14話 鬼と言う名の悪魔乗り
友人を助けられない事に心を痛める綾乃。
だが、そんな時に天使の襲来を告げる警報が鳴り響く……。
彼女はナルカミへと乗り込み天使を狩り殺すと口にするのだった。
「目標……居た!!」
綾乃は低い声でそう言うとスコープの中を睨みます。
天使はまだ気が付いていません。
「――っ!」
そして、敵が背を向けた瞬間、綾乃の超大型スナイパーライフルは轟音を響かせます。
当然、辺りに響く音に天使達は警戒していました。
しかし、そのうちの一機は吹き飛び……。
「仕留めた……」
綾乃はそう言うとその場から動きました。
スナイパーは一度撃ったら移動すべきだからです。
ですが、今撃った場所ほどいい所が無いのもまた事実でした。
「残りは……」
彼女はそう呟くと美月の顔を思い出します。
そして、苦虫をかみつぶしたような顔をしました。
まどろっこしい! 突っ込んで壊せばいいのに!
そう思っていました。
それでも彼女がそうしない理由。
それは……。
でも、美月との約束がある。
絶対に生き残る、狩って狩って狩って、生き残らなきゃ……。
美月はまだ目覚めません。
ですが、起きた時に綾乃が居なかったらきっと悲しむ程度では済まないでしょう。
綾乃はそれを分かっていました。
だからこそ、彼女は生にすがり付こうとしています。
ですが、美月を守れるなら自分が壊れようがどうでもいい。
彼女はそうも考えていました……。
天使さえ壊せるなら、自分が人間である必要が無い。
復讐が果たせるのなら、それで良い。
兄の直接の仇ではないとしても、彼ら天使が来たからこそ兄は死んだ……そう思っているのです。
事実、天使が来なかったら兄は死ななかったでしょう。
事実、美月が居なかったら父も助からなかったでしょう。
だからこそ、綾乃は美月の言葉も守りたいと考えるようになったのです。
「美月、待ってて……こいつらを壊したら、すぐに帰るから」
ですが、彼女は気が付きませんでした。
以前の戦いで傷ついたのは何も美月だけではなかった事に……。
彼女は気が付いていないのです……。
大切な友人があんな目に遭い、彼女の心には目に見えない傷が出来ていた事を……。
だからこそ、冷静さが無くなり気が付けなかったのです。
それ故に彼女は先走ってしまいました。
本来であれば一緒に出撃するはずの新谷もここには居なかったのです。
イービルは衝撃を受け、その場に倒れます。
何が起きたのか、彼女には分かりませんでした。
コクピットの中でガンッと頭をぶつけ、生暖かいものが頬を伝う感覚だけがぼんやりと伝わりました。
あ……頭を打ったんだ。
そんな事を考えていると彼女は美月の事を思い出します。
美月も同じ目に……美月を……。
「助けなきゃ、守ってあげなきゃ……」
ぶつぶつぶつぶつぶつ……彼女は繰り返しながら呟きます。
そして、機体を立ち上がらせると左腕が動き辛い事に気が付きました。
先程の衝撃はどうやら狙撃されてしまったようです。
綾乃はすぐに銃を構え、撃ってきたであろう天使を捕らえ撃ち抜きます。
すると今度は狙撃の衝撃の所為でしょう左腕が壊れ完全に動きません。
更には天使には増援が来ていました。
目の前には天使、銃は使えない。
かと言って超大型ブレイバーも左腕無しでは使用できません。
迷っている内に天使が彼女へと向かってきます。
あ……。
終わった。
彼女の中でそう答えが出ました。
「…………」
不思議な程ゆっくりと流れていく光景。
彼女はそれをぼんやりと眺めていました。
そういえば、前は……美月が助けてくれたんだっけな。
そんな事を考えますが、今回は無理でしょう。
助けに来てくれたとしてもコピスです。
魔法を使い速度をあげれたジャンヌとは違い、急いで出撃していたとしても間に合う事は無いでしょう……。
死ぬんだ……。
そこまで考え、彼女は美月が涙を流しながら怒ってくれた時の事を思い出しました。
死ぬ?
ここで終わる。
そう確信していました。
死んだら……泣かせちゃう。
ですが、約束があります。
死ねない……死ねない…………っ!!
「死ねるもん、かぁぁぁぁぁぁああああ!!」
以前とは違い背骨も下肢も無事です。
武器は無い、いえ……たった一つありました。
片手でも使える鈍器が………。
綾乃はナルカミに大型スナイパーライフルの銃身を握らせます。
そして――。
「ああああああああああ!!」
咆哮をあげながら加速し、天使の背後へと回ると背骨目掛け叩きつけました。
鈍い音共に砕ける背骨と銃。
今度こそ武器はありません。
ですが、敵から手頃な剣を奪うと次の天使へと向かって行きます。
まさか、反撃をしてくるとは思っていなかったのでしょう。
天使はその場から慌てて避けようとしますが……。
「――させない!!」
剣を頭部へと向け投げる綾乃。
それは吸い込まれるように飛んでいき、的へと当たります。
頭部が壊れ、同時に撒き散らされるのは人の血と同じ赤い液体。
恐らくはそこに天使のパイロットが居るのでしょう。
ですが、そんな事は綾乃には関係ありません。
「次――!!」
生き残る為に、新たな剣を拾い……天使を狩る。
アタシは……美月の為に……生きなきゃいけないんだ!!
それが、彼女が今考えている事でした。




