8話 聖女と鬼人の悪魔乗り
美月達は出撃をし関東03へと急ぐ。
多くても4機だろう……それでさえ勝てるか分からない……そう思っていた美月達だったが、そこに居た天使は6機。
2機でさえ苦戦する美月達だったが、逃げる事は選択肢にはなかった。
引き寄せて戦おう、新谷がそう提案した時……魔物がタイミング悪く出て来てしまう。
そして、魔物はあろうことか守るはずの市民へと攻撃し始めたのだった……。
「嘘!?」
確かに銃弾は当たりました。
それも頭に命中したはずです。
「おかしくない!?」
綾乃は悲鳴をあげます。
それもそのはず相手は魔法生物、魔物。
つまり、ミュータントを寄生させている生物のはずです。
「どういうことだ? あいつらは体力が減っていないのか!?」
そう、人間では見られる身体能力及び体力の低下。
それが魔物には見られません。
それどころか銃を頭に受けて尚も動くさまは……。
「ゾンビか……」
新谷がつぶやいたその言葉そのものでした。
その魔物は撃たれた所を痛がる素振りは無く、美月達を敵と判断したのでしょう。
美月達の方へと向かってきます。
「こ、こっちに来ました!?」
途中、変化が起きました。
ぼこぼこと皮膚の下が暴れ出し、そこから突き破ってきたのは触手。
それを美月の乗るジャンヌダルクへと伸ばしてきます。
「こんのぉ!!」
綾乃は迫る触手を超大型ブレイバーで叩き切ります。
ですが、敵は魔物だけではありません。
轟音が聞こえ、同時に新谷がブレイバーを盾の様に構えます。
そう……本来の敵である天使は美月達に気が付き、攻撃を開始してきたのです。
「まずい! 一旦引くぞ」
「でも、街の人が……」
助けないと! 美月はそう思いましたが……。
「無理無理無理! 敵が多すぎるよ!!」
綾乃は初めて焦ったように声をあげます。
今まで単独で襲ってくる事が多かった天使は群れをなし……。
本来その天使を倒すための魔物は人々を襲った。
最悪の状況が彼女達を襲っているのです。
「逃げるしかない! 撤退も作戦の内だ!」
新谷は叫び、その場にとどまります。
「君達は早く行け! しんがりは僕が受け持つ!」
そう叫ぶ彼を見て美月の脳裏に浮かんだのはコピスが故障した原因でもあるあの時の事です。
「う、後ろは私が守ります!」
今度こそ新谷は死ぬかもしれません。
そう思うと美月は口が勝手にそう叫んでいました。
「駄目だ! ジャンヌとナルカミの2機は温存するんだ! 悔しいが量産型のこいつとは違う! 二人が切り札だ! しんがりを守るのは老兵の役目だ」
「老兵って新谷さんまだ若いじゃん!」
何故老兵なんて言葉を使ったのか、二人は疑問でした。
ですが、新谷はそんな二人の疑問に答える訳もなく……。
「良いから行け! ここは僕に任せるんだ!」
そう叫びましたが、二人は動けませんでした。
当然です……。
「いや、尚更っしょ……?」
天使は魔物に襲われた時も仲間を助ける事は無く、ただひたすらに破壊行為に及んでいました。
つまり、目の前にあるのはただの廃墟……もう悲鳴が聞こえません生きている人を探す方が難しいでしょう。
そして……。
「駄目だここは街だぞ!」
「でも、どうやって逃げるんですか? 新谷さんしんがりを任せろってそれって死ぬって事じゃないですか!!」
美月は堪らず叫び声をあげました。
事実、彼の言った通りジャンヌダルクとナルカミの二機は天使に通用する機体。
しかし、コピスはただの量産型……天使に通用するはずがありません。
彼に後を任せた結果なんてすぐに理解出来ました。
「…………」
その証拠でしょう、彼は黙り込みます。
「悪いけど、もう人が残ってるとは思えない……あたしは此処で暴れるから!」
「あ、綾乃ちゃんそれはちょっと……」
まだ生きている人が居るかもしれない。
美月はそう思いましたが、黙々と立つ黒煙を見ると綾乃の言葉もあながち間違いではないと考えます。
ですが、かといってそれで暴れるという事は美月にはできませんでした。
「じゃぁどうするの? 逃げるには誰かが足止めする必要あるっしょ? あたしは出来ないよ? 美月と約束したから」
「……ぁ」
約束……それは恐らく無茶しない、死なないという事でしょう。
「――っ!!」
それを聞き美月は再び銃を構えます。
目の前には迫る天使達。
唸り声をあげる魔物……。
そして、こちらはたったの3機……絶望的なこの状況で綾乃は生き抜こうとしています。
美月はそれを知り……逃げる訳にはいかないと考えたのです。
そして、彼女もまた戦うことを決め、再びトリガーを引きました。
狙いは遠吠えを上げ迫る触手付きの魔物。
その脳天を再び撃ち抜いた彼女は――。
「わ、私も戦うっ! だから――約束は守ってね」
「勿論! 女に二言はないよ」
それを言うなら男にではないか? と思った美月ですが、綾乃は女の子だからそれで良いのかな? とも思い黙っておきました。
そして、2機のイービルは天使と魔物を前に躍り出ます。
「ま、待て! 二人共無茶だ!!」
一人焦るのは新谷です。
ですが、そんな彼に対し答えたのは……。
「対抗できるのはあたし達なんでしょ? だから抵抗する……」
「新谷さんを見捨てるなんて、出来ません!」
美月達はそう答えると共に敵に向かっていくのでした。




