煉瓦色
「…ざめください…」
優しく肩を叩かれる刺激で俺は目を覚ました。
「ここは…」
絢爛豪華な大広間と言うのだろうか、広い室内にいる事は理解した。目の前には先ほど会ったばかりの少女が俺の顔を見下ろしていた。数瞬の間をあけたが、聞きたいことが多すぎて質問すらできなかった。
「いろいろとおっしゃりたい気持ちは存じております。あなた様には多大なご迷惑をおかけしてしまったこと。この世界に許可もなく巻き込んでしまったこと、あなたが住んでいた世界での今後の人生を奪ってしまったこと…心より申し訳なく思っております。」
俺は“鳩が豆鉄砲を食ったよう”を体現した。
俺は言葉を忘れたかのようにあたりを見回す。専門的な知識がないが、いかにも漫画に出てきそうな城といった建築物だろう。天井は見上げるほど高く、柱の節々に複雑な彫刻がなされていた。
「あの…」
「あっ、すみません…あなたは誰ですか?ここは?どうしてここに?」
真っ白なオーラをまとった彼女は申し訳なさそうにうつむきつつ話し始める。
「この世界は『カフラル』あなたの世界で言う地球です。そしてここはルーン王国の首都リーヴァテインのリーヴァテイン城です。私はルーン王国第二王女ルナです。あなたのお力をお借りする為に私の持つ『聖女』のちからでお呼びさせて頂きました」
ずいぶんと典型的な異世界転生をしちゃったもんだ。この王女様の能力はよくわからないが、今俺の体は間違いなくカフラルと呼ばれる地で生きている。
「ちなみに俺はまた地球に帰れるの?」
正直な話戻ったところでやり残したことがあるわけではないし、悔いがない以上人生のリセットボタンを押したと思えば大した問題では無いのだが、あまり乗り気だと思われるより今後の交渉がしやすくなりそうだから聞いてみた。
「おそらく戻れはします。ですが…」
王女様は再び顔をうなだれてしまった。
「今回使用した魔力は私が幼少期より貯め続けたもので、一度往復するのもギリギリでした。その頃より成長はしたと自負してはおりますが、再び可能な魔力を蓄積できるのはいつになるか…」
今にも泣きそうな王女様の顔を横目になんだかお年玉を貯めて買ったおもちゃを失ったような表情に苦笑せざるを得ない。
「んまぁとりあえず帰れる見込みがあるのならあまり強く咎めるのはやめるよ。だが、情けないが俺にできることなんてさほどないぞ?」
「ご謙遜を!あなたの『カラー』については存じ上げませんが、あなたの魔力量は桁違いではありませんか!正直に申し上げさせていただくと、あなたがお目覚めになられてからどんどん魔力量が増幅していて側にいるのが少々お辛いのですが…」
うーん?確かに俺が目を覚ました時より彼女は苦しそうに見える。特に地球で見たときより彼女を取り巻く色が限りなく薄く小さく見える。見えないプレッシャーのようなものか?きっと俺の気分を害さないように我慢していたんだろう。
「えっと…ごめんよ?どうしたらいい?その魔力?っていうの地球にはない概念だからどうにも…」
「少々お待ちいただけますか?本来こういった使い方はしないのですが罪を犯した者に対して魔力を抑制する腕輪というものがございます。あなたのお力をコントロールできるまで装着するというのはどうでしょうか?もちろん着脱は自由に可能です。」
そう言うと彼女はゆっくり立ち上がり部屋を出て行く。
数分して王女が戻ってきて俺に腕輪を装着する。事前に犯罪者に付けるものだと聞いているものだから変な気分だ。
「それで、俺はなにすれ…!!」
「ルナの呼んだ化け物はここか!?」
突然ドアを観音開きにバンと開き、目尻の吊り上がった“煉瓦色“(れんがいろ)の魔力を持った女性がズカズカとこちらへ歩み寄ってきた。ルナ王女が猫ならこの人は間違いなく虎だな。
「貴様が"選ばれた者“か?」
無遠慮甚しい彼女の対応にジト目でルナ王女の顔を窺う。視線の先の彼女は若干苦い顔をしつつ応えた。
「この御方はルーン王国第一王女、ルディオス=ルーン様でございます。姉様、こちらの御仁は異界の地“地球”よりお呼びさせて頂きました。名を…」
「相良 創です。化け物って僕の事ですか?」
「ほぅ魔力はこれっぽっちも感じぬが、良い目をしおる。」
緋色の双眼が軽くキッとなったかと思うと、瞬く間に俺の周りを炎の壁が覆った。
「あっつ!あついって!死ぬっ!」
「姉様!おやめください!彼には今魔封の腕輪を着けて頂いているのです!本当に死んでしまいます!」
慌てふためくルナ王女を横目にルディオスは若干口角をひきあげながら言い放つ。
「この程度で命を落とす程度の者など使い物にもなりゃしない。そうじゃなくとも、我に対してあのような反抗的な目をするものは反乱分子の一端として処罰の対象だろ?結果は変わらん。」
ルディオスは高笑いを響かせながらゆっくりと部屋から離れた。
「うぅ…せっかく見つけた…我が国の希望が…相良様…巻き込んでしまったばっかりに…申し訳ありません…」
ルナ王女はペタンとその場でお尻を床に落とし、謝罪ながらに大粒の涙を流した。