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第4話 信じるために

 ま、まあいい。黒髪のほうとは少しずつ距離を縮めていこう。まずは白髪のほうと仲を深めるか。こっちは友好的みたいだし。様付けとはいえ名前で呼んでくれたし!この調子でいつか様付けと敬語を止めさせてやる!何でかって?距離置かれてるみたいで嫌なのと慣れないから。単に俺の都合だけど。



「あ、そういえば名前知らないな。二人の名前を教えていただいても……」

「アリア様、我々などに敬語を使うのはお止めください。あなた様は我々の主人なのですから」

「主人はお父様では……」

「国王様の娘様なのですから、主人も同然です」



 うーん……確かに、自分より明らか年下の男に敬語使うのも違和感あったし、立場も俺のほうが高いっていうならお言葉に甘えようかな。



「あー、分かった。これからはタメ口で話すわ。で、話戻すけど名前聞いてもいいか?」

「…………」

「……?おーい?」



 白髪の男は俺の顔を見つめたまま固まっていたが、すぐに「失礼しました」と姿勢を正した。

 あ、もしかして一国のお姫様がこんな喋り方すると思ってなくてびっくりしたのかな。だとしたら申し訳ない。そりゃこんな可愛い女の子が男口調で喋り始めたらギャップで固まるよな。アリアちゃん、絶対男口調使わないだろってくらい可愛いもんな。けど女っぽく喋んのもそれはそれで俺がキツイからこのままいかせてもらおう。



「私はカナト・テイラー。カナトとお呼びください」

「……なんか……ずいぶん日本人っぽい名前なんだな」

「?ニホンジン?」

「あ、ああ。いや、何でもない」



 アリアちゃんみたいに、いかにも異世界っぽい名前だと思ったんだけど……(見た目が明らか日本人じゃないし)。異世界といえど、別に名前が特別変わってるってわけでもないのかな。


 カナトは俺の様子に不思議がりながらも黒髪の男の背中を軽く叩いた。



「ほら、お前も」

「…………」

「ハヤト!」

「…………チッ」



 黒髪の男は大きく舌打ちをすると腕を組んだまま俺を見下ろした。



「…………ハヤト・ガルシア」



 それだけ言ってまたそっぽを向いた。カナトが代わりに謝っていて、偉いなあ……と思う反面ハヤトにはイライラが募っていた。

 何だこいつ?俺のことをよく思ってないのか知らねーけどその態度はよくないんじゃねぇの!?あの佐藤でさえ気に入らない先輩にもちゃんと礼儀正しくしてたぞ!


 そこでふと佐藤のことを思い出す。

 ……そうだ、あいつ元の世界に帰ったら何発か本気で殴ろう。俺がこんなことになってるのはあいつのせいだ。間違いなくあいつのせい。元の世界に帰って俺の身体がどうなってるのかは分からないが、とにかくあいつを殴らないと気が済まない。覚えてろよ佐藤。



「アリア様、本当に申し訳ありません……!ハヤトは……少し、人間不信なところがあるので……」

「……人間不信?」

「なのでご無礼とは承知ですが、どうかお許しいただけないでしょうか……」



 カナトの言葉に、ハヤトの横顔を見つめる。




“魔女の中でも欠陥品なのだと思えばいい”




 この二人は魔女の出来損ないと呼ばれて国王に使われている被害者だ。俺には想像しかできないけど、きっと酷い扱いをされてきたんだろう。……人間を恨んだことだってあるはずだ。自分を欠陥品扱いし、奴隷のようにこき使う人間を殺してやりたいと思ったこともきっと……。


 そして俺はそんな人間の代表である国王の娘だ。余計に心を開く気になれないだろうな。それに例え俺が横暴な態度を取っていなかろうとこの二人にとっては他と同じ「信用できない人間」に変わりない。


 そう思うと、さっきまでハヤトに抱えていたイライラはいつの間にかすっかり消えていた。



「…………カナト、ハヤト」



 俺は二人の顔をじっと見つめて告げた。



「これからは敬語を使う必要はない。どうしてもって言うなら崩した敬語を使ってくれ。名前も、様なんてつけなくていい」

「あ、アリア様?」

「アリアでいい」

「……急にどうされたのですか?」

「……お前達ともっと仲良くなりたいと思って」



 そう言うと目を丸くするカナト。さっきまで顔を逸らしていたハヤトも驚いた顔をしながら俺の顔をじっと見つめた。だけどよく見れば驚きだけじゃない。二人とも、俺を見定めるような……そんな目をしている。


 ――――――――言葉を間違えれば、もう信用は取れない。



「今の俺達の間には主従関係が生まれてる。けど俺は……その関係のままでいるのは嫌なんだ。これから一緒に旅をしていく仲間なんだから、『対等』でいたい」

「……!」

「そもそも俺は護られるだけのお姫様になるつもりはない。もちろん、もし誰かに襲われたりしたら頼ることになるだろうけど……俺は自分にできることを全力でやる。それで傷付くことになっても構わないと思ってるし、お前達を奴隷のように扱ったりしないって約束するよ。俺は普段から対等な関係でいたいんだ」

「……対等?俺達とお前が?」



 ずっと口を閉ざしていたハヤトが俺の言葉を聞いた途端、小さく鼻で笑った。



「なに勘違いしてるのか知らねーけど、俺達は『魔女』でお前は『人間』だ。種族が違う限り『対等な関係』になんてなれねーよ」

「それはお前がなれないって決めつけてるだけだろ。魔女と人間が分かり合えないなんて世間が勝手に決めたクソみてぇな一般論でしかない」

「はっ、馬鹿が。魔女と仲良くしたい人間なんていねぇよ。お前だってどうせ俺たちの顔に釣られただけの馬鹿女なんだろ。いい子ぶんなよ」

「はあ?何言ってんだ?」



 ハヤトの言葉に思わず顔を顰める。

 確かに二人とも顔はめちゃくちゃ整ってる。俺が女なら確実に惚れてただろう。俺が女ならな。だけど残念ながら根っからの男なんだ俺は。男を好きになる趣味はないから二人に惚れることもない。かっこいいなあで終わり。



「確かにお前らイケメンだけど……男に興味ないからどうこうなりたいとか一切ないわ」

「は?」

「ぶふっ!くくくっ……」

「カナト!!てめぇ笑うんじゃねー!」

「思いっきり否定されてるじゃないか……恥ずかしいねぇ、ハヤト」

「うるせぇ!!」



 顔を真っ赤にして怒鳴るハヤトに構わず笑い続けるカナト。俺に対してはあんなに不機嫌で冷たかったハヤトが、カナト相手だと表情をコロコロと変えている。それだけで二人の普段からの仲の良さを感じられた。


 カナトは笑いすぎてできた目元の涙を拭うと、「それで……」と俺に向き直った。栗色の瞳にじっと見つめられ少したじろぐ。



「アリア様がそこまでして私達魔女を理解しようとするのは何故ですか?あなたは国王の娘。魔女を忌み嫌っているのが普通でしょうに」

「あの爺さんが嫌ってるから俺も嫌ってるとか偏見にもほどがあるだろ。まあでも、そうだな……」




“そして……『人間』と『魔女』が共存する世界ができるよう、協力していただけませんか。”




「『人間』と『魔女』が手を取り合って生きていけるような世界にできるよう協力してほしいって言われたからかな」



 今は帰ることよりも、アリアちゃんの願いを叶えてあげたいという思いのほうが強い。

 アリアちゃんは魔女に寄り添える優しい子なのだろう。だけどその魔女に襲われたということは騙されてしまったことになる。それでもあの子は「魔女は悪い存在じゃない」と言っていた。魔女だというだけで迫害されてしまう理不尽な世界を変えたいと願った。


 ……その思いを託されたのだから、達成するために全力を尽くしたい。


 この二人に歩み寄るのは、そんな壮大な目的の為の通過点なのだ。これから一緒に過ごしていく仲間から信頼を得られないような人間が魔女と人間の因縁を解くことなんて絶対にできないだろう。



「まだ信じられないのなら、信じてらえるよう行動する。誠意を見せていく。だからお前達も……一歩でいい。歩み寄ってくれ」

「…………」

「……ふふ。あなたって人は変わってますね」

「え?」



 そう言って笑ったカナトの表情は……さっきまでの笑みの時とは全然違う、柔らかくて優しいものだった。

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