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第8話 隣の街

 あれこれ話している内に気が付けば隣の街に着いていた。まあ話していると言ってもハヤトは相変わらずカナトとしか喋ってなかったけど。


 俺は思わず街を見渡して感嘆の声を漏らした。城を見た時からファンタジーっぽいと思ってたが、街は一段とファンタジー感が増している。どうファンタジーなのかと言われればうまく言えないが、とにかく現代日本にはあり得ない見た目で、漫画やアニメで見た光景そのものだ。子供の頃に夢中でRPGゲームをやっていた俺がこの光景に感動しないわけがなく。


 カナトには「今までで一番良い顔をしていらっしゃる……」と驚かれ、ハヤトには「ガキかよ」と鼻で笑われた。とりあえずカナトから見えないよう、ハヤトの足を軽く蹴っておいた。



 落ち着きを取り戻したところで早速仲間探し……と言いたいところだが。とりあえずその前に宿を見つけたい。どれだけかかるか分からないしいつまで滞在するかも決めてないあやふやな状態だからな。金ならあるし、せめてゆっくり寝るところは確保しておきたい。

 そう思って二人に提案すると、カナトに良い笑顔で「もう確保してありますよ」と返された。


 ……は?もう確保した?え、早すぎねぇ……?俺がこの街に来ようって言ったのついさっきだよな……?



 俺の困惑が伝わったのか、カナトは丁寧に説明してくれた。



「僕とアリア様が話している間に、ハヤトに頼んで宿を探してもらっていたんです。マーティン家の名前を出したらすぐに了承してくれたのでいつでも泊まれますよ」

「……ああ。さっきハヤトが携帯を持ってたのは電話してたからか……。ありがとう、ハヤト」

「ふん、別にお前の為じゃねぇよ。野宿が嫌だからやっただけだ」

「はいはい」



 何でこいつは時々ツンデレムーブをかますのだろう。女子のツンデレは理解できるけど男のツンデレは理解できない。どこが可愛いんだ?教えてくれ、高校の頃「ツンデレしか勝たん!」と叫んでた美術部の友達。


 まあいい。こいつのツンデレは好意からくるものじゃないから放っておこう。それより宿が確保されてるなら仲間探しだ。


 ……と、言いたいところなのだが。



「?どうしました?アリア様。突然暗い顔をされて……」

「いや……仲間を探すとか言ったけど、魔女か人間かの区別がつけれられないことに気付いて……」

「気付くのおっそ」

「うるせー!」



 そう、俺はそもそも魔女と人間の区別がつかない。というか俺以外のやつはできるのか?区別する方法は存在してるのか?何もかも分からない。我ながらこれでよく仲間探ししようとか言えたな!


 だって実際、二人をよく見てみても人間との違いが全く分からない。本人達から魔女だと言われなければ絶対に人間だと思い込んでいただろう。



「……二人は分かるのか?」

「ええ。魔女ですから」

「つまり、私が自力で見つけるのは不可能だと……」

「そうですね……。魔力を感じ取れるのは魔女だけなので、アリア様お一人では無理だと思います」

「そうか……」



 どうしようもない事実に深く肩を落とす。初っ端から挫くなんて……いや、落ち込んでばかりもいられない。せめて魔女を護衛につけてくれた爺さんに少しだけ感謝しておくか。



「……ん?電話?」



 それじゃあ行くか、と一歩踏み出したところでカナトが立ち止まった。どうやら携帯が鳴っていたようで、カナトは俺に許可を取ってから電話に出た。本当よくできた子だなあ。どっかの誰かとは違って。

 そういう意味を込めてハヤトをじっと見つめると「こっち見んなチビ」と眉を顰めながらべえっと舌を出しやがった。お前俺じゃなかったら即クビだぞ感謝しろよ。


 しばらく話していたカナトは電話を切ると申し訳なさそうな顔をしながら口を開いた。



「申し訳ありません、アリア様。魔女探しの前に宿に寄ってもよろしいでしょうか」

「え?宿に?」

「今の電話、泊まる予定の宿からか?」

「ああ。どうやら、魔女が人間が経営する宿に泊まる時にはちゃんとした検査と申請が必要になるらしい」



 ハヤトの問いにめんどくさそうに答えるカナト。

 なんだそのめんどくせーシステムは。



「前までは何も言わなくても泊まれたじゃねぇか。つーか俺ら魔術団なんだから検査だの申請だの要らなくね?しかもこのチビ……じゃなくて姫サマも一緒なんだからよ」

「誰がチビだコラ」

「僕もそう言ったんだけど……どうも最近、宿屋を荒らす魔女が増えているらしくて。いくらアリア様を連れた魔術団だろうと、申し訳ないけど宿主と客を安心させるためにもやってほしいってさ。面倒だなあ、まったく」

「チッ……どうせ人間の宿主に宿泊を拒否された魔女の嫌がらせだろ。だりぃな」

「まあ……それはしょうがないよな。んじゃ私は待ってる間そこら辺ブラブラしてるわ」



 そう言うと目を丸くして凝視してくる二人。え、何でそんな「何言ってんだこいつ」みたいな顔で見てくんの。カナトにそんな顔で見られたら地味につらいんだけど。俺そんな変なこと言った?言ってないよな!?


 意味が分からずオロオロする俺に、カナトはおずおずと口を開いた。



「あの、アリア様……宿まで行かないのですか?」

「え?だって検査と申請頼まれてんのはお前らだろ?俺は人間だから関係ないし、宿に行ったところでただじっと待つだけになっちゃうし……それなら観光がてらブラブラしようかなって……」

「あ、アリア様……それは……ちょっと」

「馬鹿かお前は?一国の姫サマが一人でブラブラ歩いて何かあったらどうすんだ?何のために俺らがここにいんのかちゃんと考えろよ」



 ハヤトの言い方はムカつくが、言っていることは正しい。そもそも二人はただの仲間ではなく、護衛としてここにいるのだから。護衛対象に離れられると困るだろうな。だけど。



「二人の言いたいことは分かるけど、そこまで心配しなくても大丈夫だ。もちろん人通りの多いところを歩くし、路地裏の近くは通らない。そもそも人目の多いこんな街中で何かしてくるやつはいないだろうけど」

「心配してんのはお前じゃなくて俺らの立場だっつーの!万が一お前に何かあったら俺らは解雇よりもずっと酷い目に遭わされる可能性があるんだからな!」

「あの爺さんがそんなことしようもんなら私がどんな手を使ってでも止めるから問題ない。それこそ「あの二人を解雇したり拷問したら私死ぬから!!」ってメンヘラ女子みたいにカッターかなんかで手首切ったらいけるんじゃね?」

「……アリア様はもう少しご自身の命を大切にしたほうがいいと思います」



 カナトには呆れたように言われたけど、正直本気でいけると思うんだよな。あの爺さん、アリアちゃんのこと溺愛してるみたいだし。大丈夫大丈夫、元いた世界でも大抵の人間には「私死ぬから!」は効いたから。

 …………うん、俺にも効いたから。だから俺はここにいるんだよ。彼女を怒らせて死ぬことになったんだよ。うう、メンヘラ怖い……。


 死ぬ直前のことを思い出して頭を抱えているとそれをどう解釈したのか、「そこまで観光したいんですか?」というカナトの困惑の声が聞こえた。んなわけあるか。観光にそこまで情熱注いでねーよ。



「それなら仕方ないですね……」

「おいコラ、納得すんなよ」

「しょうがないだろ。実際、一緒に宿に来てもらってもアリア様はやることないから退屈させてしまうだろうし……」

「自分で言っといてあれだけど、本当にいいのか?」

「本当は不安ですが……アリア様の言うことにも一理ありますから」

「ありがとう、カナト!それじゃあ終わったら電話してくれ」

「ええ。ですがその代わり、」



 カナトは不意に、首にかけていた石……マギアストーンをつけたネックレスを外して俺にそっと手渡した。彼の意図が分からずただじっとマギアストーンを見つめる。と、というかマギアストーンって結構やばいモンだったような。


 …………これ、外してよかったのか……!?

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