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第5話 魔術団とは

これは……信じてもらえたってことでいいのか?ハヤトは分からないが、カナトの雰囲気が少し変わった気がする。一線引いていたような態度が崩れたような……。少なくともカナトの信用は取れたと思っていいかもしれない。



「じゃあこれからはあなたの言う通り、もっとフランクに接することにします。改めてよろしくお願いしますね、アリア様」

「!!お、おう!」



嬉しさのあまり、差し出されたカナトの手を強く握った。それでもカナトは嫌な顔一つせず受け入れてくれた。



「おいカナト!何考えてんだよ!」

「何って……ただ彼女を信じてみたいと思っただけだよ。むしろ、国王様の娘だから、人間だから、と偏見で見下すのは失礼だ。そうだろう?」

「……裏切るかもしれねぇだろ」

「起こるかどうかも分からないことを考えていたってしょうがないだろ。それに……もし彼女が僕達を裏切るようなことがあったら、呪っちゃえばいいし」



カナトは見たことないくらいの清々しい笑顔でそう言い放った。

のろい…………呪い!?ま、まあ魔法って奇跡の力らしいし……?人の入れ替わりができるなら呪いをかけることくらい朝飯前だよな。だけどそれを本人の前で、笑顔で言い切るのはどうなんだ。これから体調が悪くなったり悪いことが続いたりしたらお前ら二人を疑うことになるぞ。


密かに不安を抱えることになった俺の心情などつゆ知らず、カナトは相変わらず爽やかな笑みを浮かべている。……いや、もはや俺が不安がることを知っててやってるのかもしれないが。

ハヤトは口を開けたまま視線を泳がせ、結局言い返す言葉が見つからなかったのか舌打ちをするとまたそっぽを向いてしまった。こいつマジでこっち見ねぇな。



「あ、そういえば聞きたいことがあるんですけど」



何かを思い出したのか、カナトがふと口を開いた。



「ん?どうした?」

「アリア様の一人称って『俺』だったんですね。前にご挨拶した時は『私』だったのに……」

「あっ」



カナトの言葉に思わず口を押さえた。

そ、そういえばさっきから『俺』って言ってた!マズイ、完全に無意識にやってしまった……!そうだよな、普通に考えて一国の姫の一人称が『俺』なわけないよな!手紙でも『私』って言ってたし……。


やばいやばい、このままだとアリアちゃんが元に戻ったら彼女が怪しまれることになる。早く訂正しておかないと。



「な、何のことだ?『俺』なんて一言も言ってないぞ?ずっと『私』って言ってたじゃないか」

「え?でも……」

「『私』って言ってただろ?な?」

「ああ、はい。言ってましたね」

「は?おいカナト、何言ってんだよ。何回も『俺』って、」

「何言ってるのハヤト。アリア様が言ってないって言ってるんだから言ってないんでしょ」

「…………あっそう」



カナトはさっきと同じように笑みを浮かべ、ハヤトは呆れたようにため息をついた。


よ、よし。めちゃくちゃ苦しい言い訳だがこれで何とかなるだろう。カナトが気を遣えるやつで助かった。



「それよりアリア様、これからの行き先は決まってるんですか?」

「……いや、実はあまり決めてないんだ」



この旅の終着点としては、俺とアリアちゃんを入れ替えた魔女を見つけることとアリアちゃんを助けることだ。その二つが終われば俺は元の世界に帰れるはずだからな。だけど残念なことにその魔女とアリアちゃん、どっちの行方も分かっていない。アリアちゃんも手紙で居場所とか書いてくれてなかったしな。居場所分からない状態でどう助けに行けと。


だから正直、明確な目的地はない。どんなに大変でも地道に探していくしかないのだが……。



「ただ、まずは隣の街に行こうと思ってる」

「隣の街に?」

「ああ。……憶測でしかないが、おそらく俺……ごほん。私が探してる魔女は人間に対して友好的じゃない。もしかしたら襲ってくる可能性がある。別にお前達を信頼してないわけじゃないけど、戦力は少ないより多いほうがいいだろ?だから仲間を増やそうと思ってな」

「仲間……まさか魔女を?」

「難しいことは分かってるよ。でもこれ以上魔術団から引っ張ってくるとお父様から言われそうだし……なにより魔女と戦えるのは魔女だけだ。もちろん仲間にするのは、私の事情を話せる範囲で話して納得してもらえたら、だけどな。嫌がってるやつを無理矢理入れたりはしない」

「……城下町には行かねぇのか?」

「城下町はどうせ一人もいないだろうからいい。あんなに魔女を嫌ってるお父様が城下町に魔女を住まわせるわけないからな」

「なるほど……分かりました」



カナトは俺の話を聞いて頷くと、チラッと遠くのほうを見つめた。来たばかりだから俺には分からないがあそこに何かあるのだろうか。


首を傾げる俺に、カナトは申し訳なさそうに口を開いた。



「アリア様。申し訳ないのですが……隣の街に行く前に訓練場へ寄ってもいいですか?」

「訓練場?」

「僕達魔術団が訓練をするために使わせていただいている場所です」

「魔術団……」

「長い旅になりそうなので、団長に挨拶しておきたいんです」



そういえば魔術団がどういうものか、正しくは知らなかったな。憶測で「こういう集団だろうな」と決めていただけだ。時間なら……多分大丈夫だろうし、魔術団のことも把握しておきたいからついて行かせてもらうか。



「もちろん構わない。その代わり、私もついて行っていいか?」

「え?アリア様も?もしや、魔術団に興味がおありで?」

「あ、ああ」

「……まあ、団長はハヤトと違って誰にでも友好的ですし、問題はないと思いますが」

「俺が態度悪いみたいに言うなよ」

「それ以外の何物でもないだろ。まあいいや、じゃあ行くか」



場所が分からないので大人しく二人の後ろをついて行く。無言なのは気まずいし、と向かっている間に魔術団のことを聞いておくことにした。だけどカナトは驚いた顔をした後「魔術団を知らないんですか……!?」と困惑した表情を見せた。

え、そんなに驚かれることだった?……ああ、でもアリアちゃんは一応姫なんだから国のこと知ってないとおかしいか。


どう言い訳しようかと悩んでいるとカナトは思い出したように「そういえば記憶喪失だと国王様が仰っていましたね」と手を叩いた。王様、この二人にもそのこと説明してたのか。



「そ、そうそう。色々思い出してきてはいるんだけど、魔術団のことはさっぱり分かんなくて……」



記憶喪失なんて設定、アリアちゃんがこの身体に戻ったら迷惑をかけるだろうなと思ったが、入れ替わりの件を話すほうがもっと迷惑だし面倒なことになるだろうと適当に話を合わせておくことにした。



「そうでしたか。僕でよければ何でもお話ししますよ」

「あ、ありがとう。じゃあ魔術団がどういうものなのか……話せる範囲でいいから教えてもらってもいいか?」

「もちろんです」



カナトは嫌な顔一つせず話し出してくれた。



「魔術団は魔女の集まり……厳密にいえば、魔女の子供の集まりです」

「子供の?」

「ええ。捕まえた魔女に子供がいた場合その魔力を測り、強ければ親子ともに処刑。弱ければ親だけ殺し子供は兵隊として使われるんです。弱い子供だけを使うのは……」

「反抗してきても脅威にならないように、だろ」

「その通りです。先程アリア様も言っていましたが、魔女と対等に戦えるのは魔女だけ。人間だけで魔女を捕えられればそれでいいのですが、強い魔女だと部隊が全滅させられる可能性があります。そういった場合には僕達魔術団が使われる、ということです」

「…………」



カナトの話を聞いて思わず黙る。


……魔術団は思ってたより闇が深いらしい。というより、本当に道具としか見てないんだな。じゃなきゃそんなクソみたいな理由で生かしたりしない。そんな事情を知ってたら人間不信になってもおかしくない。むしろカナトがすぐに俺を信用してくれたというのが奇跡なのだ。


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