何度だってこの花火を
あれから私は明誠荘の板前として精一杯料理を作り続けた。
前代未聞とも言われた、たった2人の板前が旅館を守り続けた。
その間に私たちは力をつけて能登さんに追いつこうとしている。
私は『本当に美味しい板前10選』という雑誌の企画で選ばれたりもした。
能登大輔を超えた能登大輔の一番弟子と書かれていて、立派な板前になった自覚をした。
6年後……
「輪島先輩! 大変っす! 女将さんが……」
小松が私に声をかける。
女将さんが倒れたらしい。
私は急いで病院に向かった。
私は部屋を開けた途端に、
「女将さん!」
と声をかける。
するとそこにはニコッと笑う女将さんがいた。
「美香……ごめんね迷惑かけて。疲労が溜まってるって、大丈夫、命に別状はないから」
「それは良かったです、もう本当に……」
私が心配そうな顔をしているのを見て、
「美香……一流板前がそんな情けない顔をしてはいけないよ?」
と女将さんが言ったので、
「はい、そうですね!」
と笑顔で答えた。
そして3日後、女将さんは退院して明誠荘で働く全員が集められた。
「みんな! 今日は集まってくれて嬉しく思う」
と女将さんが声をかけると、全員が注目した。
「今日は大事な報告がある」
と言う女将さんの言葉で全員が真剣な顔で女将さんを見つめる。
そして女将さんは口を開いた。
「明誠荘を……閉じることを決めた」
私は声が出なかった。
「今回北介と話をして、私たちの体が不安だと言うことでここを閉めることにした。本当に自分勝手で申し訳ないと深く謝罪したい」
と女将さんが言うと女将さんは膝を床につけた。
私は女将さんが何をしようとしているのか察して即座に、
「女将さん! 絶対にそんなことはしないでください!」
と声をかける。
「美香! 今回ばかりはやらせておくれ」
と女将さんが言った。
すると後ろから、
「女将さん! あなたがどれだけ俺たちにその気持ちを持っているかは分からないです! 土下座という決断が悪いことだとも思いません! でも! 最後の最後まで! 俺たちの前では……カッコいい女将さんでいてください!」
と小松が言う。
「でも!」
と女将さんが戸惑っていると女将さんの横から、
「土下座はしなくていい……でも頭は下げよう」
と北介さんが言って、北介さんと女将さんが2人で深く頭を下げた。
20秒ほど、とても長い時間頭を下げ続けた。
すると女将さんが話し始めた。
「私と北介! 明誠荘の名にかけて! あんた達を困らせやしないよ」
と喋って去っていった。
そして1ヶ月後、明誠荘は閉まる直前。
だが、明誠荘で働いていたほとんどの人の次の就職先が決まっていた。
女将さんと北介さんが電話をかけ続けたと言う。
小松は全国展開しているホテルの板前を務めることになったらしい。
そして私は金沢の超一流旅館の板前長を務めることになった。
女将さんからは、
「あんたを一番いい所に送ったつもりだ」
と言葉をもらっていた。
私は旅立つ。
みんなが順番に手を振って明誠荘を去っていく。
「小松……ここであまり長い言葉を吐くつもりはないよ! たまには会おうね?」
「もちろんっすよ! ほんじゃ、あざした」
「本当に今までありがとう」
と言って握手をして小松は行った。
「それじゃあ私も行きますね」
と女将さんと北介さんに声をかけた。
すると女将さんが、
「あんたとはこれからもお世話になるだろうね」
と言った。
私は、
「え? どういうこと……」
とこんがらがった。
「まぁ、行ってからのお楽しみだね」
と北介さんが言った。
私は女将さんと北介さんとハグをして、明誠荘を背に旅立った。
私はホテル"金沢ホテル Hawk"に着いた。
ホテル長が立っていた。
「輪島美香さんですね?」
と聞いてきた。
40代くらいの人で、誰に似ていると思った。
私は握手をすると同時に名札を見た。
そこには金沢鷹飛と書かれていた。
私はまさかと思ってもう一度苗字を確認する。
「金沢って……」
すると金沢さんは、
「そうだよ。両親は君のことをとても信頼していた。これからよろしくね」
と握手をした。
そして私はここでの生活に慣れて、夏になった。
私は1人、柴山潟に向かった。
能登さん……聞こえてるかな。
今日もまた、花火が上がるよ。
能登さんと見たあの花火が。
小松と見たこの花火が。
今日もまた。
能登さんといたから私はこんなに立派になれたんだ。
能登さんは今は私の前にもいないし、横にもいない。
でも、上にいる、胸の中にいる。
あなたは私と一緒にいる。
だから私は見続けなければいけない。
何度だって、何度だって、何度だってこの花火を。
たったそれだけの思いを胸に……。
それほど大きな思いを胸に……。
大きい1つの花火がパッと咲いた。




