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第12話 家の前での思わぬひと悶着

 応の家は唐鼓の街の片隅にある、見るかげもなく軒の傾いだ、ボロい一軒家であった。

 たどり着いたところで、応も友愛も、急に足を止めた。

 友愛のカバンの中で、スマホが高らかに六甲おろしの着メロを奏でたからである。

 見れば、家の前では父親の井光が、今更ながらの電話をかけている。

 さっきまで上機嫌だった友愛の顔は、瞬く間に不愉快を露わにした。

 猫の虎徹はそのとばっちりを食うまいとするかのように、応の手の中でじたばた動いて跳び下りる。

 それを開け放しの戸口に待たせた応は、いそいそと家の中に入っていく。

 戸を閉めないと家の中は外から丸見えなのだが、その前に、武智親子はただ、立ち尽くすばかりであった。

 無理もあるまい。

 ここは、純情な少年が初対面の美少女をわざわざ案内してくるような場所ではなかった。

 電話で娘を呼ぶつもりだったらしい井光は、ほとほと呆れたという顔で娘を見つめた。

「年頃の男の子をこないなところに案内させて、なんちゅう無神経な女に育ったんや」

 娘も負けてはいない。

「お父ちゃん、この家、貧乏くさい思うてるからそないなこと言うんや。そういうの、差別っちゅうんやで」

 そう言われると、井光も反論できない。

 応への同情の根拠は、荒れ果てた家の有様にしかなかった。

 ここで正義だの人権だのを持ち出されては、言い返すだけ悪者にならざるを得ない。

 今度は井光が小理屈をこねる番だった。

「そういうこと言うんは、お前かて思うてるてことやないか」

 喧嘩するときの小学生男子と、たいして変わらない。

 こうなると、完全に友愛のペースである。

 娘は、さらりと言ってのけた。

「お父ちゃんの娘やからな」

 こうなると井光も、開き直るしかない。

 自分の家探しがのろいのを、娘のせいにする。

「行くとこ分からへんかったら何でお父ちゃんに電話せえへんのや」

 この甲斐性なしの父親、姿をくらましているうちに、Webページの主を探してはいたらしい。

 ようやく発見して、友愛に電話をかけはした。

 だが、娘はもう、今日会ったばかりの男の子にエスコートされて、すぐ後ろにいたのである。

「うちらここ着いた時に、やっと電話してきたんやんか。どこで何してたん」

 どこまでも、父親を追及しなければ気が済まないようだった。

 父親にしてみれば、地を這うが如く地道な、言い換えれば不毛に近い努力しか誇れるものはない。

「一軒一軒、表札見て回ってたんや」

 それからくだくだと並べ立てたのは、その間の苦労話であった。

 道の端を歩き、ヤクザに遭えば電柱の陰に隠れ、狭い街をくまなく歩きまわったらしい。

 いじましいとしか言いようのない、努力の積み重ねがそこにあった。

 だが、その手間暇も娘に一蹴されてしまった。

「そんな表札なんぞあらへん言うたやないの」

 確かに娘の友愛の言う通りであった。

 今時、どこの家にも表札など掛かってはいなかったのである。

 だが、この家だけは例外だった。

 開け放しの戸口の横には、人の背の高さほどの看板が立てかけてある。

 そこには乱雑なペンキの字でデカデカと、こう書いてあった。


    古道具買います

    石根徹 

 

 目指す相手はここですと言わんばかりである。

 井光がいかに鈍臭くとも、気づかないわけがない。

 ましてや応が、家の中へまっしぐらに駆け込んだのも、当然のことであった。

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