1章6話『帝国の試験』
「ぐぎゃあっ」
目の前のゴブリンの胸に剣を刺す。ゴブリンはガクンと力が抜けると、体が黒い灰となり風と共に散っていった。
「これで最後かな?」
「うん、こっちの方はもう倒したよ」
うわあさすがミア、あの群れの数を1つの魔法で焼き払ってる。周りに木々がないから躊躇なくできるんだな…
「じゃあ、進もうか」
村を出て5日、寝泊まりは持ってきたテントで、食料は現地調達で進んでやっと道らしい道に出た。
「ここまで来たら帝国に向かってる馬車が通ると思うよ」
地図を見ながらミアが言う。助かった。正直ここまでの道のりでとても疲れた。魔物は沢山出るし、テントは寝心地悪いし。
「じゃあ早く行こうか。僕もうヘトヘトだよ」
しばらく歩いていると道が舗装されてきて、帝国に近づいていることがわかった。
「もうちょっとみたいだね、日が暮れるまでには着けそう」
そう話しながら歩いていると道のはずれの草原からかすかにだが音がする。
「しっ!……ミア魔力探知使える?」
「う、うん使えるよ、でもどうして?」
「そこの茂みになにかいると思うんだ」
魔力探知が始まりミアの魔力が薄く広がっていく。しばらくしてミアが驚いた顔をしてこっちを見る。
「あそこに7人ぐらいの人影を感じるよ」
人、人かあ。僕たちが歩いてきていることにもう相手は気づいているはず、にも関わらず出てこず隠れているということは…
「はあっ!」
身体強化を使い、即座に跳躍。魔力探知に引っかかった場所辺りに上空から剣を振り下ろす。
ズガァンと鳴り響いた音に驚いたのか数人の男たちは
「うわああぁ!」
と逃げていった。だが残り半分ぐらいは即座に抜剣、臨戦態勢に入った。多分この人たちは強い。特に真ん中にいる大柄な男、武器は抜いていないが恐ろしいほどの殺気を出している。
「何者だ!」
殺気に打ち勝つための喝を入れるかのように大きな声を出す。見るからに装備品は真ん中の男以外は頼りないものばかり。おおかた盗賊と言ったところか。
「………金目のものを渡せば命は残る」
真ん中の男がゆっくりと口を開く。声音からはなにも感じ取れない………が、何故だろう。あまり悪い人に思えない。
「渡すものはない!」
ささやかな疑問は残るが、ミアの命が危険にさらされるなら撃退しなければならない。剣をかまえ、迎え撃つ。その瞬間ーーーーー
「うわっ!」
いつの間にか抜剣していた真ん中の男の剣が一瞬にして目の前に現れた。剣ではじくのが精一杯で体勢が崩れる。
「ミア!!僕から離れて!この盗賊、強いっっ!」
一瞬にして始まった剣の打ち合いを見て、反応が遅れるもミアはすぐに離れる。
離れ、ミアが周りの賊を相手してくれている。
あの実力ならミアの圧勝だろう。魔法を適当に撃ち込んでも勝てるはず。
問題はこの男だ。どうやって制圧すればいいのか。
「はあぁ!」
(僕の剣技は確実に初見のはず…!なのに、なんで全て弾ける!?)
まるで見てきたかのように僕の剣技を全て跳ね返す。人を殺めてしまう可能性で踏み込めないのもあるがそれでもあまりにも手馴れている。
「……………………」
無言で全てを打ち払うその男はしばらくしてやっと口を開いたかと思えば、
「お前たち、ずらかるぞ」
と言うと即座に僕の間合いから離脱、ミアに倒された人達全員を抱え、とてつもない速度で離れていった。
「……….、なんだったんだ?」
「わからないけど、とっても強かったね」
まああの男の取り巻きを一瞬で制圧したミアも怖いけど……
ほんとに何者だったのだろうか。それにあれほどの実力がありながらなぜ賊なんてものをしているんだろうか。
「とにかく、帝国まで言って早く報告しておこう」
「そうだね」
と帝国に行くため、賊が進んだ方向と同じ方へと歩き出そうとすると
「あれ?ねえティルなにか落ちてない?」
「ほんとだ、なんだろこれ袋?」
ガチャガチャ言わせながら持ち上げたそれは中ぐらいの小汚い袋だった。中身を見ると
「うわ!お金が沢山入ってる。これさっきのやつらが落としていったのか」
「そうみたいだね、これどうする?」
「うーんとりあえず帝国の兵士さんにでも渡そうか」
「盗られた人が見つかるといいけど…」
予想外のハプニングと遭遇するものの、僕達は盗賊が落としていったたもの片手に帝国へと目指した。
*****
「「うわぁ、大きいなあ!」」
2人揃って感動のあまり声を出す。僕達は帝国まで着いたのだ。
帝国は正方形の城壁に囲まれている。言わば城塞都市だ。城壁の奥には僕たちが歩いてきた道の草原とはうってかわり、深い大きな森が広がっている。城壁の前には堀があり、侵入が難しくなっている。
入るために門の前にいる兵士へと話しかける。
「すみません、中に入れてもらいたいのですが…」
「身分証の提示を……、いえ、失礼いたしました。どうぞお入りください。」
身分証とかなんとか言いかけた後に何かを思い出したかのような素振りをすると、すぐに通してくれた。どこか不用心じゃないだろうか、ついさっきあんな強い賊にも出くわしたというのに。
「あの、すみませんあとこれを受け取って欲しいんですが…」
「これは…?お金ですか?」
「はい、途中賊に襲われまして撃退したところそれを落としていったので届けておこうかと」
「それは災難でしたね…。ご協力感謝します」
好青年なその兵士はビシッと敬礼を僕たちに向けてくれた。
「ところで安く泊まれる宿屋はありますか?」
そうミアが訪ねると、
「そうですね、ここを真っ直ぐ行くと噴水があるのですがそこまでいくと宿屋の看板が見えるのでそこの宿屋がオススメですよ」
「「ありがとうございます」」
「いえいえ、こちらこそ」
若い兵士と別れると早速宿屋に向かった。また賊に襲われる可能性を恐れてここまで急いできたのでヘトヘトなのだ。そのおかげで日が落ちる前に来れたのだが…
「はぁ疲れたーもうヘトヘトだよ」
「私も、さすがにもう疲れたよ。久しぶりのベットでぐっすり寝れそう。」
もう今日は疲れた。明日は朝からすぐ試験だ。今日はもう寝て休もう。
「じゃあ、おやすみミア」
普段とは違う疲れからかすぐに眠気が来て、数十秒で眠りについた。
*****
「うそ…でしょ…」
ミアと朝起きて、軽くご飯を食べるとすぐに試験会場に向かった。試験は剣技科と魔法科で別れるのでもうミアは別会場に向かっているのだが、1人でこれを見るのはさすがにショックが大きい。
会場におもむくと安っぽい木の板に張り紙が貼られてあるものが数個並んでいた。そこには
・筆記試験100点、実技試験100店、合計200点で採点します。
・試験内容は直前までわからない仕組みになっています。
・実技試験に使用する、盾、剣等はこちらが用意致します。
・不正等が行われれば即刻失格とさせていただきます。
これは……非常にまずい。まず筆記試験、これに関してはお母さんが勉強を教えてくれたのもあるし、僕がそもそも勉強が好きだったのもあって恐らく大丈夫だと思う。それよりも実技試験だ。おじいちゃんの技はそもそも公式に存在しないものだろうし、自前の武器が使えないのは……相当にまずい。
これはなにかしら対策を考えないと、ドンッ!
「おおっ、わりぃな」
「いえ、大丈夫です」
やたらガタイのいい、おそらく僕と同じく受験生の人とぶつかった。
髪は赤髪の短髪、目も燃えるような緋色の瞳だ。ガタイの良さからヤンチャで活発な人そうだ。
「ちなみにさ、試験会場はどこかわかるか?」
「んー多分あっちだと思います。みんなあっちの方へと流れてますから」
「そっか!ありがとな!お互い試験がんばろーぜ」
ニカッと笑顔を浮かべ、試験会場に向かっていった。いい人だなあ、僕みたいな田舎者丸出しのやつにもあんなに優しくしてくれるなんて。
言われたからには頑張らないと。今更もう武器のことなんて気にしてもどうにもならい。全力で挑もう。
遅れて僕も流れの方へと行くと、男の人が2人たっていて順番に受験票を渡していた。
幸い開始まで割と早く来ていたので順番は早く回ってきそうだ。
「はい、受験番号0013ね。奥の案内表に従って進んでください。」
「は、はいありがとうございます」
受け取って奥に行こうとすると、
「頑張れよ!」
もう1人の男の人がバシッと僕の背中を叩いて応援してくれた。
「はい!ありがとうございます!」
いい人だなあ、おかげでやる気が出てきた。
とりあえず中に進もう。
「それにしても広いなあ」
筆記試験を行うため中に入った僕は学院の大きさにびっくりした。外からも大きいとは思っていたが、中に入るとさらに広さを実感する。当然座学も行われるので教室は沢山あるのだが、それにしても広い。中には様々な設備が整っている。
「これだけ整っていれば勉強や鍛錬するのに充分だろうなあ」
驚きつつ感動していると、試験管に貰った受験票が指定する部屋に着く。
あと30分か、結構暇だな。何をして暇を潰そうかな。
「お!よう、さっきはありがとな」
突然話しかけれ振り返ると、さっきの赤髪の人だった。
「同じ教室だったんですね」
「そりゃあ当たり前だろう、受験番号5、6しか変わらないんだから」
ちょっと笑われながら言われた。そっかそう言われたらそうだな。
「俺の名前はダグザ・カーリグ、ダグザでいい、お前の名前は?」
「ティル・オディナ、僕もティルでだいじょぶです」
「よし!ティルだな、とりあえずさ名前も教えあったんだし、敬語はやめよーぜ?同い年だろ?」
「は、はい…うんそうだね、分かったよダグザ」
おう!と屈託のない笑みを浮かべる。この人絶対にいい人だ。良かったこんないい人と友達になれて。
「ところで最初は筆記試験だよな」
「うんそうだね、僕はこっちの方が自信あるよ」
「だろうなあそんな顔してるよ。早く実技になんねえかなあ、俺は筆記はダメなんだよ」
とまあ雑談をしているとあっという間に時間は近づいていた。気がつくと前にも1人教師らしい人がたっている。
「そろそろ時間だな、じゃあお互い頑張ろうな」
ダグザと離れ、しばらくして教師が紙を持って動き出す。
「それでは今から筆記試験を始める。試験前にくっちゃべれる余裕があるようなので予定より少し早く配る」
嫌なことを言う、絶対に僕たちのことだ。というか僕のこと睨んでるし。
「では試験を始める。始め!」
まああんな人はほっておいて試験に集中しよう。実技が通用しない可能性があるとしたら筆記でいい点を出さないとダメだ。
そう気合を入れると僕は問題を解き始めた。