adrenaline
「今日が"金沢リゾート"の皆様と合わせられる最後の機会です! 刺身を作りたいと思いますのでグループに分かれて下さい」
という能登先輩の声で俺は"金沢リゾート"の3.4人と共にキッチンの前に立った。
俺らは第1班。
班長は俺、小松祐希が担当する。
第1班は刺身80食分を担当する。
「それではテストを始めます! 制限時間は1時間、よーい、始めっ!」
俺らは調理を始める。
マグロの頭をズバッと大きな音がなるほどの力で切り落とし、5枚下ろしと呼ばれる作業を行う。
マグロのひれに沿って縁取りをするように切れ目を入れる。それから背骨に沿って切れ目を入れて、背骨に沿って入れた切れ目から外側の切れ目に向けて包丁を入れ、身を骨からはがす。それは裏表行い、背骨と半身の上下の5枚に分ける工程だ。
難しい作業を終えた。
あとはマグロの赤身を切り分けるだけだ……。
俺は昔から器用だった。
やりたいと思ったこともいざやってみると簡単にできた。
そしてすぐに飽きた。
でもたった1つだけ、簡単に出来なかった、とても難しかった、飽きなかったことがあった。
料理だった。
俺は今まで1回も自分が上手く料理ができたなんて思ったことはない。
理由は簡単だ。
俺が美味い、上手い料理と認めているのは能登先輩の料理だけだから。
でも超えられない壁だとは思っていない。
だけど超えられない。
悔しさ以外には何もない。
輪島先輩はきっとリスペクトだとか、恋心とかの気持ちを能登先輩に抱いているんだろう。
俺は能登先輩を超えたい一心だから、超えられないのが悔しいんだ。
俺は刺身を捌き終わった。
すると"金沢リゾート"の人たちから、
「間に合わないっ!」
と声が聞こえた。
ったく、うるせぇなぁ、輩どもが。
俺は過去一ニヤニヤしてたと思う。
俺は"金沢リゾート"の人たちからフライパンを受け取って、
「任せとけっ」
と声をかけた。
ここなら、世界一楽しい料理をできる。
ここなら、世界一美味しい料理を作れる。
ここなら、俺が世界一カッコいい負けず嫌いになれる!
俺は自分の担当ではない料理も協力した。
俺ら第1班は10分の時間を余らせて料理を終えた。
"金沢リゾート"の人たちとハイタッチをする。
「すごいよっ! 小松!」
と輪島先輩が。
「やるじゃねーか」
と能登先輩が俺に声をかける。
「はい」
と単純な返事をした。
あんた達は俺が料理をいやいややってると思ってるでしょ。
だりぃ〜とか、めんどくせ〜とかそんな感情でやってると思ってるでしょ。
「先輩たちっ!」
と俺は声をかけた。
2人は振り向いた。
俺はしっかり前を向いて、ニヤリとしてこう言った。
「超がつくほど料理、楽しいっすよっ!」
すると能登先輩がそっぽを向き、「ふんっ」と鼻で笑って、
「当たり前だ」
と言った。
そして俺は輪島先輩とハイタッチをして、輪島先輩にバドンを渡した。