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第28話 動きだすオヤジ2人の陰謀

 猫が家の戸口に足を踏み入れたところで、奥の方から、いきなり喚き散らす声があった。

「来たあ! 入札!」

 猫が駆け上がった畳の上では、徹が七転八倒している。

 ノートパソコンの画面を見て、大はしゃぎであった。

 井光はほっと胸を撫でおろすと、徹の前に手をついて、深々と頭を下げた。

「おおきに、これでお得意さんに顔が立ちますわ」

 これにて一件落着といったところなのだろうが、ひとりだけ、暗い顔をしている者があった。

 応である。

 友愛を置いてきた家の外を眺めては、そわそわしていた。

 その父親である井光はいそいそと立ち上がった。

「ほな、友愛にも……」

 自ら良い知らせを伝えに、家の外へ駆け出そうというのだろう。

 だが、徹が井光がこの場を離れることを許さなかった。

「おい、お前もすぐ入札しろい」

 既に足先に靴をつっかけていた井光が振り向いた。

「今すぐでっか?」

 その顔は、いかにも迷惑そうであった。

 とりあえず、茶碗が売れれば家具屋の営業として、顧客への面目は立つ。

 そうなれば、徹の家にも、この唐鼓にも用はない。

 だが、徹は井光の顔を、ぎらつく目で睨み返した。

 野獣の唸りにも等しい声で、井光を呼び戻す。

「これでしまいかもしれねえだろ」

 再び畳の上に戻ってきた井光は、そわそわと落ち着きがなかった。

 徹の答えを急かすような口調で、いささか突慳貪に尋ねた。

「で、なんぼで買うてくれる言うてますのん」

 それより高い値段を井光がつけないと、この取引は終わらない。

 仕方なくパソコンの前に座る井光の目の前に、5本の指が突き出される。

 その気迫に押されてのけぞる井光に、徹は、重々しい声で告げた。

「50万円」

 1000円から跳ね上がるにしても、限度をはるかに超えていた。

 入札してきた相手の金銭感覚が疑われる。

 あるいは、いきなり高値をつけてでも他の入札者を圧倒し、この茶碗を手に入れたいのであろうか。

 だが、次に入札する井光にはどっちでもいいことである。

 気弱な男が、甲高い悲鳴を上げた。

「今の私には大金ですがな」

 画面から目をそらした井光は、立つこともできなかった。

 しばし呆然としていたが、ようやく我に返ったところで逃げ出しにかかる。

 だが、どうやら腰を抜かしたらしく、尻で後ずさるより他はなかった。

 もちろん、その先には地獄の鬼の形相で、徹が待ち構えている。

 歯を剥いて唸りながら、井光に足止めを食わせた。

「お前が払うわけじゃねえだろ」

 これはあくまでも、オークション後に茶碗を買い取る2番手の入札者、アンダービッダーを作り出す作業である。

 いくらで落札しようと、金を払う必要はない。

 それを思い出したのか、井光はこくこくと頷いた。

「ほうでしたなあ」

 切り替えの早い男である。

 こうなると、その行動は俄然、速くなる。

 娘を呼びに行こうとしたときと同じくらいの勢いで、井光はいそいそとパソコンに這い寄った。

 キーボードを叩くと、入札価格が100万円に跳ね上がる。

 徹が歓声を上げた。

「よっしゃあ!」

 井光も調子に乗って、鼻歌などを歌いはじめる。

 すっかり忘れ去られている応はというと、もはや完全に蚊帳の外であった。

 傑と共にどこかへ行ってしまった友愛のことをきにしているのだろうか。

 それならば、井光の代わりに友愛を呼びに行って、傑から引き離すという手もある。

 だが、おそらく、そんな方法を考え付くだけの余裕はもうないのだろう。

 こういうときは、どんな働きかけも意味がない。

 自分から動きだすまで、放っておくしかないのだった。

 猫は再び、家の外へと出ていく。

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