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第40話 対決! ダメ営業オヤジVS知性派ヤクザ

 邪念の正体はこれであった。

 古道具に目が利くヤクザが、騙された半可通のオトシマエをつけに来たのである。

 それにしても、いかにヤクザとはいえ、非がないのだから筋を通せばよさそうなものではないか。

 だが、そこが「禍事」の恐ろしさである。

 人の心の小さな動きを、噴火する火山の如くに大きく揺さぶるのだ。

 縞ジャケもまた、その感情の高ぶりには抗えなかったのだろう。

 まるで組同士の出入りでもするかのような勢いで、こんな田舎のボロ屋に押しかけたのはそういうわけである。


 井光はといえば、そんなことは一向に意にも介さない。

 それどころか、開き直ってせせら笑いさえしたのだった。

「まさかパチモンやとは思わなんだな、今までの持ち主も4~5人死んどるらしいやないか」

 そこで縞ジャケも、にやりと口元を歪める。

 こちらも、井光が落札者だと察したようだった。

「ほう、なかなかにいわれのあるもののようですね、落札者様」

 言葉は相変わらず丁寧だが、その奥には冷たい怒りがある。

 それを覆い隠すかのような朗らかさで笑いかけると、井光もにかっと笑って尋ねた。

「400万の価値はおまへんか?」

 縞ジャケは鼻で笑うと、冷ややかな目つきと口調で、理路整然たる反論を展開してみせる。

「少なくとも、私の目には。それとも、証拠がありますか? 茶道具にはそれを入れる共箱というものがありまして、それを伝えてきた流派や家が分かります。そこにはまた、箱書といいまして、茶道具についての説明が書きつけてあります。それが真贋を見極める決め手となるのですが……」

 相当、談判の場数を踏んだヤクザらしい。

 骨董屋を開いても食っていけそうなほど、茶道具のことを知り尽くしている。

 だが、井光も負けてはいなかった。

「本物かどうか確かめもせえへんと高値付けたのはあんさんでっしゃろ?」

 何も知らなくとも、相手の理屈の痛いところを突けば、談判に負けることはない。

 井光を手強いと感じたのか、縞ジャケは、冷たい目をすっと細めた。

 畳みかけるように問いかけては、責め立ててくる。

「落札しながらわざわざ売りつけたのはあなたですよ? なぜです? 偽物だと知っていたんじゃないですか?」

 ヤクザにしては、言うことにいちいち筋が通っていた。

 とても、「禍事」に引き寄せられてやって来たとは思えない。

 追い詰められた徹は、困惑する息子の前ですっかり縮み上がってしまった。

 友愛までもが、おろおろとうろたえる、

 少年少女の痛々しい姿を前にした井光は、いつにない判断の速さを見せた。

 開き直ったように、徹を促す。

「しゃあない、もろうた金出せえや」

 いちばん無難な解決策であった。

 ここで金を返してしまえば、詐欺は表沙汰にはなるまい。

 ただ、いささか遅すぎた。

 徹の口座には、返すべき額の半分しかない。

 井光の口座に、返すべき金はない。

 耳を揃えて返すことは不可能であった。 

「あの……ATM使ったことがねえんで」

 徹らしい、下手な言い訳であった。

 だが、酔った井光はそんな芝居に付き合う男ではないらしい。

「せやったら壊して直に金持ってこんかい!」

 おろおろとその場を取り繕おうとしたらしい徹は、そこで言ってはならない単語をを口にしてしまった。

「それは、あの……犯罪」

 そのNGワードが、全てを混乱のどん底に陥れた。

「オンドレのやろうとしとったのは詐欺やないんかい!」

 そこで縞ジャケの身体がぴくりと強張った。

「どういうことでしょうか……出品者様?」

 ゆらりと立ち上がった縞ジャケの声が怒りに震えたとき、その手の中で茶碗がつるりと滑った。

 それはまるで、こう言っているように見えた。

 買うてください、買うてください、と。


 危ない。

 この茶碗、どういうつもりかヤケを起こしている。

 何で2番目に高い値段で売れねばならんのかは、もとの持ち主でなければ分からない。

 だが、割れれば永久に無念が残る。

 しかもよりにもよって「禍事」の上である。「幽世」で何が起こるか分からない。

 事によっては、長きにわたって抑え込まれてきた恨みつらみや怨念が、一気にあふれ出すかもしれない。

 そうなれば、人の恨みつらみを封印する「清め」の男が何人いても収まるまい。

 ましてや、たった2人では。

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