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3話 恋する悪魔乗り

 作業を終えた美月は先程聞いた守ってあげたい女の子と言うのに困り果て悶えていた。

 すると、何故か綾乃はそれを肯定し、美月は困惑する。

 どうやら彼女は熱がある様だ。

 美月は心配し部屋へと招き入れ休むように言ったのだが、彼女達は共に顔を赤くし、ベッドに倒れ込んでしまったのだった。

 その後、美月達の間には気まずい空気が流れていました。

 その理由は当然……。


 さ、さささささささささっきキスされそうになったの?

 わ、私、綾乃ちゃんと……キスしそうに……。


 美月は顔を真っ赤にし、そっと綾乃の方へと目を向けます。

 彼女も明らかに目を泳がせながら顔を真っ赤にしていました。

 それだけでは無く胸を押さえたり、唇を押さえたりするとわなわなと震えます。

 美月と目が合うとびっくりし、あわあわとし始めてました。


「あ、あああああの!」

「な、なななななに?」


 二人は慌てて声を交わします。

 ですが、先程の事を思い出すと二人して固まってしまい。

 まるで頭から湯気が出るように感じました。


「ご、ごめん、さっきはその……」

「う、ううん……」


 謝る綾乃に対し美月はそれだけ答えます。

 驚きはしました。

 ですが、まさかそんな事になるとは思いませんでしたし、同時に嫌悪感も無かったのです。

 同じ女の子だというのに美月は自分でも不思議だと思いました。

 だからと言って平然とするのは無理です。

 いえ、綾乃だからこそ無理なのです。

 美月達は暫く沈黙していましたが……。


「そ、そろそろ帰るよ」


 綾乃は今度こそしっかりと立ちあがると美月の方へと振り向かないままそう言いました。


「う、うん、また明日」


 美月は彼女の背中を見つつ若干寂しいと思いながらも分かれの言葉を告げます。

 すると綾乃は首を縦に振り部屋の外へと出て行きました。


「……ぅぅ」


 1人になった部屋で美月はベッドに横たわると枕を抱きしめます。

 そして先程の事思い出すと悶々とし……。


「ど、どうしちゃったんだろう?」


 と疑問を思い浮かべ、ゴロゴロとし始めました。

 自分の気持ちが分からなくなってしまったのです。

 綾乃は友達……それも信頼できる友人です。

 ですがいつも助けてくれるその姿はまるで騎士か勇者のようにも感じました。

 だからでしょうか? 美月が彼女に惹かれるのは……。

 でも、それは憧れであって恋愛ではないと感じました。

 なのに――。


「なんで……さっき……」


 美月の脳内に浮かんだのは先程母が訪ねてきた時の事です。

 あの時声さえかけられなかったら……。

 美月は綾乃とキスしていたでしょう。

 だというのに、美月はもう少しタイミングがずれて欲しかったと思ってしまったのです。

 倒れた直後、それかした後なら……なんて事を考え……。


「ぜ、絶対にダメ! 言えないよこんな事……」


 顔を真っ赤にし彼女は自分の考えを抑え込みました。


「きっと気持ち悪いって思われちゃう……綾乃ちゃんに嫌われるのは絶対いや……」


 そして、消え入りそうな声でそう口にしました。





 あれから悶々としていた美月はいつの間にか眠っていました。

 朝起きるとまだ頬が熱い気がし、頭もくらくらします。

 その理由は――。


「ぅぅ、昨日のあれで眠れなかったのかな?」


 美月は昨日の事を思い出すと更に頬が熱くなるように思いました。

 そして、ぶんぶんと頭を振り、朝の身支度を始めます。

 顔を洗い、櫛を通し、鏡の前で髪型を確認します。

 以前の目元迄隠すものではなく今ははっきりと顔が見えました。


「……?」


 可愛いと言われましたが見慣れた自分の顔、普通だとは思いますがそれほど可愛いとは思えません。

 ですが、それは美月自身による評価。

 周りの評価ではありません……彼女は気が付いていないだけで十分に愛らしい少女です。


「ぅぅ、綾乃ちゃんにどんな顔すれば……」


 美月はそう言うと立ちあがり、母と共に食事を取りに行きます。

 いつも通りの朝……でも、いつもと少し違った朝です。

 食事を終えると母は部屋へと戻り、家事をこなします。

 美月は整備の勉強とシュミレーターによる戦闘訓練。

 正直もはやシュミレーターに意味があるとは思えませんでした。

 何故なら同じことの繰り返しだからです。


「でも、やらないと駄目、だよね」


 そう呟いた彼女は一瞬くらりとし、ふらつきます。

 倒れる! そう考えた彼女ですが、誰かがすぐに支えてくれました。


「あ、ありがとうございます」


 慌てて礼を告げる美月の目に映ったのは――。


「いえ、このぐらい、良い匂いでしたよ?」

「ひっ!?」


 看護師吉沢信乃です。

 彼女は怪しい目つきで美月を舐めまわすように見てきます。

 当然美月は嫌悪感を感じるのですが――。

 すぐに吉沢は首を傾げました。


「どこか、具合でも?」

「え? あ……」


 突然真面目な事を言われ美月は思わず口をパクパクさせるのですが、吉沢はすぐに表情を崩し。


「ああ、その顔も愛らしいです」


 スマホを取り出します。

 それを見て、美月は大慌てで振り返り……。


「い、急いでるので!」


 と早足でその場を去るのでした。

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