001 当選しました
俺の名前は真宮壱月。
どこにでもよくいる(?)ちょっと変わった体質の高校生だ。
その体質は、引き寄せ体質とでも言うべきか、とにかく良いことも悪いこともすべて引き寄せてしまうのだ。
例えるなら、ポーカーでロイヤルストレートフラッシュを連発したと思ったら、ババ抜きでババばっかり引く、みたいな感じだ。
当然カードゲームをするときだけでなく、日常生活でも同じような事が起こるからたまったもんじゃない。
それにこんな体質だと変な ”お願い” をされることもある。
「頼むッ、力を貸してくれ! 壱月にしか出来ないことなんだ!」
この無駄にテンションの高い奴は矢霧朝陽。
ただのクラスメート、と言いたいところだが腐れ縁でかれこれ10年の付き合いになる。
「なにかな?
僕にできることだったら協力してもいいけど、勉強している人もいるからもう少し静かに話そうか。」
いつものことながら猫かぶって喋る。
周りの反応を気にしながら過ごしていたら、何となく猫かぶりがデフォルトになってしまったのだ。
「うっ、またそれか、まあいいや。
新作の没入型VRMMOが発売されるんだけど、なんと、VRキャステットと限定アイテムが抽選で貰えるんだ!
壱月がやれば当たるだろ?
だから頼むッ!」
静かにと注意したことは途中から忘れているようで、すっかり元のボリュームに戻っていた。
それにしても、やはりこいつは俺の猫かぶりに気づいているよな。
10年も一緒に居たらそりゃあ気づくか。
「やるのは構わないけど、当たるとはかぎらないからね。」
俺はこの類の ”お願い” で一度も失敗したことがない。
しかし、ここまで倍率が高そうなものに応募したことは無い。
正直自分でも当たるかどうか不安なところだが、はずれたらはずれたで、この特殊体質を否定できる気もするので、とりあえず引き受ける。
「ありがと!」
毎度のことなのだが、そう笑顔を向けられると、ちょっと張り切って応募しようという気持ちになってしまう。
純粋そうな笑顔を向けられると、打算的な自分に嫌気がさす、というのもあるのかもしれない……
いや、考えるのはよそう。
***
しばらくして応募したことも忘れていた頃、それは届いた。
どうやら当選したようだ。
朝陽に報告しようと思いスマホを取り出すと、ちょうど電話がかかってきた。
『お、俺当選してたんだけど!?』
お前も当たってたんかーい。
「こっちも当選したよ。どうしよこれ。」
相手が朝陽だからか、自然と猫かぶりモードが50%くらいの返事になる。
『じゃあさ、一緒にやろーぜ!』
想定外の提案だ。
今まで互いに、相手のことについて聞くのはタブー、みたいな微妙な空気が流れていたから、長いこと一緒に居ても、深く関わることは無かった。
だから今回も誘ってくることなんてないと思ってたのに。
『嫌なら無理にとは言わないけどさ、今まで学校以外で一緒に何かするって無かったじゃん?
だからせっかくだし一緒にできたら良いなって思ったんだけど……』
自分で言っていて恥ずかしくなったのか、だんだん声が小さくなっていく。
いつもうるさい奴がもごもごと小さな声で話すのは、その、なんというか、面白い。
対面じゃないのが悔やまれるくらいには面白い。
断る気などはなから無いのだが、どうせならもう少しからかってやろうかと思い、あえて無言になってみる。
『……別に断ってくれても良いんだってば!なんで無言!?俺の声聞こえてるだろ!?』
自棄になったような声が聞こえてくる。
ちょっとやりすぎたみたいだ。
「ごめん、ごめん。いいよ、一緒にやっても。
そもそも断る気なんて無かったし。」
『半笑いだし…… 俺で遊んでただろ!
あの状態で無言とか結構しんどいんだからね!?』
しばらくの間、ぐちぐち言っていたが、ゲームの話を振るとすっかり機嫌が良くなった。
『Myriad Universe Onlineって名前のゲームなんだけど、theゲームって感じの世界で、中世っぽい?のかな多分。
自由度が高いゲームで、普通のゲームだとオートで出来るような事はオートでもいいし手動でも出来るらしい。
あとは現実で得意なことはスキル化されるんだって。
そのほかは普通のゲームと大体一緒で、職業選んだりとか、色々できるみたいだ。
それで、俺が一番気に入ったところは痛覚と物理法則がほぼ現実と同じってとこ!!
国が関わってるらしくて、権力で痛覚制限をどうにかしたらしい!
痛すぎるのは嫌だから多少は下げるけど、制限がないってのはいいことだよね。』
いつもの調子でゲーム語りを始めた。
国が関わってるゲームってことは細かいところもしっかりしてそうだし、朝陽の興奮具合的に良作であることも間違いないはずだ。
ちょっと、いや、かなりわくわくしてきたかもしれない。