヴィルはそう言って、小さくため息をつく。

 しかし、ミノタウロスにこれ以上暴れられると、色々と被害が出るかもしれない。

 ヴィルは手を銃の形に構え、『Virus(ウイルス) Shot(ショット)』を放つ。

 ミノタウロスは、その攻撃に気づいておらず、その弾は、正確にミノタウロスの頭を貫通し、脳を腐敗させ、ミノタウロスはその場に倒れた。


 こうして、3人はミノタウロスの討伐(とうばつ)に成功したのだが、子供の意識は一向に戻らない。

 そこで、とりあえず子供を(かか)えて家に戻り、子供の看病をしてあげることに決めた。

 そこで、チックが、2人に話しかける。


「このミノタウロスどうするんだ? ここに置いて行くか?」


 夕食用に持って帰っても良いのだが、ミノタウロスを持って帰って、この子供が意識を戻した時に、ミノタウロスを見たら、確実にトラウマを刺激するので、チックが、近くの巣穴にミノタウロスの死骸(しがい)を置き、そのまま皆は帰ることにした。


 そして、家に着いてから数時間後……夕食の準備をしていた時のことだった。


「なあヴィル!塩を取ってきてくれねえか?」


 ヴィルがチックに塩を持ってくるよう頼まれ、ヴィルが家の中に入った時……


「あ……あの……」


 ヴィルの横から、(おさな)い子供の声が聞こえる。

 咄嗟(とっさ)にヴィルが横に目を向けると、なんと、助けた子供の意識が戻っていたのだ。


「おぉ、やっと起きたかぁ。」


 子供は周りをキョロキョロと見て、少し小刻(こきざ)みに震えながら、ヴィルに尋ねる。


「こ……ここはどこなんですか?家に帰りたいです。」


 ヴィルは、<翠眼>でその子供をじっと見る。


名前:アイス・レイン 能力:なし 年齢:9歳


 ヴィルは、まずアイスを安心させるため、アイスの前でしゃがみこんで、アイスの頭を撫でながら優しく話しかける。


「ここは俺たちの家だ。もうあの怪物は倒したから、安心しろ。」


 アイスは、ミノタウロスがここにはいないということを知らされて、安心したのか、涙をポロポロと流しながら静かに泣き出してしまった。

 泣きながらも、アイスはヴィルに感謝の言葉を述べる。


「ありがとう……ございます……」


 なかなかヴィルが塩を持ってこないので、チックは(しび)れを切らして、家に塩を取りに行く。

 そして、ヴィルとアイスが話しているのを見て、あまりに驚き、大声をあげる。


「うおぉぉぉおおお!! 目ぇ覚ましたのか!!」


 その声に、外にいたバーナも反応し、バーナも様子を見に来る。

 これから何をしたら良いのか分からなかったが、チックがアイスに向かって話しかける。


「なあ、一緒に肉食わねえか?腹減ってるだろ?」


 すると、ちょうどタイミングよく、アイスのお腹が“グ〜ッ”となり、アイスは恥ずかしそうに顔を赤らめた。


 そして、夕食のオーク肉が焼き上がり、皆が骨付きオーク肉を頬張る中、アイスだけはなぜか食べようとしなかった。というより、食べ方が分からないような困った顔をしていた。

 そんなアイスに、チックは問いかける。


「なんで食わねえんだ? 美味いぞ?」


 お腹は空いているはずなのに、肉を食べない。

 疑問に思ったヴィルは、もう一度<翠眼>で、アイスの詳細を確認する。

 すると、とんでもない情報が書いてあった。

 あまりの衝撃に、ヴィルは、口に入れていたオーク肉を吐き出しそうになったが、なんとか堪えて、飲み込んだ。


「おいおい、ヴィル、どうしたんだよ?」


 チックは心配したが、ヴィルは黙って立ち上がり、袋の中を漁ると、ナイフとフォークと皿を取り出して、皆の元へ戻ってきた。

 そしてヴィルは、アイスの持っている骨付きオーク肉を取り、ナイフで切り始めた。

 ヴィルの異様(いよう)な行動に、バーナはヴィルに声をかける。


「な……何してんの?」


 しかし、ヴィルは2人の言葉を無視して、肉を切ると、皿に盛り付け始め、フォークを付けてアイスに渡した。


「あ……ありがとうございます!」


 そうお礼をすると、アイスは目をキラキラと輝かせ、無我夢中(むがむちゅう)で肉を頬張(ほおば)っていった。

 チックとバーナは、ヴィルに近づき、耳元で(ささや)く。


「なあヴィル、あいつ一体なんなんだ?」

「なんでお皿に盛ったら食べるようになったの?」


 それに対し、ヴィルは<翠眼>で見えた、アイスについての詳細な情報を語った。


「実はな……隣国のレイン王国の第3王子らしいんだよ」


 それを聞いた2人も、驚きを隠せなかった。


「えぇぇぇええええ!?」


 驚きで、もはや肉が喉を通らなかった。

 一方で、アイスは、肉が美味しかったのか、目を向けた時には既に食べ終わっていた。

 チックとバーナが席に戻ると、アイスが立ち上がって、3人に向かって頭を深々と下げる。


「この度は、助けていただいて、ありがとうございました」


 アイスは顔を上げて、席に座ると、笑顔を浮かべ、話を始める。


「私は、レイン王国の第3王子、アイス・レインと言います」


 話をするアイスは、髪が真っ白で、目は宝石のように輝いていて、右目はルビーのような赤色、左目はサファイアのような青色のオッドアイであった。

 そのあまりの美しさに、3人は思わず見惚(みと)れてしまい、もはやアイスの話など耳に入ってこない。


「ど……どうされたのですか?」


 あまりにも3人がジロジロと見るので、アイスは少し怖がってしまったようだ。

 その声で我に戻った3人。

 そこで、ヴィルがアイスに問いかける。


「あぁ〜、ごめんごめん。それにしても、なんで王国の王子が、こんな森の中にいたんだ? しかもここ、レイン王国じゃないぞ」


 すると、アイスは少し困った顔をして、3人に聞く。


「話すと長くなりますが、それでも大丈夫ですか?」


 3人は、特に急いでもいないし、暇だったので、それを承諾し、アイスの(こと)の経緯をを聞くことにした。


「かつて、レイン王国とワーマ王国は、同盟関係にありました。しかし、ここ最近は、その同盟関係が上手くいっておらず、レイン王国は、ワーマ王国の言いなりになっているらしいのです」


 ワーマ王国から縁を切られた3人だったが、アイスの話を興味深そうに聞いていた。


「そこで、私の父であり現国王の、アルマ・レイン国王、兄のアクア・レイン第2王子、そしてこの私の3人で、ワーマ王国へと向かいました」


 そこまで話を聞くと、ヴィルが少し疑問に感じたことをアイスに質問する。


「なあアイス、お前ってまだ9歳だろ? なんでそんな王国の事情なんか知ってるんだ? それに、王国間の重要な対談をする場に行くのは、許可されてるのか?」


 そう質問されたアイスは、少し悲しげな表情を浮かべながら、話を続ける。


「実は、最近父が凄く疲れた顔をするようになったんです。それが気になって、父と兄が話をしているところを盗み聞きをしたところ、このような内容でして、少しでも父の助けになりたい、と何度もお願いをすると、特別に許可をしてくださったのです」


 元の世界で凶悪な大犯罪を犯し、とんでもない親不孝(おやふこう)をした3人とは違って、なんと父親思いの良い子供なのだろう、と3人は感心する。

 そして、アイスが話を続ける。


「そこからのワーマ国王との対談は、はっきり言って苦痛でした。ワーマ国王は、父に向かって高圧的な態度をとり、レイン王国にとっては、あまりにも不平等な契約等も強要するのです。父が断ろうとすると、周りの護衛のような方々が圧をかけてきて、無理矢理その契約を飲むしかないことも多々ありました」


 チックは、イライラしながら、会話に割って入る。


「ワーマってやつはとことんクズだな! 俺だったらその場で殴っちまうぜ!」


 そう言うチックに対して、バーナが、からかい半分でチックに言う。


「チックのそんな性格じゃ、国王になんてなれなそうだね(笑)」


 それに対し、チックはキレ散らかして、またも2人の喧嘩が始まろうとする。

 2人が喧嘩をすると、アイスが怖がってしまうかもと思い、ヴィルは、2人の間に入って言う。


「まあまあ、お前ら2人とも国王になんかなれやしねえんだから、喧嘩なんかすんなって」


 その言葉にチックとバーナは、頭に来たのか、ヴィルに向かって“はぁ!?”と言って睨みつける。

 その様子を見て、アイスは怖がってしまうかと思われたが、アイスはクスッと笑っていた。


「ふふっ(笑)。面白い方々ですね」


 それを聞いて、子供の前で喧嘩しているのが恥ずかしくなった3人は、席に戻ってアイスの話の続きを聞く。


「そうして、対談が終わって、皆でレイン王国へと帰る時のことでした。私にとって、初めての対談だったからなのか、身も心も疲れきってしまいまして、少しボーッとしていたのです。すると、馬車に乗って帰る途中、私の目の前に、宝石のように輝く綺麗な蝶が飛んでいたのです。それに見惚(みと)れて捕まえようとしたら、つい足を滑らせてしまって、馬車から落ちてしまったのです。」


 こんなにも言葉遣いが丁寧で、礼儀作法(れいぎさほう)もしっかりしている一王国の王子でも、綺麗な蝶を追いかけてドジをこくなんて、中身はまだまだ子供なのだなぁと、ヴィルは心の中で笑った。


「そして、父も兄も眠ってしまっていたものですから、私が馬車から落ちたことに気づかず、そのままレイン王国へと帰ってしまったのです。とにかく帰らないと行けないと思い、走って馬車を追いかけましたが、私の足では当然追いつくことは出来ず、ついには見失ってしまいました。そのままワーマ王国の森の中を彷徨(さまよ)っていたら、大きな魔物が現れて、私はあまりの衝撃で気絶をしてしまいました」


 そこまでのアイスの経緯を聞き、ヴィルが納得した様子で言う。


「その時の叫び声を、チックが聞き取ったっていう訳か」


 ヴィルがそう言うと、チックは腕を組み、鼻を高くして“ふんっ”と自慢げに鼻息を鳴らす。


 すると、話を終えたアイスが、困った顔を浮かべ、3人の方を見ると、宝石のような目をキラキラとさせながら3人に願いを申し出る。


「助けていただいた上に、夕食まで提供していただいた身で、非常に烏滸(おこ)がましいのですが、今日の夜は、ここで1泊させていただけないでしょうか?」


 そう懇願(こんがん)するアイスの姿が、あまりにも美しすぎたために、3人は目を(つむ)って、心の中で叫ぶ。


「(可愛すぎる……ずっとうちに居てくれ……)」

「(食べたい……食べたい……食べたい……)」

「(ペットにしたいな……)」


 明らかにチックとバーナはとんでもないことを考えているが、3人の答えは全員“承諾”で決定している。


「み……皆さん? め……迷惑でしたら、全然断っていただいて、大丈夫です……」


 しかし、3人の顔が(けわ)しくなっていたことから、アイスは、自分の申し出に、3人がとても悩んでいると捉えてしまったのか、少し引き気味になってしまった。

 アイスが勘違いをしているということに、ヴィルはすぐに気が付き、慌てた様子で、苦笑いをしながら弁明をする。


「あぁ、違う違う、悩んでるとかじゃないからな。今日はもう夜も遅いから、泊まっていけよ」


 ヴィルに続いて、チックも必死になって言う。


「そ、そうだぜ! 別に、お前が可愛すぎるから食べちゃいたいなんて、全く思ってなかったぜ! ははははは!」


 とんでもない失言をしてしまったチックだが、言った本人も気が付いていない様子である。

 そんなチックの頭を、バーナはジャンプをして叩く。


“バチンッ”


「バカ! 何言ってんの!」


 すると、アイスの浮かない顔も晴れ、アイスが立ち上がると、またも深々と頭を下げて礼を言う。


「ありがとうございます!!」


 その日は、アイスを家に泊めてあげることになった3人。

 チックは、先ほどの失言から、何をしでかすか分からず、不安だとヴィルとバーナに言われ、外で寝ることとなった。

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