5話 慌てて追いかける悪魔乗り
男性に言い寄られる美月。
困り果てていたその時、助けてくれたのは思いがけない人物だった。
それは吉沢信乃。
普段美月へと変質的な瞳を向ける彼女の忠告を受け、頷くも美月は写真を消してもらう事を忘れていたのを口にするのだった。
美月は早く写真を消してもらいたいと思いましたが、彼女が走って行ってしまったら追いつく事は出来ません。
慌てて追いかけるも、角を曲がるともうすでに吉沢の姿はありませんでした。
嫌な予感を感じた美月でしたが、走り去っていったのだと理解し諦めるしかないと考えます。
「写真だけだし……何かに使うって言ってたけど、大丈夫だよね?」
そう呟いた彼女は目の前から別の女性が来る事に気が付きました。
彼女は美月を見つけると大きな胸を揺らし笑みを浮かべて近づいてきました。
「メイユエ!」
「リンちゃん!」
人にとってはそれほど長い距離ではありません。
ですが――。
「って、リンちゃん走ったら駄目――」
美月が注意をするももう遅く、嬉しそうなリンチュンは息を切らしながら近づいてきます。
彼女もまた魔法使い。
ミュータントの影響で体力が著しく落ちているのです。
「けほっ……げほっ」
苦しそうに咳をする彼女に近づいた美月は背中をさすってあげます。
すると無理にでも笑顔を作ったリンチュンは……。
「シェイシェイ」
と礼を告げてきました。
「今の綾乃ちゃんだったら、きっともっと怒ってるよ?」
美月の言葉を聞き、易々とその場面を想像できたのでしょう。
リンチュンは苦しそうに笑い声をあげます。
「あはは……アヤノちゃんは優しいからね」
ですが、すぐに表情を変え――。
「そう……いえ、ば……」
話し始めますが、美月は慌てて止めます。
「息を整えてからにしよう? そこに椅子があるから」
彼女を休ませる為、近くにある椅子に座ることを提案する美月。
そんな美月の言葉に頷き、リンチュンは椅子まで美月に連れられていきます。
椅子に座るとほっとしたような表情を浮かべた彼女は何度か深呼吸をしました。
「そういえば……さっき、私の事嫌いな人、笑顔でどこか行ったよ?」
リンチュンの事が嫌いな人と聞き美月は首を傾げました。
一体誰の事でしょうか?
「メイユエの事が好きみたい? 一度しか会った事無いから良く分からないけど、そんな女の人」
女の人で美月が好きでリンチュンが嫌い。
そう聞き思い浮かんだのは先程話していた吉沢です。
彼女は胸の大きな女性が嫌いだそうで、リンチュンの事もあまり好きではないらしいです。
「なんか、変な顔してた……まるでエッチなこと考えてる男の人みたいな顔」
「……へ?」
彼女の言葉を聞き、美月は固まりました。
そして、先程取られた写真は変な事に使われると確信し……。
「け、けけけけけけ」
「毛?」
狼狽する彼女に怪訝な顔で首を傾げるリンチュン。
「消してもらわないとっ!!」
美月はそう言うと先ほどリンチュンに注意をしたばっかりだというのに自身も走り出します。
「メイユエ!?」
当然リンチュンは驚きます。
「さっき注意してた!」
そして、今度は彼女が美月を止めるのですが、美月は曲がり角を曲がったところでどんっと誰かにぶつかりました。
「きゃ!?」
可愛らしい悲鳴を上げそのまま床へと倒れそうになる美月。
するとその誰かに美月は支えてくれました。
「あ、ありがとうございます」
走った距離が本当に少なかったお蔭で息も切れる事無く何とかお礼を告げる彼女。
しかし、助けてくれた誰かは何も言ってくれません。
恐る恐ると彼女が顔を見てみると――。
「みーーつーーきーー?」
「あ、あああああ!? 綾乃ちゃん!?」
そこには姫川綾乃が立っており、彼女はどうやら怒っている様です。
当然です、普段走ったら駄目と怒るのは彼女なのですから。
「何で廊下を走ってるのかな? ううん、普通の人が走るならともかく、なんで魔法使いの美月が走ってんのかな?」
「あ、あの、これには訳が……理由があって」
慌てて彼女の質問に答える美月でしたが、後ろから歩いて来たリンチュンが引きつった笑みを浮かべながら口にしました。
「話してたら急に走り出したんだよ」
「へぇ……急にね?」
リンチュンの言葉にぴしりと固まる美月。
彼女にしてみては会話中にいきなり慌てた美月が走り出したというのは正しいでしょう。
だからこそ美月は何も言えなかったのです。
「ご、ごめんなさい」
「あのね、貴方達魔法使いは体力が無いの! だから、急に走ったりしたら危ないって何度も……」
綾乃は完全にお説教モードです。
しゅんとする美月は以前のように小さな声で訴えます。
「でも、吉沢さんに写真撮られて、夜にって……」
彼女がそう言うと今度は綾乃の方がぴしりと音を立てるように固まるのでした。




