80話 悪魔乗りになった少女
魔物の実験は過去にも行われていた。
だが、成功した例は無いそうだ。
しかし、政府はそれに目を付け情報を提供するように研究者に告げた。
だが、その研究者は自ら命を絶ったという事だ。
そして、今現在彼らは何らかの情報を得たのか、それとも初めからなのか?
魔物の研究をし、司の見解では次の襲撃に実践投入をするのだろうという事だ。
そして、美月の謹慎は解かれ……綾乃と二人でいざという時、天使と魔物を討伐せよと告げられるのだった。
司令官の部屋から出た美月達は食堂で食事を取ります。
そこではやはりあのニュースが流れており……。
視線は美月の元へと向けられました。
「ぅぅ……」
美月は俯き、じっとしていました。
すると……。
「なぁ……」
1人の男性が話しかけてきました。
美月には彼が誰だかわかりませんでしたが……。
彼は心配そうな表情を浮かべています。
「お前さんは大丈夫だよな? あの政府の実験何かに巻き込まれないよな?」
「え…………え、えっと……」
どうやら美月の事を心配してくれてるみたいです。
「どうなんだよ? お前さんしか居ないだろ? ジャンヌ動かせるのさ……」
「父さんは守ってくれるって約束してくれてる」
綾乃は美月の代わりに答えます。
するとほっとしたような表情を浮かべた彼は……。
「そうか、なら良いんだ……お前達は俺達の希望だからな」
そう言い残すと美月達の元から去って行きます。
「…………」
美月は彼を視線で追って行くと、綾乃は美月の手を握って来ました。
「綾乃ちゃん?」
首を傾げて彼女の方を見ると……綾乃は笑みを浮かべていました。
「良かったじゃん! やっぱり、ああいう人もいるんだよ。まともな人って言うかさ……ね?」
「うんっ!」
彼女の言葉と彼の態度に美月は救われた気持ちになりました。
そして……彼女の中で元からあった感情が膨れ上がります。
誰かを助けたい……以前は忘れかけていたその感情はしっかりと彼女の中に根を張っていました。
それは何時しか化け物と呼ばれたくない。
そんな感情に変わっていました……ですが、以前それに気が付き、美月は徐々にではありますが……。
変わっていこうと考えました。
そして、先程の男性……彼の言葉にも背中を押してもらえたような気がしたのです。
「……そう、だよね…………」
小さく小さくつぶやいた声は綾乃にも聞こえませんでした。
ですが、美月は続きの言葉を心の中で呟きます。
ジャンヌダルクを動かせるのは私だけ……だから、あの子に乗って誰かを助けられるのも私。
今はナルカミや斉天大聖……パラケラススも居る、けど――!
ジャンヌには私しかいないんだ。
美月は自身の乗る機体の事を思い出し、あの鋼鉄の機械の中にある暖かさを思い出します。
きっとあれは自分が選ばれたという証なんだと思い、彼女は……もう二度とジャンヌから逃げないと誓うのでした。
「美月?」
そんな彼女の事を心配する声が聞こえます。
ですが、美月は綾乃の方へと向くと笑みを浮かべ……。
「大丈夫」
と答えるのでした。
すると、何処かほっとしたかのような表情を浮かべた綾乃は……。
「じゃ、ご飯、食べよっか!」
「うん」
出てきた食事はドイツで食べた物と比べるとかなり質素です。
ですが、日本では紛れもなく豪華な食事。
口へと運ぶと味は薄く、量も少ない。
それでも美月達は文句は言わず、会話をしつつ食事を楽しみました。
もし、この世界に天使が攻めてこなかったら……。
誰もがそう思う世界の中、彼女達は必死に生きていました。
だからこそ、今回の政府の決定は……施設に居る殆どの人間が納得していませんでした。
やっと天使への反撃の手段が見つかった。
しかし、それを自ら喰いつぶそうとしているのですから当然です。
ですが、そうは思わない者も多く居ます。
それは……ゆっくりとではありましたが、美月達魔法使いの首を絞めていきます。
「………………」
彼女達から離れた席。
そこに座っていた男性は舌打ちをしながら美月達を睨みます。
いえ、正確には美月だけを睨んで居るのでしょう。
彼は徐に立ちあがると空になった食器を乱暴に扱い返すと部屋から去って行きました。
彼の後を追う者も居ました……。
ですが、美月達は数多くいる食堂の中で彼らに気が付く事は無く……。
偶々近くを通りかかった時に耳にしました。
「とっとと消え失せろ化け物め……」
その声は美月にははっきりと聞えていました。
そして、当然その近くに居た少女綾乃にも……。
「ちょっと!!」
彼女は溜まらずに立ちあがると……彼を睨みます。
ですが、美月は慌てて綾乃の服を引っ張りました。
「美月……?」
不安です、怖いです……化け物と呼ばれるのを恐れていた少女は……。
震える声で綾乃に言いました。
「大丈夫だから……だって、皆が……」
以前一人の時に言われたのとは違います。
今は此処にも美月を心配してくれる人が居るという事を知りました。
だからこそ、彼女は――。
「居るから……綾乃ちゃんも居てくれるから……」
そう伝えると、男は舌打ちをし……。
綾乃は大きく溜息をつくと、座ります。
そして――。
「こっそり虐めるなんて男として情けなー……」
ハンカチを取り出すと美月の涙をぬぐいそう言うのでした。
すると男達はカチンときたのでしょう、戻ってきましたが……。
「何かあったのか? そんなおっかない顔して」
そう言ったのは先程美月を心配してくれた男性です。
「な、何って……」
「ここは食事処だ。折角の飯がまずかったのか? だけど味に文句は言うなよ」
そう言うと面倒になったのでしょう男はもう一度舌打ちをすると去って行きます。
一方、彼は大げさな態度で首を振ると……。
「……悪魔乗りが居なきゃ今頃人類は滅んでる、な?」
と言いつつ美月達へと目を向けはにかむのでした。
美月はその笑みを見て……やはり先ほどの考えは間違いではないと感じるのでした。




