ボロアパートで元勇者残りおねぇサラリーマン管理人は大魔王とともに聖女を待つ
「なぜなのよぉ」
私はこのボロアパートの雇われ管理人だ。このボロアパートがどのくらい古いかといえば、余計な改築さえしなければ県の指定文化財にもなれたくらいに年季の入ったボロさである。
「温水洗浄便座だけではダメだったか」
お風呂なし、トイレは強度。こんな物件に女性が来る訳がないのだ。
「あの性悪魔術師ぃー」
「まあ、のんびり待つしかないだろう」
我輩は思いっきり伸びをした。忙しく働く勇者と違って我輩は…。ぴくん。と我輩のヒゲが鳴る。あやつの気配がする。
「チュー」
「キャー。大魔王、出動よぉ」
「にゃああ」
「怖かったぁ。ぐすん」
「見た目が、本当に合ってないな」
「仕方ないでしょぉ。大魔王なんて可愛すぎぃ」
勇者は我輩を抱き上げ、吸った。
「うにゃ?や、やめろ」
「猫を吸うのはトレンドなのよぉ」
「そんなトレンドはない」
元々、勇者はボンキュボンの美女だったのだが、この世界に魂を転移させられ器となったのが何故か、この男。冴えない、どこにでもいそうなこの男である。そして我輩は、猫である。
「だってぇ、大魔王は負けたんだからぁ仕方ないでしょぉ」
そう、我輩は敗北したのだ。
「監視とかでぇ、こんな世界に転移させられた私が1番可哀相よねぇ」
「随分といきいきしているように見えるが」
「大魔王なんかほとんど昼寝しているじゃない」
「我輩はいざという時の為に魔力を蓄えているのだ」
この世界は魔素が薄すぎる。このままでは何百年かかることか。
「戻るためには聖女の力が必要なのにぃ」
「聖女どころか女性の入居希望者が来ないな。入居者の恋人さえ来ないな」
「帰りたいよぉ」
「我輩の魔力が貯まったら帰してやろう。なのでゆっくりと昼寝させてくれ」
「何百年かかるのよぉ」
チリリンと、アパートのエントランスのドアが開く音がした。
「聖女様かもしれないわぁ」
「宅配便でーす」
女性の声だ。しかし魔力は感じない。我輩の平穏な生活はまだまだ先のことなのだろうか?とりあえず、眠ろう。