初戦敗北とパートナー?
「やぁいらっしゃい!何がお望みで?この時期ならカルトが甘くておすすめだ!」
「やぁ!すまない今日は客じゃないんだが、ちょっと訳ありの流れ者でさぁ、この世界で底辺の人間が生活するとしたらどうやって生きればいいと思う?」
「んん?いろいろとツッコミどころはあるが誰しも事情の一つや二つあるだろう。そうだなぁ、見ての通りこの店は八百屋だが仕入れだの店舗だの金とツテはある程度必要だろな。腕っぷしに自信があるなら騎士団や傭兵団の試験を受けたりだろうな?もしくは特異な『カラー』を持っている人間なら魔術師って道もあるが、あとは盗賊やら強盗やら“冒険者”やら道を踏み外さないことを祈る。」
「!?冒険者ってのは落ちこぼれ職業なのか?俺のイメージとはちょっと違うな?」
「お前さんがどういった仕事を想像してるかわからないが、ていのいい“なんでも屋”だわな。迷い猫の捜索から下水道の処理やらな。俺の見た限りじゃ冒険者ギルドに隣接された酒場に蔓延る浮浪者だわな。」
豪快な笑い声が響くなんとも清々しいおっさんだ。気にいられると若干めんどそうな気もするが…。
「ありがとう!冒険者ギルドっての覗いてみるわ!今度はカルト買いに寄るから!」
街の大通りをひたすら歩きいくつか裏道へ入ったところにそれはあった。たしかに俺がイメージしていた冒険者ギルドではない気がする。俺は若干浮いた雰囲気でカウンターの女性!?トドのような人間の前まで恐る恐る歩みを進めた。
「あの…仕事を探しているのですが…」
トドは俺のことを横目でチラッとみると片手間にボードを親指でさしながら口を開く。
「依頼書を取って出ていきな。達成証明と共にここに提出出来ればこの場で精算だ。ただ一つ忠告しておいてやる、達成証明の横取りなんて当たり前だし喧嘩上等、仕事内容も良いものとは言えない。食っていけなくても全て自己責任だ。それでもやるってなら好きにしな。」
きっと心根は優しい人なんじゃないかなと思うが、今日の宿にも困る有様だからな…是が非でも稼がなければこの世界でもニートになっちまう。
俺はひきつった笑顔で感謝を伝えクエストボードの方へ足を向けた。読んだって内容は全く分からないので難易度予想の欄に星のマークがついていたので一つのものを選んだ。当然だが戦闘なんて出来ないから「弟切草の採集」ってのを選んだ。
隣の部屋にちっぽけな資料室があるから好きに使えってトドに睨まれた。やっぱ面倒見のいい人だな…俺の唯一の荷物である電波の入らない金属板に弟切草の姿を記録しギルドを出る。そういえば、公園のベンチに結んだままのクロは大丈夫だろうか…
どうしてこうなった?
弟切草を探しに街を出た俺は図鑑に記された分布図に従い近くの森に来た。だが、現在狭い小屋らしき部屋の小さなベッドで年上らしき女性の腕の中で横たわっている。綺麗な金色の髪からぴょこんと立った猫耳が視界に入りつつ、見事なまでに立派な胸が俺の顔を半分包んでいる。気持ちよさそうにたてる寝息がときたま耳をかすめる。
「生殺し…か…寝られん…」
数刻前、森を彷徨い続けると急に視界が開けた。視線の先に見渡す限りの森が広がっていてここが異世界だと実感する。崖沿いに進んでいくと中腹にそれらしき黄色い花をつけた草を見つけた。おそるおそる下りながら近付いていくと間違いなく画像と同じ弟切草だ。
初任務成功だな!おっと奪われることもあるんだったな。帰るまでが…金をもらうまでが なんとやらだ。
グギャャャ。
今の位置より少し下の少しひらけた場所に全長2mはありそうなトカゲの化け物が目に入った。
「あれが魔物かな?一発殴られるかひと噛みでお陀仏だろ…って、ん!?」
しゃがんで覗き込んでみると土壁にもたれかかった人間(?)が怪我をして動けない様子だった。トカゲの化け物も警戒しているのかゆっくりと近づきながらトドメをさそうとしているように見える。
「あぁ!もう!どうせ死んだことになってるんだしいいや!」
俺はトカゲに向かって思いっきり跳んだ。跳び蹴りなんてかっこいいもんではなかったけど、片脚に全体重を乗せてトカゲの頭を踏み抜いた。
会心の一撃だとは思ったが結果はトカゲを激昂させる結果となった。
「うぅわ…終わった…喉らへんが真っ赤に大きくなってる…」
トカゲの化け物は前足を振り上げ勢いと共に口から特大の火球を打ち出す。俺はとっさに怪我をした人間(?)を庇うように倒れこんだ。トカゲは踏み込みのせいで足場みずから崩落させ落ちていったが、俺は熱さを感じた瞬間目の前が真っ暗になった。
次に意識を取り戻した時には彼女の腕の中だ…恥ずかしさともどかしさでもぞもぞしてしまう。
「……!?おや?目を覚ましたかい?君は私の命を救ってくれた恩人なんだが記憶はあるかい?心からお礼を言いたい。ありがとう!」
「あぁ…いろいろあたってて話しづらいんだが座ってもいいか?ここは?」
「ここは私の家だよ。マリサって呼んでくれ。ボロっちい家ですまないね。普段はしがない魔道具屋をやっているんだが、原材料の魔石集めに困窮していてね。君の知ってのとおり死にかけた。」
「マリサがここまで俺を運んできてくれたのか?ありがとう!助かったよ。俺の名前は相良 創。ハジメって呼んでくれていい。」
「苗字があるってことは君は貴族なのかい?!獣人に対して不快な気持ちは抱かないだろうか…?悪いとは思ったのだが、寝かせる時に身につけていたものはそこのテーブルに置いておいた。見た限り冒険者の依頼書のようなものがあったが…それにその封魔の腕輪を身に付けているということはハジメは脱獄者かなにかか?」
俺はこれまでの経緯を事細かに説明した。
「なるほど、にわかに信じがたい事だが嘘をつく理由がなさそうだ。そもそも腕輪をつけたものが監獄から出て来れるとは思えない。試しにその腕輪を外してみてくれないか?
…うぅ
…すまない…もう一度付けてくれ………。ふぅ、君の話を信じてみよう。そうなると、君は生活に困っているということだな?それなら話がはやい!私と共に生活しないか?衣食住は保証しよう!なんなら魔力の扱い方を教えよう。そのかわり…力を貸してくれないか?」
確かに生活基盤を築く過程で俺の生存を大々的に知られるとまずい。ルナ王女もあからさまな捜索活動は出来ないだろうし、せいぜいあの侍女やルナ王女に忠誠を誓う者が街を見廻りする程度だろう。それでも先程の腕輪に対する見た目であったり、現地人らしからぬ服装では噂が廻るのは時間の問題だ。匿ってもらうことと、この謎の力の制御が出来るなら願ってもないことだ。
あのもふもふな尻尾を触らせてもらえたりはしないかな…
そうだ!せめて早めに寝床をもう一つ用意してもらおう…。