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第49話 絶妙のタイミングで帰ってきた貴公子

 まだぶつくさ言っている井光と、やたら謝ってばかりの徹は、なかなか動こうとしなかった。

 友愛がこのふたりの力を知っていれば、何が何でも両方を表に引きずり出したことだろう。

 だが、今まで人間が知ることのなかった「清め」の力の存在は、今でも、また、これからも知られることはあるまい。

 友愛にできることは、虎徹を抱えて外へ駆け出すことぐらいだった。

「虎徹、とりあえず、うち、何したらええのん?」

 何が起こっているのか掴み切れない中でも、応を助けたいという気持ちだけで動いていることは見て取れた。

 だが、猫の身では、おわあとしか返事ができない。

 本当は、友愛が出ていっても仕方がないのだと言ってやりたかった。

 むしろ、ボロ家とはいえ、人の入ってこないところで応を待っているほうが、身の安全を保つことができる。

 実際、友愛はおろか虎徹でも、もはやどうすることもできなかったのだった。

 食堂のおばちゃんはとっくにリタイヤしてへたり込んでいた。

 唐鼓のならず者たちは、まだ相当の数が残っていはいる。だが、縞ジャケどもの数は減ってもいなかった。

 次から次へと襲いかかる地元のヤクザたちの拳をどれほど浴びようと、無尽蔵ともいえる体力と圧倒的な腕力で薙ぎ倒し、投げ飛ばし、自動車のボディに叩きつけていく。

 さっき「禍事」の力に憑りつかれた、あの縞ジャケの親分やデカブツと同じで、普通の人間ではなくなっているらしい。

 そんなことが起こっている場所に出てきた友愛を、応が手で遮った。

「出てきちゃダメだ」

 そう言いながらも、伸ばした腕は友愛をかばっている。

 それでいて応がガタガタ震えているのは、怯えのせいではない。

 片腕で抱えた茶碗が、前にも増して騒いでいるのだった。

 買うてくれ、買うてくれと。

 だが、今となっては誰がこれを買い取ることができよう。

 少なくとも、ここにいる誰にもできはすまい。

 そう、ここにいる者には。

 だが、ここではないどこかから現れた者がいた。

「友愛! その格好は……」

 突然現れた身なりのいい若者が、服を引き裂かれた友愛の姿に息を呑む。

 そのまなざしと、応の視線がぶつかった。

 だが、口を開いたのは、露わな胸元を慌てて隠した友愛だった。

「傑! どこで何してたん! ジャリの頃からそうやないの、偉そうなことばっか言うて、肝心な時にはおれへんのやから」

 救いの神になるかもしれない男に、罵詈雑言が浴びせられる。

 さすがにこれには傑もカチンときたようだった。

 友愛を背中にかばう応を見据えながら、自信たっぷりに言い放つ。

「間に合うてるがな! ほなら見したるわ、俺、空手習うてたんやからな! ……あいつらやな」

 言うが早いか、肩を怒らせ、戦いに挑む男の背中を見せて歩き出す。

 その先には、縞ジャケどもに押され気味の、地元のヤクザたちがいた。

 傑は精一杯のドスを利かせた声で凄む。

「どけやオッサン!」

 誰がオッサンじゃ、と凄む余裕もない男たちの群れを、傑はかき分けて歩いていく。

 やがて、邪念で辺りを蜃気楼のごとく揺らめかせる縞ジャケどもの前に悠然と立った。

 傑は拳を固く握りしめ、裂帛の気合と共に身構える。

「来いやあ!」 

 そして。

 勝負は一瞬でついた。

 双方のヤクザから全く問題にもされない、無傷の応の陰で友愛がつぶやく。

「まあ、期待はしてえへんかってんけども」

 力ない声が、悲しげに答えた。

「僕はちょっとだけ期待してた」

 応の願いも空しく、傑は中腰で拳を構えたまま、青空を仰いで瞬殺されていた。

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