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15話 英雄と言われた悪魔乗り

 天使との戦いの中、死を感じた綾乃。

 だが、彼女は死ねないという事を強く考えた。

 約束だ……それを守らなきゃいけない。

 その思いは彼女を動かし、傷ついた身体と機体で戦うのだった。

 鬼……。

 まさにその言葉がふさわしい程の戦いぶりでした。

 片腕が使えない綾乃はそれでも敵の武器を奪い天使をなぎ倒していきます。

 1対多数。

 普通なら不利でしょう。

 いや、不利でした……。

 ですが、彼らは知らなかったのです。

 単純な事を……それは手負いの獣が一番恐ろしいという事。

 同時に綾乃は気が付いていませんでした。

 彼女もまた頭を打ち、重症だという事に……。


「はぁ……はぁ……いける、あと……あと2――っ!?」


 怪我をした直後は人間は冷静になります。

 痛みを感じていては生存に関わるからです。

 本能です……ですが、痛みが消えたわけではありません。

 身体が勝手に痛みを感じないようにしてくれているだけです。

 その為、奇妙な話ですが怪我の直後、人は興奮状態なのに冷静になるのです……。


「っ!? ――っぅ」


 綾乃もまたそうであり、人である以上痛みを思い出します。


「あ、ぅ……くぅ!?」


 動けない。

 彼女は痛みを思い出し、機体を止めてしまいました。

 どうやら打ったのは頭だけではなかったようです。

 肩に腕、背中、腰と……身体中が痛みを訴えました。

 懸命に戦おうと身体を動かしますが、その度に激痛が襲い彼女は動けなくなってしまったのです。

 すると天使達はそれを好機と思ったのでしょう……。


「きゃぁぁあああああ!? が!? ひゅ!?」


 轟音が鳴り響くと彼女の機体は倒れます。

 銃持ちはまだ居たのです。

 倒れた衝撃でまた身体を打ちました。

 ですが、もう彼女の身体は痛みを訴えるだけで動いてくれません。


 ああ……やっぱり、此処で終わるんだ。


 約束を守れなかった……。

 そんな後悔だけが綾乃の中に生まれました。

 もう、どうしょうもない。

 そう思っていた時、遠くから雷鳴が響き……銃持ちを貫きます。

 一体なにが起きたのか綾乃には分かりません。

 同時にもう一機が動き、ナルカミへと迫ってきました。


 助けが来た? どっちにしても、もう……。


 綾乃はゆっくりと瞼を閉じます。

 すると、金属がぶつかり合う音が聞こえました。

 なんだろうと辛うじて動く瞼を動かすと……。


 新谷……さん?


 コピスが彼女を守るようにして立っていたのです。


「下がれ!!」


 そう声が聞こえましたが、もう動けません。

 それを察したのでしょう舌打ちが聞こえ……。


「仕方がない」


 彼女は初めて見る事になるのです。

 何故、彼が英雄と呼ばれたかを……。

 そして、何故それを隠すのか新たな疑問も生まれました。


「コピス!! 討つぞ!!」


 いつもよりきつい口調で叫ぶ彼は通常のイービルとは思えないほどの速度でコピスを動かします。

 そして、銃を手にすると関節へと銃弾を叩き込みます。

 それはありえないとすら思えるものでした。

 何故ならコピスは通常のイービル。

 その武器では背骨を断つ事は難しいとされていました。

 ですから、関節を狙い相手の自由を奪った後一本のブレイバーで何度も叩き壊す。

 それが彼らの戦い方なのです。

 その為、ブレイバーは切る為ではなく叩く為の鈍器であり、盾に出来る程丈夫であるのもそれが理由です。


「おおおおおおおおおおお!!」


 咆哮をあげながら右腕、左腕……右足と自由を奪い、天使が崩れるとブレイバーを振り下ろします。

 何度も、何度も……相手が動かなくなるまで……それはまさに悪魔と言って良い物でした。

 それでも彼はブレイバーを背骨目掛けて振り下ろし……。

 最後に動かなくなったソレのコクピットを破壊します。


「……はぁ、はぁ」


 息も絶え絶え、ですが……敵はまだ一機残っています。

 そちらを睨むと再び轟音が鳴り響きます。

 すると今にも新谷を撃とうとしていた銃持ちは奇妙な事に何かに衝撃を受けた様に大きくぐらつくと……大きな音を立て崩れるのでした。


「…………」


 彼は辺りを見回し、丁度良い高台を睨みます。

 すると真っ白な天使が立ちあがりました……。

 一瞬身構える彼でしたが、その天使が手を叩き、大げさな態度で褒めたたえるような動きをしたことで警戒を解きます。

 綾乃は反応できません、恐らくは気絶してしまっているのでしょう。

 そんな彼女が心配にはなりましたが、まずは目の前の天使です。


「|Distraction is a devil《流石は悪魔だ》」


 凛とした声で聞こえていたのは女性の声。

 それを聞き、新谷は溜息をつきます。


「|When are you in Japan?《いつ日本に?》」


 同じく英語で返すと鼻で笑ったのが通信越しで分かりました。


「ついさっきだ、そこの駄犬が意地を見せた所を偶々見かけてな、殺すには惜しい犬だ。ちゃんと鍛えれば地獄の門番(ケルベロス)は無理でも、番犬(オルトロス)程度にはなるだろうな」


 流暢な日本語で皮肉気に言ったその言葉は綾乃が聞いていれば怒っていたでしょう。

 ですが、それが彼女の精一杯の褒め言葉なのです。


「そうか、それは本人には言ってやるなよ?」

「何故だ? 褒めているのだ、悪魔である貴様同様にな」


 彼女は新谷の近くへと機体を動かします。

 見れば見る程悪魔ではなく天使をにおわせる機体。

 それは彼女の祖国だからこそでしょう。


「よくもまぁ、その機体で無事なもんだ」

「当たり前だ、我々は我が父の加護により守られている。偽りの父を持つ奴らとは違うんだ。例えるならそうだなオーパス・ワンと安いハウスワインぐらいにな」


 彼女はそう言いますが、新谷にはいまいちよく分からない例えです。

 そもそも、今ではワイン自体が現地でなくては飲むことも難しいでしょう。


「そ、そうか、とにかく……今はこの子を運びたい、手を貸してくれ」

「そこに居るのは女だろう? 貴様は女一人運べない位、腑抜けてしまったか?」


 彼女はそう言いつつも綾乃を運んでくれるのを手伝ってくれるようです。

 そして、声を潜めるように問いました。


「大丈夫なのか?」

「……ああ、いつも通りだ」


 その会話はきっと二人にしか分からないのでしょう。

 舌打ちをした女性は……。


「そうか、そのいつもどおりが一番……いや、何でもない」


 そう言うと二人は綾乃を日本支部まで連れて行くのでした。

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