第46話 無法者たちの乱闘は続く
笑ったり怒ったりしながらの友愛に送り出されて、応はボロ家の外へ出る。
全ての騒ぎの元凶となった茶碗は、その腕の中にある。
文字通り、引き起こされた災難までもひっくるめて、応がひとりで抱え込んでいるかのようであった。
友愛の傍らから駆け出した虎徹が後を追ったのは、茶碗の面倒を見られるのは、その事情を知る猫しかないからである。
だが、猫1匹がついていってどうなることでもなかった。
家の外では、道を塞いだ黒塗りの車の間を縫って、ヤクザ対ヤクザの大立ち回りが繰り広げられていたのである。
片や、同じ縞のジャケットを着た、割と身なりのいい、都会派ぶったヤクザの群れ。
片や、それを迎え撃つのは貧乏くさくて見栄えのしない、地元のヤクザやチンピラたち。
それだけではない。
食堂のおばちゃんも大活躍であった。
自分から縞ジャケの群れに突っ込んでいっては、手当たり次第にブレーンバスターやバックドロップで地面に叩きつける。
「狭い道にデカい車ゾロゾロ並べんじゃないよ、すぐ乗って出ていきな、このよそ者ども!」
地元のヤクザやチンピラの中には、昨日、友愛にちょっかい出したのもいる。
「あのお嬢ちゃんに何しやがった!」
「生かしちゃ帰さねえからな!」
「こいつはコタエくんの分だ!」
口々に喚きながら、縞ジャケどもを殴り倒していく。
どうやら、ボロ家の中で何があったか、このおばちゃんから伝わっていたらしい。
早い話が、縞ジャケどもと戦っている者たちはひとり残らず、何らかの形で応が関わった人々であった。
父親が受けた恩を返したり、あるいは街の人々にかけてきた迷惑の罪滅ぼしをしたり、起こしたいざこざがあれば、そのひとつひとつの仲裁に入ったり。
今、ここに集まった人数は、おそらく1400人あまりであろう。
数えなくても分かる。
人口2000人の大字の7割を占める、ヤクザチンピラが全て集まっているといっても過言ではないからだ。
もともと、よそ者と見れば叩きだす土地柄の上に、ひとりの少年への義理人情で心をひとつにした人々である。
ひとたび集まれば、たかが10人ちょっとの縞ジャケどもなどひねりつぶせる人数であった。
だが、車の大半が見る影もなく破損しているというのに、なかなか乱闘は終わらなかった。
縞ジャケどもは思いのほか頑丈で、しかも腕が立った。
殴っても殴っても倒れないばかりか、むしろ地元のヤクザやチンピラが次々に吹き飛ばされていく。
それでも立ち上がってはまた挑みかかり、気を失ったものがあっても、その後ろから別の男が縞ジャケどもに立ち向かう。
おばちゃんは要領よく、疲れれば最前線を離れ、ひと休みしてから戦線に復帰するのを繰り返していた。
応の声が、空しく響く。
「やめてよ、みんな!」
だが、縞ジャケどもをひとり残らず地面に這わせない限り、唐鼓の街の人々が殴り合いをやめようとする様子はない。
おばちゃんや地元のヤクザたちが、口々に弁解した。
「待っといで、もうちょっとで」
「こいつらしぶといんだよ」
「本当に人間か?」
そう言わざるをえないほど、縞ジャケどもは強かった。
超人的なまでに。
人外のものの力が働いているのは、その虚ろな目を見れば明白であった。
応の目には分からずとも、猫には聞こえる。
この街の下に封じられた「禍事」が笑い、泣き叫んでいた。
しっかりと応の腕に抱えられた茶碗もまた、喚き散らす。
買うてくれ、買うてくれと。
2つの声は交わりあい、目には見えない大きな渦を巻き上がらせているようでもあった。




