9話 刃を振る悪魔乗り
天使と魔物。
その両方を相手にしなくてはならない状況に新谷はしんがりを務めると言い始める。
だが、それは美月と綾乃から見て自殺行為だと思わせた。
彼女達はその命令を聞かず、立ち向かう事を選ぶのだった。
美月達が戦う覚悟を決めたと同時、再び轟音が鳴り響きます。
「美月!!」
それを聞き咄嗟に叫ぶ綾乃。
同時に美月はコントロールオーブを握る手に力を籠めました。
『魔力増幅確認、プロテクションフィールド展開まで後5秒…………展開』
銃を持っていない方の腕を前へと突き出す美月。
すると天使の銃弾は見えない壁によって弾かれていきます。
「よし、そのまま!! 維持して、魔物が来たら銃で対処!」
「う、うん!」
綾乃の言葉にしがたい美月は頷きます。
狙撃を行うには距離が近すぎですが、今はそんな事を言っていられる時ではありませんでした。
しかし、魔物は非常にも綾乃を狙い向かってきました。
「――っ!!」
美月はそれを銃で阻害しますが、先程の様には当たりません。
「は、速い……」
それでも銃を撃つ事で邪魔をし、綾乃は――。
「良いよ、壁を取って!!」
その声と共に美月は銃をしまいつつプロテクションフィールドを切ります。
『魔力消失、プロテクションフィールド展開終了』
無機質なアナウンスと共に美月達を守ってくれるものは消えてしまいました。
ですが、同時にまるで雷鳴の様な音が二回鳴り響きます。
綾乃のナルカミが持つライフルが天使を狙い火を吹いたのでしょう。
「よし! 位置がばれてても、二回なら――!」
本来狙撃とは敵にばれていない場所から行うものでしょう。
ですが今はそうは言っていられません。
だからこそ、綾乃は一発目を囮にしたのでしょう。
彼女の声はそれが成功したというのが分かるほど弾んでいるのが分かりました。
「このっ!」
一方美月はブレイバーを手に魔物へと向かっていきます。
ですが、速い相手であり、美月では追いつけません。
「きゃぁ!?」
そして、魔物は美月のイービルへとその触手を伸ばしてきて、彼女は捕らえられてしまいました。
「美月!!」
すぐに綾乃が助けに来てくれようとしましたが、彼女も天使の攻撃を避けながらでは厳しいものです。
「夜空ちゃん!! 今――!!」
すると新谷が動き、ブレイバーで触手を切り落としました。
「し、新谷さん……」
「女の子二人が戦ってるんだ、僕が何もしない訳にはいかないだろ?」
「馬鹿じゃないの!? この状況で男も女もないでしょ!?」
新谷の言葉にそう突込みを入れた綾乃でしたが、彼女はコクピットの中で笑みを浮かべています。
正直二人で戦うのは辛かったのです。
「魔物は僕が抑える……天使でないなら、僕でもなんとかなるはずだ……事実こいつで切れたからね」
そう言ってブレイバーを動かす新谷。
それに対し美月達は――。
「はい!」
「分かった!」
と答えます。
二人は天使へと目を向け、飛び立ちます。
ナルカミの手には超大型ブレイバー、ジャンヌダルクは大型アサルトライフルを構えていました。
「美月! 右から3番目、右腕――!!」
「うんっ!」
綾乃の指示に従い、美月は標準を合わせます。
相手は動く……シュミレーターで練習した通りに行く訳はありません。
それでも美月は――狙います。
「美月、右に修正! 2時」
「えと、2時……っ!」
それは美月達がシュミレーターの中で練習していた方法です。
2時とは言葉通り時計の針の位置を示すモノで告げられた方向に対し行動をすると言うものでした。
例えば今の場合銃口を2時方向に修正して欲しいという意味です。
「ふぁ、ふぁいあ!」
たどたどしい言葉で美月は銃を放ちます。
それも綾乃との特訓での成果の一つ。
戦場で仲間と一緒に戦う以上、邪魔になってはいけません。
だからこそ、後衛である美月は何時、どのタイミングで何処に向かって銃や魔法を撃つのかを綾乃が前に出ている時は伝えるようにするという約束だったのです。
すると綾乃は前へと真っ直ぐに飛び、ブレイバーを構えます。
彼女は美月が銃を撃つ前から天使へと近づいていました。
だからこそ、天使へと接敵をし、ブレイバーを振り抜きます。
当然天使は避け剣を振り上げるのですが……。
「右腕、貰った!」
綾乃はそう呟くと……美月の放った銃は見事に天使の右腕関節部分へと命中します。
同時に振り上げた剣は地面へと落ちます。
「こ、のぉぉぉぉぉぉぉ!!」
ここがチャンスとばかりに綾乃は呆然としている天使の背後に回り、その大きすぎるブレイバーを背中へと叩き込みます。
めきめきと言う音が鳴り響き、天使の背骨は破壊されました。
そう、天使達にも背骨があるのです。
それを意味するのはパイロットが居るという事ですが、彼女達にとっては天使はただの侵略者。
敵です……。
「美月!! ナルカミ正面、9時――!! 風を起こして!!」
「う、うん!」
仲間を倒されたことなど気にする事ではない。
そう言うかのように次の天使が綾乃へと向かって襲い掛かります。
ですが、彼女の指示通りに美月は――。
「『テンペスト展開』」
魔法を放ち、彼女を守りました。
ですが――。
「っ!?」
自分の近くに来ていた天使を見て、美月は慌ててオーブへと魔力を籠めます。
『プロテクションフィールド展開』
「――っぅ!?」
魔法が発動すると美月を頭痛が襲います。
続けて何度も魔法を使っているためでしょう。
幾ら魔力多い美月にとってもそれは厳しいものでした。




