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第9話 タピオカミルクティーとイケメン

 不安になってカナトの顔を見るが、本人は至って平気そうな顔をしている。苦しそうじゃない。……これ、大丈夫って認識でいい、のか?



「これを持っていてください」

「こ、これってマギアストーンだよな……?外しても大丈夫なのか?」

「ふふ。流石に外しただけでどうこうなったりはしませんよ。それなら入浴時も就寝時もずっとつけておかなければならないじゃないですか」

「そ、それもそうか……。じゃあいいや。それで、何でマギアストーンを?」



 何も害がないことにほっと胸を撫で下ろし、頭に浮かんだ疑問を投げかける。これが連絡手段になる……なんてことはないだろうし、魔力がない人間の俺に効果なんてあるわけない。

 じゃあどうしてこれを持たされたんだ?


 首を傾げる俺にカナトは、魔術団の時と同じように丁寧説明してくれた。

 本当にこいつは良いやつだな……。涙が出そう。



「実はマギアストーンには魔力を増幅させる以外の使い道があるんです。それが、『魔力探知まりょくたんち』です」

「魔力探知……?」

「探したい魔女の姿を思い浮かべてそのイメージを魔力に込めてマギアストーンに注ぐとその魔女の色に光り、近くに行けば行くほど激しく揺れるんです」

「???」

「はは、分かりにくいですよね。それじゃあ試しに、ハヤトを思い浮かべてみますね」



 カナトは俺の手のひらにあるマギアストーンを優しく握って目を瞑った。少しすると突然小さく風が舞い、マギアストーンが大きく揺れた。そしてカナトがそれをぶら下げるとマギアストーンが黒色に光り出し、激しく左右に揺れた。風はもう止んで静かなのに。


 元いた世界では絶対に見れない、明らか『魔法』の力で起きたであろう現象に興奮してしまう。そして俺が異世界に来たという実感がまた湧いてきた。今更?と言われるかもしれないが、こうして魔法をちゃんと見るのは初めてだったんだよ。



「す、すげぇ!魔法だ!」

「ガキかよ」

「初めて見たんだもん、しょうがないだろ!……それで、これはハヤトを探知したってことでいいのか?」

「はい。ハヤトの姿を思い浮かべ、そのイメージを魔力にしてマギアストーンに注いだ結果、ハヤトの魔力の色……魂の色、と言ってもいいですね。それが黒色に光ったんです。激しく揺れているのはハヤトが傍にいるからですね」

「魂の色?」

「魔女にはそれぞれ『色』があるんです。僕なら白、ハヤトなら黒という具合に。しかも同じ白や黒でも微妙に色が違ったりするんです。全く同じ色、というのは聞いたことがないですね」



 色……か。強さとか性格で色が決めるわけじゃなく、もう生まれた時から決まってるのか。じゃあ色でその魔女を判断するのは難しそうだ。けど俺的に、魔力の色って髪色と同じだと思うんだよな。まだこの二人しか知らないから断言はできないけど、実際二人の魔力の色って髪の色と一緒だし。


 ただ、それが正しいとして入れ替わりの魔法を使った魔女を探すのに参考にするのは厳しいな。アリアちゃんなんか人間だから……あ、いやでも、入れ替わった先が魔女ならワンチャン……?



 魔力を消したのか、何の反応も示さなくなったマギアストーンを受け取りながら気になったことを聞いてみる。



「なあ、イメージした相手じゃないと反応しないのか?」

「基本的にそう使うと団長から聞きました。まあ「基本的に」なので何もしなくても、相手が魔女だった場合光って揺れるので『魔女』か『人間』かの区別くらいは一応できるかと」

「なるほど……?でもお前らがいるのにうんともすんとも言わないぞ?」

「……魔力探知もそこまで万能ではないですから。残念なことに、相手の魔力量によって反応したりしなかったりするんです。ですが大抵の魔女なら反応するはずです」

「ふうん……」



 話を聞いて勝手にマギアストーンは結構万能なものなんだと思い込んでたけど、実際はそうでもないみたいだ。

 ……というかそこまで万能でもないのに副作用があんなに酷いのは何なんだ。どうせ考えたってあの爺さん達の考えなんて理解できないししたくもないから無駄だけどさ。



「もしマギアストーンが反応したらすぐにその場を離れて僕達に連絡してください。絶対に一人で何とかしようとしないでください。いいですね?」

「母親かよ……」

「アリア様?」

「絶対に連絡します!」



 俺の「母親」という言葉ににっこりと笑顔を浮かべるカナト。しかしその笑顔にドス黒いものを感じた俺はすぐに返事した。呪い云々のくだりから既に感づいてたけどやっぱりカナトは怖い。あれだ、怒らせたらいけないタイプだ。これからカナトの前では極力口を滑らせないようにしよう。


 俺はマギアストーンを受け取り、心配そうな顔をする二人と別れた。去り際にカナトに「壊したら僕死んじゃうので丁寧に扱ってくださいね」と言われて心臓がキュッとなった。おい、おい!そんな大事なことを去り際に言うな!!余計にマギアストーンの扱いに困ったじゃねーか!!

 ……そんな大事な物を護衛のためとはいえ預けたのは信用してくれている証だと思っていいのかな。それでも持ってるの怖いけど!



「……喉乾いたな」



 適当に街を見て回ろうかと思ったが、その前に飲み物を買うことにした。

 お茶とか水よりはミルクティーの気分なんだけど……異世界にミルクティーって売ってんのかな。これで得体のしれない見た目と名前してる飲み物しか売ってなかったらどうしよう。……そうだ、ハヤトにでも毒見してもらうか。息をするように馬鹿にしてくる仕返しだ。


 とにかく、だ。じっとしていてもどうにもならないし、とりあえず店を探すか。とやっと歩き出す。店を物色してる間やけに道行く人に見られてた気がするけど、もしかしてみんなアリアちゃんの顔知ってるのか?だとしたら失敗したな……変装すれば良かった。いやでも、あの二人が傍にいる時点で隠せないか。





「……ん?」



 しばらく歩いていると、ふと目に留まった出店。メニューの看板をよくよく見てみるとそこにはあのタピオカが載っていた。

 なんと!異世界にもタピオカが存在したのか!まあ俺は飲んだことほとんどないけど。向こうにいた頃、後輩から勧められて飲んだきりだ。


 ……っと、俺のタピオカ事情はどうでもいい。それよりタピオカミルクティーっぽいのがあるしせっかくだから頼もうかな。異世界にも知ってる飲み物があるという事実に安心しながら、何やら作業している店主らしき男に話しかける。


 男は振り向くと俺を見た途端目を輝かせた。



「あれっ、アリア様だ!本物っすか!?」

「え?あ、はい。一応……」

「えー!?マジっすか!?まさかアリア様に会えるなんてなあ!俺ってば超ラッキーじゃん!」

「はあ……」



 興奮したように捲し立てる男を引き気味に見る。

 髪は綺麗なオパールグリーンで、瞳は少し暗めのラベンダーピンク。顔はかなり整っていて、所謂イケメンと呼ばれる部類だ。しかしこの男……一言で言うならチャラい。喋り方もそうだが雰囲気が……なんというか、陽の雰囲気を感じる。そこでふと佐藤を思い出して無性に腹が立った。


 待て鈴木一。悪いのは佐藤であって、目の前の男に罪は一切ない。落ち着け。



「ところで、何でアリア様がこの街にいるんすか?」

「何でって……まあ、散歩みたいな……?」

「散歩にここ選ぶって、変わってるっすねえ!」

「どういう意味ですかそれ……」



 何もないところなのにって言いたいのか?まあそれは否定しない。こんなに広いのにほとんど家で店少ないもんな。



「あっ、それより!俺に話しかけたってことは何か買ってくれるんすか?」

「は、はい。タピオカミルクティーを一つお願いします」

「はいよ!」



 俺がメニューのタピオカミルクティーを指差しながら頼むと、男は良い笑顔で作業を始めた。かなり手際が良いようで、気付けば目の前にお洒落なコップに入ったタピオカミルクティーが置かれた。早っ。そりゃ早いことに越したことはないけど。


 俺がお礼を言いながら受け取ろうとしたその時だった。男はやんわり俺の手を止め、バチンッという効果音が付きそうなほどの綺麗なウィンクを決めた。



「ちょい待ち。まだ終わってないっすよ」

「え?でも……」

「最後に__________美味しくなる魔法、かけるんで」



 そう言って男が人差し指でコップをコツン、と軽く叩いたのと同時に、首にかけていたマギアストーンがオパールグリーン色に光って大きく揺れた。

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