19話 苛立ちと出会う悪魔乗り
綾乃は無事目覚めるとすぐに美月の元へと向かおうとした。
しかし、それは叶わずある女性と出会う。
彼女は理不尽を絵にかいたような人物で……。
綾乃は連れ去られるようにシミュレータールームへと向かうのだった。
「訓練でもする訳?」
綾乃は呆れ声でそう言うとシミュレーターマシンを見つめます。
すると女性は「ふん」と鼻で笑うと……。
マシンへと手を乗せました。
「このマシンの技術は凄い、日本人はよくこういったものが作れると感心した」
彼女はそう言いますが、その態度では褒めているとは考えにくいものでした。
「だが、まるで意味が無い」
それを証明するかのようにバンッ! とマシンを叩き声を張り上げます。
「ちょっと、それ精密機械なんですけど? 壊れたら弁償も――」
「だからなんだ? 嘗ての戦闘を再現し、残す……それは良い、だが敵にはAIが積まれておらず同じ行動を繰り返す! そんな単純な物が訓練になるのか? 憶えてしまえばそれで終わりじゃないか」
彼女の言葉はまさにその通りでした。
違う点としては多少のAIは摘まれており、戦闘が始まってからは状況に応じて違った動きをすることもあります。
ですが、最初の出現位置、行動はパターン化されており、覚えてしまえばその時点で対処が出来てしまうのです。
彼女の言っている通り、訓練になるのは最初だけ……。
「それは……」
だからこそ、天使を対処するための訓練は……矛盾してしまいますが、実戦の他ないのです。
「この技術は凄い、それは言える……だからこそ、それを使って訓練をする」
「えーっと?」
ですが、続く彼女の言葉に綾乃は顔を引きつらせます。
さっきから言ってることがころころ変わってるけど、何が言いたいの?
「貴様にはこれから私との戦闘訓練を行ってもらう、攻撃を当てろとは言わん避けて見せろ」
「はい?」
綾乃が聞き返すと彼女は苛立った様子でもう一度口を動かす。
「つまり、私と戦え、そう言っている」
「………………」
綾乃は固まり、目を見開きます。
そして、暫くすると――。
「はぁぁぁぁああああ!?」
と声を上げるのでした。
やけに外が騒がしい……そう思いながら少女は持ちあがらない瞼に困惑します。
どんなに体に力を入れようが動かないのです。
どうしたんだろう?
そんな事を考えながらも彼女は不安に襲われました。
ですが、それもすぐに解消されました。
頭からなにかが外された感覚がし、美月はゆっくりと瞼を持ち上げてみます。
おそる、おそる……としたその行動でしたが、どうやら、器具を付けられていたから目が開けれなかったようです。
「……あれ?」
見れば身体中に色々な器具が取り付けられていました。
「良かった無事でしたね」
「っ!?」
その声を聞くと彼女は恐ろしく、身を縮こませました……しかし、声の主は心の底から美月を心配していたようです。
いつもよりも優しい顔でした。
「あ……えっと……」
「美月さんは帰って来てからずっと起きなかったんですよ」
そう言うと彼女は医師の指示に従い危惧を外していきます。
最後に美月が起きれるようにリクライニングを操作し……彼女の顔を見て悲し気な表情を浮かべました。
美月はその意味が分かりませんでした。
ですが、それに対し彼女は――。
「額に傷が残ってしまうと思います……大きな傷ではなかったのですが……どうしても……」
「あ……」
それを聞き、美月はゆっくりと顔を下に向けました。
美月は女の子です。
その言葉にショックを受けない訳ではありません。
「そう、ですか……」
ですが、それも一瞬……魔法で治せばいいのです。
そう思った彼女でしたが……。
「暫く魔法の使用を控える……いや、使うな」
「……え?」
「人を助けるのも駄目だ」
そう口にしたのは医師です。
彼は美月の前へと座り込むと彼女の顔を覗き込み告げる。
「ミュータントとの適合率がさらに高まっている……今までにない数値だ。これがどういった影響を与えるのかが分からない。危険だ……魔法なんて使うべきじゃない」
「で、でも……ジャンヌダルクは?」
魔法を使うなと言う事は魔法を使い動かすマナ・イービルに乗るなと言う事でもあります。
それに気が付いた美月は医師に喰いかかりますが……。
「君はあんな目に遭ってまだあんな機械に乗りたいのか? 次は無いかもしれないぞ? 人間の考えではないな」
「――それは」
怖い。
そう言ってしまえばそれだけで済みます。
ですが、美月は頭をぶんぶんと振り……。
「私がやらないと綾乃ちゃんや新谷さん……リンちゃんも天使に……!」
その言葉に対しイラついたように溜息をついた医師。
良く見なくても美月が知らない人でした。
前に居た人はもっと人が良さそうなおじさんでしたが、今目の前にいる人は怖い顔でした。
「天使天使……あれが本当に天使なら神は我々を見放したという訳だ。諦めればいい」
「申し訳ありませんが! それは違うと思いますよ岡田先生!」
吉沢は今の言葉に反感を持ったのでしょう、怒鳴り声に近い声を出しました。
美月もビックリしましたが、岡田と呼ばれた彼は……。
「そもそも、あの機体だって危険な物だ……背骨でクッション代わりにと言ってはいるが、完全ではない……君は危険だと知ってそんなものを許可するのか? そもそも君は医師ではないだろう? 前の者は勝手をさせていたみたいだが、これは私の医師の判断だ」
そう言われてしまうと吉沢は黙るしかありません。
「分かったな? 今後一切魔法を使うな」
彼の言葉よりも悔しそうな表情を浮かべる吉沢を見て、美月はふと疑問を浮かべます。
「前のお医者さんは?」
「ああ、春原医師か……彼はもう居ない。イービルの有用性、真の適合者……そして魔物の危険性、様々な事を憶測で提出したからね、政府からの依頼で解任……クビだよ」
彼はそう言って面倒そうに溜息をつきます。
そして、美月へと目を向けると……。
「命だけは助かった……それでよかったと思うべきだな」
美月はあまり怒ったことがありませんでした。
ですが、彼の態度に対しては苛立ちを覚えました。
「そうですか、ありがとうございます」
自分でも驚くほどぶっきらぼうに言った言葉。
彼女はふらつきながらも立ち上がり、苦手で恐ろしいと思っていた吉沢へと目を向けます。
「あの、部屋に連れてってくださいお母さんに顔を見せたいので」
「駄目……まだ、病み上がりなんですよ? 急に動いちゃ」
そう言う吉沢に溜息をついた美月は――。
「写真、今度撮って良いですから……早く」
それは彼女にとって魅力的な言葉だったのでしょう。
彼女は思わず美月の手を取り――。
「何をやっている……馬鹿なのか?」
そう言いつつも止める気が無いのでしょう。
医師は溜息をつき……二人を見送ります。
美月達が部屋を出る間際……。
「化け物の考える事は分からん」
と言うつぶやきが聞こえました。
美月は思わず立ち止まりますが……。
「…………」
何も言わず彼のいる部屋から立ち去るのでした。




