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<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

あたしゃ神様だよ?~令嬢の皮を被った神様が、婚約者から極刑を申し渡されたら~

悪役令嬢のテンプレに、下界の浄化にやってきた神様がはまったお話です。

R15は念の為です。

1

「セリーヌ・ラ・クレアランス!聖女の名を騙る紛い物の分際で、本物の聖女であるマリアを虐げるとは王太子の婚約者にあるまじき行為!恥を知れ!

偽物の治癒力を行使して多くの患者を殺した罪は重い!

この王太子、アテウ・マ・デスラナーイの名において、お前との婚約を破棄し、極刑を申し付ける!」


あ〜あ、人類の救済を真面目に考えるなら、このやり方はカイゼンすべきだよなあ。

聖女とかいうピンクブロンドの女と密着してあたしを指さす男を見ながらそう考える。

極刑ってさあ……あたしゃ神様だよ?

思い出すタイミングを15歳にセットしておくべきだったという後悔もチラっとある。

あたしが自分の役割を思い出したのはつい10分ほど前。

たぶん、それがこの身体が18歳になった瞬間だったんだろう。

確かここは「ナローショーセツの国」

うん、神様の記憶が蘇っても、どこだかわからん。


あたし達神様は、定期的に人間界に生まれてくる。

頻繁にお掃除しないと穢れが溜まって人間が絶滅してしまうからだ。

水族館の水槽の中を、お魚に混じって泳いで掃除するようなものだ。

神様にとっての人間界は人間にとっての水中と同じ。

そのままの姿ではすぐに具合が悪くなる。

だから人間の皮を被って来る。

降りてきたら、帰る前に人間との間に子供を作らなくてはならない。

神の血を引く子は優秀だから、王様とか教祖とかになって、穢れが溜まらないように色々やってくれる。

世代を重ねて子孫が「ただの人」になってしまったら、また神様の誰かが降りてくる。

各地に満遍なく恩寵が行き渡るように、降りるタイミングと場所は天界で調整している。

「今回はこの場所でーす!」と発表されると、神様全員がトーナメントでジャンケン大会をする。優勝した神様が絶対行く。

普段担当してる地域とか信者とか関係ない。

これが良くないと思う。

その場所に信者がいる神様の方が、祈りの力を補充しやすい上、人間として暮らしてる間も文化に馴染みやすいのに。

それに、宗教界全体としてみると、多神教の神様ばかりが負担させられてて不公平だなと思う。一神教の神様達って、部下を名代で1人出すだけだし、あいつらジャンケン弱いんだもん。

使徒とか眷属とか持ってるなら全員出しなよ。

こっちだって主宰神とその他の神々じゃ全然格が違うんだからさ。

まあ、それはともかく。

人間界に行くことが決まったら、適当な女の胎に入って、まっさらな赤ん坊から始めるんだけど、心身が充分育つまでは神様の記憶を消して人間として生きる。

これをちゃんとしておかないと、人間と子供を作ることができない。

異種族だからね。

身体だけでなく心までなりきらなければスキンシップは難しい。

記憶を思い出す年齢は、胎に入る時に自分で設定しておく。

今回は、子供が産める年になってからが良いと思って18歳にした。


あたしは、自分で選んだ、赤き心を持つ公爵夫妻の元で幸せに育った。

身体が耐えられるレベルの神力は子供の頃からダダ漏れになってたみたいで、怪我人や病人を見て「可哀想だなあ」と思うと、手を当てただけで完治できた。

特に小さな頃は可哀想な人に感情移入しやすくて奇跡を連発してしまい、いつの間にか奇跡の聖女と呼ばれるようになっていた。

この国では、聖女は教会に入ることになっているのだけれど、あたしは王太子の婚約者だったから王家が難色を示し、5歳から王宮に通ってお后教育を受けていた。

王太子とは生まれてすぐに婚約させられ、幼児の頃から交流があったが、

肝心の王太子があたしの容姿を「悪魔のようで不気味」と言って嫌がるから仲良くなれなかった。

黒髪ストレート・ロング。涼し気な目元。黒く大きな瞳。口角の上がった薄めの唇。

あたしの担当地域なら完全無欠の美少女なのに、悪魔とはなんだ、悪魔とは。

それでも、記憶を消してこの国の常識に染まったあたしは頑張った。

小難しいお后教育と社交に加えて、療養所での治癒にも駆り出された。

そして、15歳になると、貴族と優秀な平民が通う「学園」にも入学した。

全寮制だから、基本全員学園で暮らすんだけど、公務が忙しすぎて、ほとんど寮には居られなかった。

そんな時、この国の宗教的に「正しい」聖女が見つかった。

平民出身で、教会に引き取られていた女の子が、優秀な平民枠で学園に入学してきた。

怪我人の治癒ができるみたいで、療養所の仕事の一部が彼女に回されて、あたしの仕事は少し減り、学園内での急病に対応する「保健委員」をさせられることになった。

「セリーヌ様に治癒してもらうと元気が出る」と寝不足とか二日酔いとか、たいした病気でもない人達が押しかけてきて、そうでなくとも忙しいのにとうんざりした。

ある日あたしが公務で王宮にいる時、学園で本物の急病人が出た。

学生達があたしを探したけど、王宮にいたから見つからない。

それで、聖女が病気の治療をした。

彼女の力は、治療対象が元々持っている生命力を強制的に怪我や病気の快復に当てさせるものだから、重病人や老人の治癒には向いていないが、今回は相手が生命力溢れる若者だったから問題なく治ったんだろう。

この時、普段からあたしのことを嫌っている王太子が、鬼の首を取ったようにあたしを責めて騒ぎ出した。

両親である公爵夫妻の影響で穏和で常識的な人間だったあたしも、これにはカチンときて言い返した。

「傷病者の手当ては元々聖女様の仕事ですので、よろしかったのではないですか?」と。

あたしが教会の聖女にならなかったの

は王家の横槍のせいだし、当日不在だったのもお后教育と書類仕事のせい。

聖女でもないのに療養所の仕事をさせられるのも将来の王妃の人気を上げたい王家の思惑のせい。

あたしが気に入らないなら婚約解消して解放してくれと思った。

そのことがあってから王太子の態度はますます刺々しくなったので、公爵家から婚約解消の打診もしたが、受け入れられることなく、お后教育は続いた。

王太子が聖女を上げてあたしを下げたので、あたしには治癒の仕事は回ってこなくなった。

それなのに何故か、治癒の後すぐに死んだ患者が全てあたしの受け持ちだったという噂が流れ始めた。

実際のところは、聖女が重病人や老人にも手当り次第に治癒をかけるから、生命力が枯渇して死んでしまっているのだ。

聖女の力は、死の床にある者の苦しみを長引かせないための恩寵のようで、回復の見込みの無い患者が治癒を受けると、神の使いに天に導かれるように穏やかに亡くなるらしい。

苦しみからは解放されるが、死期を早めるのだから、重病人に治癒をかける時には本人や家族の意思も確認して慎重にするべきなのに、聖女は病人・怪我人と見るや、全員に治癒をかけまくっているらしい。

治すつもりで治癒を頼んだのに患者が亡くなってしまっては、最期がいくら穏やかだろうと問題である。

噂を流して、都合の悪いことを王太子に嫌われているあたしのせいにして、聖女と教会の体面を守ろうというのだろう。

学園でも、あたしが聖女に嫉妬して嫌がらせをしているという噂が流れているらしい。

授業とテストに参加するのがやっとで、学生と話さないからよく知らないけど。

そして、いよいよ学園を卒業して、半年後には王太子との婚姻の儀が行われるという、卒業式の日。

王家主催の園遊会で、王太子がいきなりあたしを断罪して、極刑にすると言い出したのだ。

神をも恐れぬ物言いにキレて、イカヅチでも落としてやろうかと指先に神力を集中させていると、

「お待ちください!」と声が上がった。

「発言をお許し頂けませんか、アテウ殿下?」

「ケント殿下?どうぞお話ください」

留学に来ていた隣国の皇子から発言許可を求められ、王太子が驚いて許可する。

「クレアランス公爵令嬢は療養所の業務から外れていたと記憶しておりますし、王宮で教育を受けるために学園には来ていなかったと思います。今殿下がおっしゃった罪を犯すのは不可能では無いでしょうか?」

気持ち良く断罪していたところを正論で邪魔されて、王太子が顔を顰める。

「しかし」

ケント殿下が続ける。

「アテウ殿下はそちらの聖女様を王太子妃に望んでいらっしゃると拝察いたします。

僭越ながら、私も教会の選んだ正当な聖女様こそ王室に相応しいと存じます。

もし、アテウ殿下がクレアランス公爵令嬢と婚約破棄なさるなら、令嬢には、我が国で危険な魔獣掃討のお手伝いをして頂きたいと思うのですが、いかがでしょう?」

令嬢が魔獣掃討の前線になど連れて行かれれば無事では済まない。極刑と変わらない結果になるだろう。

ケント皇子が悪い笑顔を向けると、王太子はニヤリとした後

「高位貴族の家に生まれた者として、また、治癒の力を持った者として、魔獣討伐に協力するのは当然の義務でしょう。」と真面目くさった顔で答え、

「セリーヌ・ラ・クレアランス!お前との婚約を破棄し、王太子アテウ・マ・デスラナーイの名において、魔獣討伐への参加を命ずる!」

なんだこの展開は?と思っていると、ケント皇子があたしの前で正座すると、2回柏手を打った。

母の胎に入る時に減ってしまった神力が戻ってきて、あたしの可愛い氏子達の祈りの力と繋がったのがわかった。

「わたくしはケント・キタノヘンキョーハクと申します。キタノヘンキョーハク帝国の皇子でございます。

我が国では穢れが溜まり、魔獣が群れをなして無辜の民を襲っております。私と共に来て、穢れを払って下さいますよう、伏してお願い申し上げます。」

おお!なんかやる気出てきた!

「いいよ」と答えて皇子の手を取り、口をパクパクさせてる王太子に背を向けて、歩き出した。


「ムカついたんだけど。今からでもイカヅチ落としちゃダメ?」

「あの場にも無辜の民がおりますから、それはご容赦下さい。

しかし、あなた様が去れば、自ずとこの王国は崩壊するでしょうから、その時には王家の者共の首を献上致しましょう。」

道々聞いたところによると、キタノヘンキョーハク帝国は、始祖が黒髪黒目の神様だったと伝えられていて、そういう容姿で不思議な力を持った人を見つけたら、さっき皇子がやった作法で帝室連れてくるように教えられているのだそうだ。

建国は400年前だというから、穢れが溜まって魔獣が産まれちゃうのも仕方あるまい。

「あたし、ちょうどお祓いの神様だから、安心して。魔獣の森を一気に浄化するよ」

キタノヘンキョーハク帝国で、あたしは大歓迎を受けた。

デスラナーイ王国に、黒髪黒目の奇跡の聖女がいると聞いて、王家を通じて婚約を打診していたのに、奇跡の聖女は王太子の婚約者だと一蹴されてしまい、機会を窺っていたのだそうだ。

帝室の人達があたしを神様として本気で敬ってくれたから、担当地区にいる時と変わらない力が出せるようになって、魔獣の森を浄化した後は、帝国全体を加護した。

デスラナーイ王国の聖女は、完全な治癒ができないことが露見して、患者の死期を早めた罪に問われて待遇を落とされたけど、死の床にある者の救いの為、治癒は続けているという。

独断で奇跡の聖女を国外に出してしまった王太子は廃嫡されて幽閉されたが、

直後に、あたしの追放を知って怒った民衆がクーデターを起こし、自分だけ逃げようとしたところを農民に捕まってその場で殺されたそうだ。


あたしは、18年間マジメに人間やったおかげで、ケント皇子のイケメンっぷりにちゃんとキュンとできて、愛し合って結婚した。

神様を始祖に持つケントと、令嬢の皮を被った神様であるあたしの間に生まれる子は、きっと最高の王様になって、この世界を幸せに導いてくれるだろう。

おしまい。

お読み下さりありがとうございます。

往年のコントに出てきたフレーズが頭から離れなくて書いてみました。

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