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今更降りてたまるか、この勝負

作者: 一色 良薬

 麻雀の強さは押し引きで決まる。攻めるのか、守るのか。

 極論を言えば勝負を続行するのか。とっとと撤退するのか。

 この判断が上手くできる人ほど上達は早いし、逆に言えば見定めができない奴ほど上達は見込めない。

 あくまで俺の持論と先人たちの提唱されてきた麻雀のデータから導き出される答えだ。

 そしてこの理論は麻雀だけの話ではないとも俺は思う。人生の局面において押し引きが少なからずともある。

 攻めるのか、守るのか。行くのか、諦めるのか。賭けるのか、安牌といくのか。

 冷静で正確な見定めが必要だ。

 なのに俺は降りなくてはならない局面で、未だ勝ちを押し通そうとしている。対面に座る女神からあがる術どころか、無駄な振り込みする未来しか見えていないというのに、だ。

「鳴瀬くんまだかな。ごめんね、染谷くん。ミナミと二人きりじゃつまらないよね」

「別に。こっちも北見が遅れてるし。俺こそこんな根暗と同じ空気を吸わせて申し訳ない気持ちだよ」

「もー! なんでそんなこと言うの? ミナミちっとも考えたことないよ。それに染谷くん面白いし」

 ひだまりを溶かした笑みで東出ミナミは俺を見つめて肯定した。それだけで一撃一発の致命傷を食らったように、心臓が痛くてたまらない。

 愛らしさで飛ばされないように「面白くないし」と抵抗のぼやきをこぼせば、首をかしげるように俺の顔を覗き込んできた。

「面白いよ? もっと自信もってほしいな」

 ちかちかと火花が散る。こんなにも有効で勝ち目が見えているのに、誘惑でしかなく乗れば絶対に負けレースなのだからやっていられない。

 東出は俺じゃなくて鳴瀬が好きなのだから、間違って告白でもしたら倍満どころの話ではなくなってしまう。

(それでも)

 データとしても、目に見える形としても、負け確定だと分かっていても。

 理屈で解決できないほどに俺は東出に夢中だ。

 今更降りてたまるかこの勝負。

「……東出が言うなら、信じるよ」

 今は精一杯の言葉を飲み込んで。

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