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16話 様々な思いを持つ悪魔乗り

 傷つき動けなくなってしまった綾乃。

 彼女を助けたのは意外な人物だった。

 普通のイービルを動かす彼はそうとは思えない程の動きを見せ天使達を狩る。

 そして……その姿はまさに悪魔そのものと言って良い物だった。

 日本支部へと着いた新谷達。

 しかし、新谷はすぐには降りませんでした。

 彼は天使のような悪魔に乗っていたパイロットが降り、綾乃をナルカミから降ろしているのをコクピットの中で見ていたのです。

 ブロンドの髪を持つ女性は長い髪を揺らしながら綾乃を運んでいきます。

 そして、コピスの前で立ち止まると……。


「………………」


 鋭い視線を機体へとお送り、駆けつけた医療班へ綾乃を預けました。


「降りんのか? それとも降りれないのか?」


 綾乃が連れていかれたのを確認した彼女はそう口にします。

 ですが、新谷は何も答えません。

 彼は薄暗いコクピットの中で……口元を押さえるだけです。


「おい! クラリッサ、そこまでにしておけ」


 伊逹は彼女にそう呼びかけます。

 クラリッサ、それが彼女の名なのでしょう。

 ため息をついた彼女は……。


「死神と契約した、その報いだ……貴様には丁度良いだろう、だが……その所為で救われん者が居る事を忘れるなよ」


 そう言って、彼女は身を翻しハンガーから去って行きます。


「ったく、あいつは……」

「良い、んだ……伊逹さん」


 新谷が出した声はかすれていました。


「だがな……」


 良いと言われても納得は出来ないのでしょう。

 伊逹は反論しようとします。

 しかし、新谷はコクピットを開け……彼に直接言いました。


「僕が……僕の所為で……アドルフは死んだんだ」

「……お前」


 そこに居たのは口から血を流す新谷の姿。


「降りんのか? それとも降りられないのか? か……」


 彼はそう呟き、口元を拭います。

 彼女が言った言葉の意味はもうすでに分かっており……答えも決まっているのです。


「死ぬまで、降りないさ……」







 ハンガーを出た女性は大きな足音立てながらもまるでモデルの様に歩きます。

 目的地は支部の司令官、姫川の所です。

 その途中、彼女は立ち止まりました。

 先程のやり取り、それは彼女の心にも少なからず影響を与えていました。

 そして、胸にあるロケットへと手を伸ばしかけ、目を閉じると……。


「ふんっ……! そうだな、お前はきっとそう言うはずだ」


 そう呟き、伸ばしかけた手を止め再び歩き始めました。

 彼女がここに来たのは理由があるのです。

 だからこそ、足を止める訳にはいきません。

 司令官のいる部屋の扉を潜った彼女は……。


「久しいな、死神」


 と彼を睨みながら口にします。


「君か……クラリッサ・ブラウニング」


 司令官は彼女を見るものの死神と言われた事に関しては気にする事も無いと言った態度でした。

 それに対し、苛立ちを覚えたのでしょうクラリッサと言う女性は……。


「まだ死にぞこないの悪魔に頼っているようだな?」

「新谷の事か? 彼が居なければ我々は滅びるだけだ……それに……」


 クラリッサは彼の冷めた瞳に一歩後ろへと下がります。


「君だって同じだろう? ただの人間では限界を感じ危険を冒し、手術を受けた……自分の意志ではなく国の意志として……」


 彼の言葉は彼女が普通の人間ではない事を現すものでした。


「貴様の様に死ぬまで使いつぶすつもりは祖国にはない!」


 彼女はそう吼えますが……彼は溜息をつきます。


「それは此方だって同じだ……だが、彼をどうやって止める? どうやって悪魔から離す? 彼はアドルフと言う名の亡霊に取りつかれているんだぞ?」

「――――――っ!?」


 それの言葉を聞き彼女は司令官へと飛び掛かります。

 ですが――それはあっさりと抑えられてしまいました。


「以前の君ならば、私の首を取れただろうな」


 そして、そう呟かれ、目を見開いた彼女は怒りをあらわにします。


「今日話しに来たのは悪魔の事だ……アイツを彼の親友を機体から降ろせ……」

「それは出来ない、してしまえば彼は己の罪に苦しむことになる」


 願いに対し否定をされたクラリッサはますます怒りで顔を赤くします。

 ですが、そう返って来る事はある程度は予測していたのでしょう。

 彼女は大きく溜息をつくと……。


「そうか、なら、ジャンヌダルクのパイロットは何処だ? 彼女を鍛える……ついでに貴様の娘、駄犬の方もな」

「…………なるほど、それが君の本当の考えか?」


 彼女はその問いには答えませんでした。

 それはそうでしょう。


「……必要があるか?」


 答える必要なんてありません。

 彼女はそうすべきだと考えているからです。

 何故なら……。


「彼ならそうした、そう言った……例え、女性を死地へと送るのだとしても帰って来られるようにな……」


 司令官を睨むクラリッサ。

 そして、睨まれた彼は……。


「分かった、だが良いのか? 国の方は……」

「問題ない、すでに完成している……堕天使(アンゼル)共の対策が出来ていないのは貴様等ぐらいなもんだ」


 彼の質問へそう答えたクラリッサは溜息を付いた。


「それで、何処だ?」

「今は医務室だ……彼女は前回の戦いで傷を負って今も目を覚まさない」


 それを聞き、再び烈火が灯った様な瞳を男へと向けるクラリッサ。


「貴様はそうやってまた!!」

「……なんと言ってくれても構わない、彼女が傷を負ったのは私の責任だ」


 ギリリと音がなるほど歯を食いしばった彼女は身を翻す。

 そして――。


「ならば医務室へと向かう、駄犬もいる事だろうしな」


 そう吐き出すように言葉を残し去って行くのだった。

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