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第6話 魔術団団長

「そして僕達魔術団の隊員には()()が配られます」

「……?石?」



 カナトの首にぶら下がっているオシャレな石を見つめる。ただのネックレスだと思っていたが……よく見るとハヤトも同じものを付けている。お揃いとかそういうことではなかったようだ。



「これは『マギアストーン』という、魔力を増幅させる石です。魔術団は基本的に魔法が使えない、もしくはかなり弱い魔女ばかりですから、他の魔女と戦えるように全員この石を持たされているんです。団長に聞いた話ですが、どうやらマギアストーンを作る際、拷問して殺した魔女の血を混ぜているとか……」

「ごうもっ……!?だ、だから魔力が増幅されるのか……?」

「おそらく。しかも副作用があるようで……」

「副作用……って」

「感情が高ぶりコントロールできなくなったり石が破壊されたりするとマギアストーンに込められている魔力に飲み込まれ、ひどい苦しみを味わいながら死ぬという話です」

「それも団長に聞いたのか?」

「ええ。魔術団のことは大体団長から聞いています」



 どれだけ腐ってるんだこの国は。使うだけ使って、使えなくなった魔女は自然と死ぬようにしてある。そしてそれを魔術団に伝えず隠す。どうやって団長が知ったのかは謎だが、きっと正式に聞いたわけではないのだろう。正直に副作用のことを話したら反感を買うのは目に見えてるからな。……それとも、反感を買って嚙みつかれたとしても『欠陥品』だから痛くも痒くもないから団長にだけは伝えたのだろうか。


 どっちにしろ胸糞悪いな。マギアストーンを作った連中も、そもそも魔女の子供を集めて魔術団を作ろうと提案したやつも、それを承諾した国王も。


 全員そこまで魔女を嫌ってるのかよ。



「……アリア様?」



 カナトに名前を呼ばれて我に返る。

 ……って、顔が近い!!そんなに近付けなくても気付くわ!!



「すごく怖い顔をしていましたよ。落ち着いてください」

「あ、ああ。ごめん」

「ふん。別にお前が怒ることじゃねーだろ」

「まあ……それはそうなんだけど」



 俺は魔女じゃないし、同じような境遇に遭ったことがあるわけでもない。二人ならともかく、俺がそのことについて怒る理由は全くと言っていいほどないけど……。それでもやっぱり、聞いていて気分のいいものではないから。



「自分を殺そうとしてきたっていうならまだ分かるんだけどさ……何もしてない、ただ「魔女だ」ってだけで捕まえて処刑にしたり、その子供を道具として扱ったりするのは絶対に間違ってるし許せないなって」

「……いい子ちゃんぶんなよ」

「紛れもない俺……私の本心だよ」

「…………チッ」



 ハヤトは不機嫌そうに舌打ちすると早足で俺達の先を歩いていく。

 うーん、やっぱりハヤトは警戒心が強いな。信頼を得るにはまだまだ時間がかかりそうだ。


 長期戦になるな、と考え込む俺にカナトが申し訳なさそうに話しかけてきた。



「すみません。ハヤトは頑固なところがあるので、アリア様に気を許すと負け、みたいな子供じみたことを考えているんだと思います。許してやって下さい」

「気にしてないからいいよ。今の話を聞いてたら俺にキツイ態度を取るのも納得だしな。これから一緒に行動するんだ、そう焦らなくてもゆっくり距離を詰めていけばいい」

「アリア様……」



 カナトは目を丸くしながら俺を見つめた。



「本当に国王様の娘ですか?」

「おっと、血の繋がりを疑うか」



 確かに、我ながら考え方が王様とは全然違うとは思うけど。それにしても実子か疑うほど……?あの王様どんだけ外道だと思われてんだよ。



 そんなことを考えていると遠くから金属がぶつかるような音が聞こえてきた。どうやら目的地に着いたようで、カナトは団長を探しながら訓練所を案内してくれた。

 どういう隊員がいるのか、普段はどういった訓練をしているのか、どんな魔法を主に使うのか、などいろんなことを教えてくれた。隊員達の首元を見ると二人が付けていた石と全く同じものを付けていた。本当に全員持ってるのか……。


 しばらく歩いていると、目的の人物を見つけたのかカナトが「団長!」と声を上げた。俺達から少し離れていたハヤトもそれに反応して早足でやって来る。表情を見るにどうやら団長に懐いているらしい。


 団長と呼ばれたその人は額の汗を拭うと爽やかな笑みで二人の名を呼んだ。

 というか、団長って女性だったのか。偏見で男だと思ってた。



「二人ともどうしたんだ?仕事で引っ張り出されたと聞いたが……」

「ええ。その仕事でしばらくここを空けるので、挨拶をしてからと思って」

「そうか!にしてもお前は相変わらず律儀だな。ハヤトも来るのは意外だったが……」

「あんたをここに置いていくのは……ちょっと心配だったからな」

「珍しく素直だな。だけど心配しなくとも私なら大丈夫だ。これでも一応、Wエースと呼ばれるお前達より実力があるからな」

「……それでも心配なもんは心配なんだよ」



 ……同じ魔女だからなのか、それとも口が(うま)いのか。どちらにせよ、あのハヤトをあそこまで素直にさせているなんて凄すぎる。出会ったばかりとはいえ俺にはあんなに舌打ちしたり嫌味しか言わないのに。なんなら目を合わせないのに。


 俺は思わず団長に尊敬の眼差しを向けた。それに気付いたのか、団長とばっちり目が合う。何故か目を丸くしてしばらく固まっていたが、俺から視線を外すと険しい表情でカナトに俺のことを聞いていた。



「っカナト。あれは、」

「国王様の一人娘のアリア様です。ご存じでしょう?」

「知ってるけど、そうじゃなくて……何であの女があそこに……!」

「……団長?」



 取り乱している様子の団長を、困惑したような顔で見るカナト。ハヤトに「どうしたんだよ」と心配そうに声をかけられて我に返ったのか、団長は咳払いをすると再び俺を見た。



「……すまない、少し混乱してしまって。まさか仕事というのは……アリア様関連か?」

「そうです。アリア様が旅をするというので、その護衛を」

「旅……?」

「え~っと……アリア・マーティンです。どうぞよろしく……」

「……まるで初対面のような挨拶だな」

「え?違うのか?」



 団長の雰囲気があまりにもピリついていて、何だか気まずくてとりあえず挨拶する。すると睨まれながらそんなことを言われた。驚きのあまり聞き返してしまったが、彼女の反応からして面識があったとしても良い印象は持たれていなさそうだ。じゃなきゃあんなに睨んだり不機嫌そうにしないだろう。

 アリアちゃん、君は一体何をやらかしたんだ。


 カナトが記憶喪失のことを説明するとまた目を丸くした団長。クールな人かと思っていたけど、意外と表情豊かなんだな。


 団長は俺をまじまじと見つめると重々しく口を開いた。



「……まるで別人だな。佇まいも、喋り方も、目つきも……以前と全く違う。しかも妙な服まで着て……」

「そっ、そうか?ま、まあいつもこんな感じだったら姫としての威厳がないかなーと思って取り繕ってただけで、本当のお……私はこんな感じだから。あとこの服は特注品だ」



 鋭い指摘にドキッとしながらも適当な言い訳を並べる。未だに慣れない一人称につまづいてしまったがバレていないだろうか。見た目が変わっていなければ問題ないと思っていたが、まさか佇まいやら目つきやらで疑われるとは。流石団長と呼ばれるくらいの人だ。


 俺は笑顔を取り繕いながらおさげを指差して「見た目一緒だろ」と遠回しにアピールした。ちなみに三つ編みにはしていない。朝弱い俺がそんな面倒なことできるわけなかった。



「……まあいいか。私はマリン・ネルソン。魔術団の団長だ」

「あ、ああ。よろしく、マリンさん」

「姫相手だから一応挨拶しただけだ。お前と仲良くする気など微塵もない」



 手を差し出した俺を無視し、二人に笑顔で「仕事頑張れよ」と言うとそのまま訓練に戻ってしまった。なんなら去り際の、俺を見る目がめちゃくちゃ冷たかった。それこそ凄まじい殺意と敵意を感じた。


 …………マジで何したんだ、アリアちゃんよ。

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