コミュ症勇者と乙女な魔王
初投稿です!つたない文章でお目汚しとは思いますがよろしくお願いいたします。アドバイスやご意見もいただけたらうれしいです!
激しい剣戟の音が響く。
「―イグニート・フレイム!!-」
一帯を紅蓮の炎が
「―ライトニング・テンペスト!―」
いく筋もの雷光が
激しくぶつかりあい爆発する。
最強クラスの魔法のぶつかり合い。
そこに対峙するふたつの影。
一つはまだ幼さの残る少女だった。
美しい装飾の施された純白のブレストプレートに身を包み抜き放たれたロングソードを眼前に構え
相手から一時も視線を外さない。
少女の名はリル・シュナウザー。
その手に持つロングソード、「聖剣・シャインヴァッサー」を扱うことのできる唯一の人間族の勇者である。
リルと対峙しているもう一つの影
闇そのものを織り込んだような漆黒のローブ。
目深にかぶったフードからは不気味な赤い眼光。
壁に掛けられた松明の明かりに照らされた顔は骸骨だった。
その骨だけの手には何とも形容しがたい形状の杖「マギウスユグドール」が握られていた。
この異形の名はザガン。
この世界では魔王と呼ばれている存在だ。
そして今二人が戦っているのがザガンの居城の玉座の間である。
もうかれこれ数時間戦い続けている。
おたがいの力が拮抗しているのか双方決定打を与えるに至っていない。
「あーーーーー!!もーー飽きた!」
突然ザガンが大仰に両手を上げ叫んだ。
リルはびくっと体を震わせ目を丸くする。
「ねえ?!ちょっとあなた、もうやめない?」
魔王という名前とそのイカつい外見からはまったく想像できないオネエ口調でザガンが予想外の提案を
してきた。
リルはその提案よりも魔王の口調に衝撃を受け完全に固まっていた。
「だいたいアタシが何したっていうの?ちょっと強い魔族がいるってだけで噂が勝手に一人歩きして、
魔王とか呼ばれてさあ」
体をなよなよさせながら頬?に手をやり魔王の愚痴が始まった。
「そりゃ勝手に城に侵入してきた冒険者とかちょっと豪快に追っ払ったこともあるわ。
でも人間だって王様のお城の侵入者にお仕置きするでしょ?
このお城だってもともとはここで人間に悪さしていたバンパイアを退治して拝借してるものよ?
感謝されこそすれアナタや冒険者たちに剣を向けられる筋合いはないわよ」
確かにそうだ、とリルは混乱する頭で同意した。
もともとリルは極度の人見知りで人付き合いが大の苦手。
いわゆるコミュ障というやつで部屋の外には滅多に出ず、部屋でひたすら魔法の書物を読みふけっていた。
ひょんなことからたまたま聖剣シャインヴァッサーを使えるというだけで、王から噂だけが絶賛売り出し中だった魔王ザガンを倒してこいと言われただけだ。
大量の古代魔道書をエサに。
「だいたいさあ、アタシは人間界に美味しい食べ物がたくさんあるっていうから遊びにきただけなのよ?
それをしょっちゅう冒険者やらがたずねてきたらおちおち外にもでられないわー」
なおも魔王は続けていた。
「…あなた…オカマなの…?」
リルは絞り出すように蚊の鳴くような声で尋ねた。
「あら、ひどい!体は魔族でも心は乙女なのよ?!」
「なるほど、わからない」
「…って聞くとこそこお?」
なぜだかリルはこのオネエ魔王に親近感を抱いていた。
ザガンの力は本物だ。おそらく本気ではあるまい。
先ほどまでの戦いの中直接リルの命を奪うような暗黒魔法の類は一切使ってこなかった。
「…魔王。なぜあなた暗黒魔法を使わなかったの?あなたなら直接私の息の根を止めることができたはずよ?」
リルの問いにザガンは大げさに肩をすくめる。
「…アタシはね、人間が好きなの。間違っても殺したいなんて思わないわ。アナタみたいな可愛い子なら
特にね。
アタシはね、友達がほしいの。」
魔王が?友達?
「アタシはここから出て世界中を回って美味しいものを食べ歩きしたいのよ。
でも、一人じゃ味気ないじゃない?」
「魔界に友達はいないの?」
リルは剣を鞘に納めながらザガンに問うた。
「一人だけいたわ。すごく優しい魔族。でも…殺されたの。戦争でね。」
「…!ごめんなさい。」
「謝らなくていいわ。魔界じゃ戦争なんて日常茶飯事なの。駆けつけた時には手遅れだったわ。」
ザガンはかぶりを振り少しうつむく。
「…ま、昔の話よ。湿っぽいのはキライよ。んで、アナタに提案なんだけど…。」
ザガンは一呼吸おいて言い放った。
「アタシと友達になって!」
「…は?」
リルは目が点になる。
近隣諸国ではその異形と絶大な魔力から魔王と恐れられ、噂では爆裂魔法の一発で国を一つ滅ぼしたとされるその魔王が。
魔王を打倒す使命を持った勇者である自分と友達になりたいという。
とはいえ人間の友人すらろくすっぽいないリルは友達というものの意味をあまり理解していない。
「…いきなり友達はアレね…ごめんなさい。」
ザガンは照れ臭そうに肩をすくめた。
「さっきも言ったけどアタシは世界中の美味しいものを食べ歩きしたいの。だからアナタ、一緒にいきましょ?人間の世界の道案内もお願いしたいし…。」
「…王様には貴方を倒してこいといわれてるし、前払いで古代の魔道書もらっちゃてるし…。」
いまさらザガンと剣を交える気はないがすでに魔道書を受け取っているという後ろめたさがリルに歯止めをかけていた。
「古代魔道書?そんなのアタシがいくらでも読ませてあげるわ。なんなら神代の魔道書もあるわよ?」
「なん…だと?」
リルはあっけにとられた。
…神代の魔道書。世界の創造にも関与するといわれる魔道の根源を記したとされる伝説の魔道書。
これを手にすることは世界そのものを手にすることと同義とさえ言われている。
あくまで伝説の中でのみ存在し、実在するものでないといわれている。
「…えっとたしか…」
ザガンはローブの袖口をごそごそとさぐりそこからさまざまな武器やら絵画やら壺やらを放り出し、
あれでもないこれでもないとやっていた。
無造作に放り出されたそれらはおよそ美術品や骨とう品に全く興味のないリルさえとんでもない値段がつくであろうものであることを容易に想像できた。
「…あったわ!神代の魔道書のひとつ、『ゴエティア』ね。お近づきの印にどうぞ。」
ザガンはあまりに軽いノリで差し出すのでどうせ偽物だろうとリルは受け取った。
しかしその魔道書に触れた瞬間、信じられない量の魔力が流れ込んできた。その衝撃でリルは数メートル
後方へ弾き飛ばされてしまった。
「ほ、本物…なの?」
「ちょっと!だいじょうぶ?アナタほどの魔力の持ち主なら読めると思ったのだけれど、ごめんなさいね」
ザガンはリルを起こしながら謝った。
「まあ、魔道書の類なら大体そろってるしアナタの興味ありそうなの見繕って読ませてあげるわよ」
リルはいまさらながら魔王ザガンの凄さを実感し、そんな強大な力を持ちつつも世界征服などではなく
食べ歩きをしたいと願う彼のアンバランスさに思わず吹き出してしまった。
「…いいわ。一緒に行きましょう。友達…にもなってあげる。私の名前はリル。リル・シュナウザーよ。」
完全に毒気を抜かれたリルは自分でも驚くくらい素直に答えていた。
「ほんと?!やったわーー!アタシはザガン。セカンドネームはないわよ♡」
ザガンは飛び跳ねるほどに喜び骨だけのはずの体をくねくねとさせる。
「さっそくだけどリルは何食べたい?」
「肉。」
即答だった。
「…んー。肉ねえ…。リルはなにか情報もってない?」
「ここからしばらく南下したアシュレー山脈の麓にアルティカっていう村があるの。
そこのアルティカ牛の炭火焼きステーキが食べてみたい。程よく脂の入った肉は柔らかくて、口に入れた瞬間溶けるほどらしいわ。」
「おおおお!」
ザガンは興奮のあまり魔力を体から噴出させる。
「決めたわ!!まずはアルティカ村を目指すわよ!道案内まかせたわリル!」
「…まかされた。」
かくしてオネエ魔王ザガンとコミュ障勇者リル、世界最強と言える奇妙なコンビの世界食べ歩き紀行が
ここに始まったのだ。
「…さすがにこのままじゃまずいわよねえ…。」
城を出ると気持ちのいい晴れ渡った青空が広がっていた。
そんな青空の元、漆黒のローブをまとった骸骨が散歩していたらちょっとした事件だ。
「…変化の魔法は使えないの?アンデットと一緒に歩いていたら私も討伐対象になりそうで嫌なのだけれど…」
リルは鎧の上から外套を羽織りながらつぶやいた。
「あら。この姿がすでに変化よ?この姿のほうが城に侵入してきた冒険者がビビるでしょ?」
宝目当てで